クリティカルシンキングを用いたリハビリテーション戦略

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クリティカルシンキングを用いたリハビリテーション戦略

クリティカルシンキングとは何か?

クリティカル・シンキングとは

あらゆる物事の問題を特定して、適切に分析することによって最適解に辿り着くための思考方法である

『wikipedia』より引用

クリティカル・シンキングは直訳すると、『批判的思考』となりますが、これは単に‟批判的に物事を捉え思考する”という意味ではありません。

クリティカル・シンキングというのは、自分の考えた論理や思考に対して内省し、反証するべき点はないかと考えることでバイアスを含まないようゼロベースで思考を進めることです。

そして、このクリティカルシンキングは私達リハビリテーションセラピストにとってとても必要かつ重要な思考方法なのです。

なぜならば、私たち理学療法士や作業療法士は日々臨床を行っていく上で常に思考することを求められるからです。

その際、このクリティカルシンキングは非常に重要な意味を持っていて、臨床推論やカンファレンス、症例発表会など他者と議論する場合においても、クリティカルシンキング的な発想がなければ、良いアウトプットが出ないことも多々あります。

クリティカルシンキングを活用することで身に付く思考力

臨床において、クリティカルシンキングを活用し思考することで以下の項目を身につけることが出来ます。

  • 論理的に思考する癖が身に付く
  • 自分の思考に対して立ち止まり反証可能性はないかと考える癖が身に付く
  • バイアスを含まないよう思考する癖が身に付く
  • 他者が話している時の論理の飛躍に気づきやすくなる

クリティカルシンキングは、自分の思考に対して『本当にこれで大丈夫?』『他には考えられない?』というような『問い』を自分自身に向けるため、これまで『これでいっか』と思考にストップをかけていたところから、さらに掘り下げて考えることを行っていきます。

そのため、この思考法が癖付くと常に物事を深く広い視野で考えることができ、さらには他者が話している時の内容においても『あれ?』と、文脈のズレ論理の飛躍に気づくようになります。

すると、自然と質問や意見もスラスラ浮かぶようになるため、症例発表やカンファレンスなど、これまで議論に参加できていなかった人でも、自分の意見をきちんと持つことが可能となります。

クリティカルシンキングの3つの原則

とはいうものの、実はクリティカルシンキングはそう易々と体得できるものではありません。

なぜならば、自分の思考に対して批判的に吟味する必要があるからです。

人は誰しも、自分が考えたものに対してはあまり否定的に捉えたくはないものです。

そのため、少しでも自分の考えを否定するような情報が見つかったときは、そういった(自分にとって)ネガティブ情報は見ないふりをする一方、自分の考えを肯定する情報に関しては沢山取りに行きがちで、これにより自分自身の考えを強化する思考に陥りがちになってしまいます。

これを『確証バイアス』と言います。

クリティカルシンキングは、その自分自身の思考の癖に対して切り込んでいくため、批判的吟味が慣れていない人ほど苦労する事が多いです。

しかし、その分習得することが出来れば、自分の考えに強い説得力が生まれることも事実であるため、臨床推論などで論理的思考が必須の私達にとっては、必ず身につけておきたい思考方法であると僕は感じています。

では、クリティカルシンキングを行う上で意識しておきたいポイントを3つ挙げたいと思います。

それが、こちら。

クリティカルシンキングのポイント
  1. 目的を抑える
  2. 思考の癖を意識する
  3. 問い続ける

クリティカルシンキングのポイント① 目的を抑える

臨床推論を行っていく上でも、チームで行うカンファレンスにおいても同じ事が言えますが、何かを考える際には必ず、『今、何について考えているのか』を最初に明確にしておく必要があります。

なぜ、最初に考えるべきことを明確にしなければならないのか

それは、話し合いの中で出てきたインパクトのある一部分の情報のみに注視してしまったり、本来解決しなければならない内容を置き去りにして重要そうなFact(事実)をあちこち検討してしまい、結局その話し合いが不毛の会議になるといったことが起こる場合があるからです。

例を通してみていきましょう。

例えば、テーマを『脳卒中片麻痺により分廻し歩行が生じる原因は何か?』としている場合、本来であればそれに紐づくFact(事実)を集めて、何らかの仮説を複数考えます。

ところが、テーマが明確になっていない場合よくあるのは、特にカンファレンスや会議の際に参加者が個々の気になる情報を議論の場に放り込むことで、その情報に議論が流れてしまう事です。

最悪の場合、下図のようにこの時出てきた情報によって本来のテーマがすり替わるなんて事もよく起こったりします。

このような状態になってしまうと、本来解決しなければならなかったテーマはもはや誰も覚えていません。

ですから、議論をする場合などは、まずは参加者全員が【テーマを共有する】ということをしなければなりません。

また、ここで押さえておきたい点が1つありそれは、放り込まれたそれぞれの情報自体は非常に重要なFactであるという点です。

この例でいくならばテーマが『脳卒中片麻痺により分廻し歩行が生じる原因は何か?』で放り込まれたFactが『半側空間無視』や『失行』があった場合。

これら『半側空間無視』や『失行』は、その対象者にとって、とても大切な1つの病態であることに変わりはないのですが、今回のテーマとの結びつきを考える中で、構成要素として入らなそうな場合(今回はそのように仮定します)は一旦議論から外すのも大事になってきます。

そうでなければ、議論があちこち飛ぶからです。

しかし、繰り返しになりますが、もちろん重要であることには変わりないので、他の病態解釈の場面では考える要素として持っておく必要はあります。

このように、考えなければならない目的が共有できていないと、インパクトの強いFact(半側空間無視や失行)に議論が流されてしまい、結局この場で本来何を解決したかったのかが分からず、何も解決しないまま議論が終えるなんてことが起こってしまいます。

そのため、これらを防ぐ為にも、まずはやはり『考えたい事』ではなくて『考えるべきこと』を明確にしてから議論を展開する必要があります。

また、臨床推論を行っていく際にもこの考えは非常に大切です。

というのも、臨床推論がうまく行えない人の一つの特徴として『情報を集めすぎる』というものがあるからです。

自分が何に対して着目してアプローチしたいのかが明確になっていないために、重要そうなFactを手あたり次第集めてしまい、結果情報過多となって頭の中がフリーズしてしまうのです。

そのようにならないために、まずは前提として必ず先に『テーマを明確化すること』これがクリティカルシンキングを行うための第一歩です。

目的(テーマ)を抑えるという部分は、ケースノートを作成するときにおいても非常に重要な点になります。ケースノートの作成手順については以下の記事にまとめているので、ご興味ある方はご覧ください。

クリティカルシンキングのポイント② 思考の癖を意識する

私達は、基本的に何らかの前提をもって会話をしていることが多いです。

例えば、あなたは新人理学療法士で、ある時カンファレンスで先輩PTが「あの患者さんにはAという方法でいこう」と、あなたに言ってきました。

これはよくあるワンシーンですが、この時考えなければならないことがあります。

それは、この先輩PTは‟方法論Aに誘導しようとしているのではないか?”ということです。

人は誰でも思考の癖というのがあって、過去の経験や学んできたことから無意識に自分の好きな方や得意とする方に意思決定してしまう事が大いにあります。

例えば、その病院自体がAという手法を推奨しているのか、はたまたその先輩がAという手法を昔から学んできて、「この方法が1番だ」と思い込んでいる可能性があったりします。

その場合、結果として方法論B・Cなどを吟味することなく最初から『A』だけしか選択肢に上がってこないため、仮にその患者さんに最も適した方法論が『B』という方法であったとしてもその案が出ることなく話し合いが終わってしまいます。

ただ、もしその場面で『本当にそれで大丈夫?』『もっといい方法ない?』と、このような思考をその場の誰かが持っていれば、バイアスのかかった意思決定から脱却できたかもしれません。

このように、人には必ず何らかの前提(癖)をもって思考していることが多いため、そこに対して疑いをかけるというアクションはとても重要になってきます。

同様に、これは自分自身の臨床推論においても同じことが言えます。

臨床推論を行っていく際に…

『自分は(無意識に)いつもこの視点を中心に考えている』

というように、自分の思考の癖に気づくことは臨床推論の幅を広げるためにも非常に重要な手続きになると思います。

クリティカルシンキングのポイント③ 問い続ける

これに関しては、もうそのままの意味で、一度結論づけたことに関しても常に『なぜ?』と再度問う姿勢を持っておく必要があるということです。

自分の考えに対して、『問い』を立て続けることで、より洗練された自分なりの答えを導きだすことが出来ます。

また、この『問い』というのは、自分の偏った思考から抜け出す合言葉にもなるため、必ず心がけておきたいところです。

ちなみにこの『問い』の言葉にはいくつか種類があるため、各シーンに合わせて使ってみてください。

問いの種類
  • 「So what?」:だから何(その意味合いは)?
  • 「Why?」:なぜそう言えるの?
  • 「True?」:本当に?他に考えられることは?

クリティカルシンキングのポイントまとめ

以上がクリティカルシンキングの概要とそのポイントです。

改めて臨床推論をはじめ、考える際に大切なポイントをまとめておきたいと思います。

クリティカルシンキングのポイント
  1. 目的を抑える
  2. 思考の癖を意識する
  3. 問い続ける

繰り返しですが、クリティカルシンキングは私たちリハビリテーションセラピストにはとても重要な思考方法であるため、是非この機会に取り入れてもらえたらと思います。

臨床推論のトレーニングをしたい方へ

また、このような臨床推論プロセスについて体系的に学べるコラムをオンラインサロン『はじまりのまち』というところで作成しています。

ご興味ある方は、こちらもチェックしてみてください!

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