新人セラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)とリハビリ学生を応援するためのブログ

‟感覚障害”とは何か~従来の感覚の捉え方を考え直す~

スポンサーリンク

こんにちわ!きんたろーブログ(@kintaroblog)です!(^^)!

 

「感覚障害」

これは、セラピストならば誰もが一度は携わり、そして難渋する病態の一つではないでしょうか。

‟感覚障害”とその捉え方を考える

感覚障害とは?

私達は、当たり前のように目で見えるものを感じ、色や形、物体や他者がどこにいるのかが瞬時に分かります。

 

同じように耳では音を、鼻では臭いを感じます。

 

そして手や足では、触れられるもの全てをその手足で感じることが出来ます。

 

しかし、このように正常に働いてくれている感覚機能に一度障害が生じると…

 

✅「触っても何も感じない。」

✅「自分の身体がどこにあるか分からない。」

✅「仰向けで寝ているだけなのに、右(左)半分(麻痺側)が何も触れてない感じがしてベッドから落っこちてしまいそうで怖い」

✅「手足が痺れて夜も眠れない」

 

これらは、僕がかつて担当した感覚障害を有する患者様が実際に口にしていたもので、あくまで一部ですが、感覚障害を患うとこのような経験をするのです。

 

同時に、この事から言える感覚障害の一番のポイントは、セラピストの目には見えない点です。

 

運動麻痺とは違い、障害の程度が他者から見ると分かりづらいため本人以外は中々その症状の重大さに気づきが生まれにくいのです。

 

ただ、一方で感覚障害を有している本人にとっては上記で述べたように、想像を絶する恐怖や嫌悪感を感じる体験をしていることから、感覚障害は目には見えづらいものの、当事者にとっては重大な障害の一つになるのです。

 

『感覚』のメカニズム

では、そもそも感覚とは一体どんな風に始まって、どこで感じるものなのでしょうか?

 

何となく、『感覚』と言えば…

 

末梢組織(筋-骨格・目・耳・鼻など)の効果器が何らかの刺激を受けて、その刺激が脊髄視床路を通し大脳皮質に投射されることによって『感じる』と認識されるのが一般的な『感覚』の考え方だと思います。

 

しかし実は、この一般的な『感覚』の捉え方を少し覆す知見が存在しています。

 

それを、いくつかのつケースを通してご紹介します。

 

これらの知見は、今後の感覚障害のリハビリテーションにおいても重要な考え方の一つになると思われるため、参考にしていただけたら幸いです。

ケースその1「感覚を持つ義手~患者ジェシー~」

これは、アメリカのリハビリテーション医であるドット・クイケン氏がTEDでお話しされていた内容です。

※日本語の字幕がある動画もあります。YouTubeからではなく、Webで『トッド・クイケン』と検索してください。

 

トッド・クイケン氏は何をされている人かというと、リハビリテーション医として主に交通事故や先天性四肢欠損になられた方々の義手などを研究開発されています。

 

あるとき、クイケン氏の患者様でジェシー・サリヴァンという方がいました。

 

彼は、仕事で架線作業中に電線を誤って触れてしまい、両手に重度の火傷を負いました。

 

それにより両肩から先を切断することとなったのです。

そして、クイケン氏の元で義手を作成したそうなのですが、数か月後ある時ジェシーは失っているはずの手を『胸』感じ始めたのです。

 

具体的には…(失ったはずの)親指や小指、1gほどの小さな力でも感じ、さらには熱さや、冷たさ、鋭さ、鈍さまでもが胸で感じられるようになったのです。

勿論、切断された『手』がそこにあるわけではありません。

 

しかし、小指や親指といった物理的に無いはずの指の感覚は明らかに胸に存在していたのです。

 

さて、これが何を意味しているか分かりますか?

 

先程、『感覚』とは一般的に末梢の効果器に何らかの刺激が入り、大脳皮質に投射されることで“感じる”と述べました。

 

 

しかし、ジェシーは『手』という物理的な感覚受容器がないにも関わらず、部位の弁別(小指.親指)に加え、温度や圧刺激などの弁別も可能としているほど、自身の『手』を鮮明に感じているのです。

 

つまり、この時点で定説である末梢受容器(今回であれば‟手”)に刺激が入ることで同部位(手)の感覚が生じるというのは覆されることになります。

 

ケースその2 失った手が顔にある~Ramachandranの研究~

次に紹介するのは、先程のジェシーに生じた現象とすごく似ている結果を示したRamachandranの研究です。

 

Ramachandranは、左腕を失っている切断患者を閉眼させ、綿棒を用いてその方の頬に触れ、「どんな感じ?」と問いかけました。

 

すると、切断患者は頬を触られている感じ以外に…

 

患者
左指にも触られている感じがする

と答えたのです。

 

さらに、触れる場所を変えると次は…

 

患者
親指

と、これもまた極めて明確に答えたのです。

スポンサーリンク

 

同様に続けていくと上唇を『示指』、下顎は『小指』というふうに答えました。

 

すると、だんだんと顔に失ったはずの左手の形が浮かび上がってきたのです。

※実際に手が浮かんでくるのではなく、顔に感じるものを浮かび上がらせると『左手』の形になっていたということです。

 

さて、この現象についての考察は後ほど行っていきます。

 

ケースその3 身体図式の再編成~Ponsの研究~

【Ponsの研究】

Ponsらは、Ramachandranの研究で生じた現象をサルを用いて研究しました。

 

実施方法は、サルの片方の腕から脊髄神経を切断し、故意的に麻痺状態をつくりました。

 

そして、その11年経過後に脳内の体性感覚の身体地図を記録したのです。

 

結果は…

 

はじめに『麻痺した腕』に刺激を行いましたが、脊髄神経を遮断されているので当然脳内の『手の領域に対応した体性感覚野』は活動しませんでした。

 

しかし…

 

顔面に刺激を入れると脳内の『手』の体性感覚領域が活動したのです。

 

さて、この結果は何を意味しているでしょうか。

 

先程のRamachandranの研究も含めて考察すると、この結果は、脳内の身体図式がダイナミックに変化しているということを示しています。

 

私達の脳は、物理的な身体に変化が生じると、その変化に対応するように脳自体も変化しているのです。

 

感覚は『刺激-反応理論』ではない~Penfieldの研究~

Penfieldといえば、脳内のホムンクルスを発見したことで有名な方ですが、具体的にどんなことをして発見したかというと…

 

てんかん患者の大脳皮質へ直接電気刺激を行い、その時の刺激部位によってどの身体部位が『動いたか』、刺激部位により患者がどの身体部位を刺激されたと『感じる』かというのを記録していったのです。

 

ただ、ここでお伝えする一番のポイントは『ホムンクルスを発見した』ことではなく…

 

末梢組織(筋-骨格)といわれる効果器に刺激がなくとも、大脳皮質に刺激が加われば感覚が生じるという点です。

 

 

つまり、これらジェシー・Ramachandran・Pons・penfieldの現象・研究結果を解釈すると…

 

➪人が“感じる”というイベント(知覚体験)は、必ずしも効果器を介して生じるわけではなく、脳の中の身体図式の状況に基づいて生まれる可能性を示唆している。(トップダウン的な要素)

 

ということが言えます。

 

※四肢受容器からの入力がなくても大脳皮質が賦活すれば知覚体験は起こせる

 

感覚障害に対する考え方

それでは、ここまでの知見を含めて、感覚障害に対するリハビリテーションを考えていこうと思います。

 

私たちは、感覚障害を有する方のリハビリを行う際に『感覚フィードバック訓練』と題し効果器に対して刺激を入れる手続きを踏みます。

 

その手続きを行う理由は…

 

『感覚は効果器を介してでないと促通されない』

 

という固定観念があるからではないでしょうか。

 

しかし、これまで見てきたケース・研究結果から考えると、促通を図りたい効果器(例えば上肢)に刺激を加え続けても、それに対応する体性感覚領域は活動しない場合があるようです。

 

つまり、『感覚』というのは効果器からのボトムアップ的な要素に加え、脳内の身体図式に左右されるトップダウン的なものである可能性があります。

 

方法論としては、brain machine interface(BMI)を用いて、大脳皮質に直接刺激を入れるという手続きが挙げられます。

 

しかし、この方法は実際の臨床だと中々用いることは難しいため、現在多くの研究で感覚障害に対してとられているapproachとしては、弁別課題などが挙げられています。

 

これは、従来のように、セラピストが一方的に末梢組織に刺激を入れる(ボトムアップ的課題)のではなく、本人に思考させ、素材の識別などの課題(トップダウン的課題)を行うことで、大脳皮質自体の身体図式の再編成を図ろうとする手続きです。

 

これらの研究についての記事は別に書いていきたいと思います。

最後に

『感覚障害』という壁は個人的にはとても高い壁だと思っていて、毎回『難しいなあ…』と頭を抱えています。

 

しかし、治らないと諦めてしまえばこの先『感覚障害』を抱える患者様に出会う度に敗北を喫することになるわけで…

 

だからこそ、諦めず対峙し続けていこうと思っています。

 

「妻や孫を抱きしめる感触をもう一度味わいたい。」

 

私達からしたら本当に他愛もない事かもしれませんが、患者様の中にはこういった当たり前のことを心から願っています。

 

私達が普段何気なく当たり前のように動かしている自分の身体、意識せず当たり前に感じる事のできる身体。

 

単純そうに見えて、いざこのような機能が止まってしまうと初めて当たり前に出来ていたことのありがたさに気づきます。

 

“感覚障害”

 

とてつもなく大きな壁ですが、これからもこの怪物に挑みたいと思います。

 

ちなみに、今回は感覚障害を脳からトップダウン的に変えられるという示唆の内容でしたが、感覚障害に対するボトムアップ的な介入の記事も書いています。

こちらに書いてますので、気になる方はどうぞ(^^)

☆合わせて読みたい☆

感覚障害に対するリハビリテーション戦略

 

スポンサーリンク