こんにちわ!きんたろーブログ(@kintaroblog)です!(^^)!
運動イメージを行うことで脳内(前頭葉)にて構築される運動プログラムを顕在化させ、脳内身体図式の変容を防ぐことや、片麻痺治療に対しても大きな役割を担っています。
そこで今回は、先日の運動イメージを実際の臨床場面と重ねながらより具体的な活用方法をご紹介できればと思います。
※しかし、今回は「疼痛」ではなく片麻痺患者様の痙性麻痺に対しての訓練にて活用している例です。
それでは、よろしくお願い致します。
片麻痺に対する運動イメージを用いた治療戦略
症例紹介
ケース①
疾患名:右被殻出血(左片麻痺)
特徴:痙性が強い。特に立ち上がり動作の際の麻痺側足関節のクローヌスと歩行時の分廻し歩行が著明に出現。
人物像:自身の麻痺側身体に対してはあまり関心を向けることがなく、動作も非麻痺側を優位に利用した動作パターンが定着している。
では、会話のやり取りを少しご紹介します。
Th:「立ったり座ったりするとき何か気になっているところはありますか?」
C:「特に困っていることはないよ。右側でどうにでもなるから」
Th:「立つとき足がガクガクなっているのは気づいてますか?」
C:「気づいてるよ。でもどうしようもないよこれは。力入れても止まらんし」
仮説組み立て作業
Th:「Aさんは立ち上がる時に何を一番意識していますか?」
C:「良い方の足でしっかり踏ん張ることと、こっち(麻痺側)はとにかく膝を伸ばすこと」
➪本人の志向性は非麻痺側と、麻痺側の膝に対して強い意識が向いていることが分かります。
そこで、本人の言語記述、人物像をふまえ以下の二つを仮説として挙げました
①非麻痺側の過剰努力による麻痺側への連合反応の増強
②足関節に対する運動イメージの消失
①非麻痺側の過剰努力による麻痺側への連合反応の増強
連合反応は、非麻痺側の過剰収縮を行うことによって、麻痺側に筋収縮がオーバーフローする現象で、非麻痺側優位な動作を繰り返すことによって、麻痺側は制御できない筋収縮を強いられることになります。
それにより、麻痺側は共同運動パターンが強くなり結果、痙性麻痺も強くなっていくことが考えられます。
Aさんも、麻痺側では中々動作がうまく遂行できないことを自分が知っているために非麻痺側を利用しながら常に動作を行っていました。
その結果、麻痺側には常に連合反応が生じ筋緊張が増強していました。
②足関節に対する運動イメージの消失
これを思ったのは立ち上がりを行う際にAさんのこの発言でした。
「良い方の足でしっかり踏ん張ることと、こっち(麻痺側)はとにかく膝を伸ばすこと」
Aさんは立ち上がりの際にクローヌスが出現している足関節ではなく常に膝に注意が向いていました。
足関節に全く注意が向かない結果、適切な足関節の運動イメージが行えず、制御不能なクローヌスが露呈しているのではないかと考えました。
また痙性が増強するもう一つの理由として、Aさんは立ち上がりの際に、「膝を伸ばす」といったように、常に筋出力を出すことを考えて動作を行っていました。
運動のバリエーションが少ないAさんが、運動のみを行おうとすると尚更共同運動パターンが亢進していくことになります。
ですのでAさんの治療戦略としてのポイントは
立ちあがり動作に関する麻痺側の運動イメージを根本から改変する必要があるのではないかと思いました。
つまり、立つときに「膝を伸ばす」という出力に念を置いたイメージそのものを変化させる。
ということです。
またその膝にある運動イメージを足関節に移行させることでもしかしたらクローヌス自体も軽減するのではないかという仮説を立てました。
※運動イメージを足関節に移行したらクローヌスが消失するかもしれない。と思った理由は後ほど言います。
検証作業(訓練)
麻痺側足底の下に母指ほどの大きさの「おはじき」を置く。
Aさんには健常者の足底部を9分割した写真を手渡す。
Aさん本人の麻痺側足底の下に僕がおはじきを置き、Aさんにどの位置に入っているかを当ててもらう。
※その際、置く前に
「2番に置いた時の感触ってどんな感じがすると思いますか?」
「立ち上がる時は何番に一番圧が加わると思いますか?」
などなど、Aさんには麻痺側足部に対して常時注意を向けなければならないような課題を要求し、実際におはじきを置いた時も、イメージした感触と同じだったかどうか。
または、立ち上がる時にAさんは1番に最も圧が加わると思っていのに、実際に行うと3番であったなどの誤差が生じました。
それから、何度か質問を繰り返しイメージと実際の感覚フィードバックをすり合わせていったところ
「踵がつきそう」
「親指(母趾)がまっすぐなりそう」※クローイングの軽減
といった発言がみられ始めました。
こういった内部変化が見られたため、もう一度立ち上がりを行ってもらったところ、足関節のクローヌスの消失がみられ、Aさんも驚きの表情と感想を述べられていました。
以上のことは、一番うまくいったときの例であり、大前提としてAさんは感覚障害自体が重度ではなく、おはじきが何番に入っているかという麻痺側足底部の知覚細分化というものが行えていたから、この検証(訓練)が行えたという背景があります。
しかし、ほとんどの片麻痺の患者様では、この知覚細分化というのが本当にできなくて
「触れられるまでなら分かるけど、ざっくり踵の方かつま先の方くらいしか分からない」
と言われる方がすごく多いです。
このような方に分かるまで何度も「わかりますか?」と聞き続けてしまっては患者様の精神的苦痛が溜まるばかりでなく訓練に対しても不快感が生じてしまう可能性があります。
ですので、本人にとっての難易度調整というのは非常にシビアに考えていかなければならないと思います。
さて、では本題に戻りますが
なぜ立ち上がり動作でクローヌスが消失したのでしょうか。
ではいよいよ、仮説-検証作業の後の理論的解釈です。
理論的解釈
まず、今回Aさんの人物像として「麻痺側に無関心でなおかつ非麻痺側で強引に動作を行う」という性格的側面がありました。
また加えて言語記述を観察しても
「特に困っていることはないよ。右側でどうにでもなるから」
「良い方の足でしっかり踏ん張ること」
といったような発言があることから、上記の事が言えるのではないかと判断しました。
また、立ち上がりの際に足関節クローヌスが出現していましたが、これは立ち上がりの際に痙性麻痺により下腿三頭筋の伸張反射が亢進して生じている現象です。
伸張反射のおさらい
伸張反射とは
「筋が受動的に引き伸ばされると、その筋が収縮する反射」
であり、本来健常であればこの伸張反射が亢進することはありません。
その理由としては、
上位中枢(脳)から脊髄反射ループ(Ⅰa-α)に対して伸張反射が亢進しないように抑制をかけているからです。
これをシナプス前抑制といいます。
私達はこの神経機序が働いているため、適度な筋緊張を保てているのです。
ここで、単純な手首の随意運動を行っている際に「シナプス前抑制」がどの程度働いてるかを調べた研究を紹介します。
研究の結果、手首を能動的に動かしている最中、手首周辺の皮膚から脊髄への感覚入力が抑制されていることが分かりました。
また、この抑制自体が手首の運動を開始する前から認められたことから、大脳皮質といった上位中枢がその抑制を担っていることがわかりました。シナプス前抑制の機能的意義を解明 関 和彦
これがシナプス前抑制です。
しかし、脳血管疾患に陥ると上位中枢(脳)が損傷されてしまうため、脊髄反射ループに抑制がかからない状態になるのです
つまり、脊髄反射ループは抑制が外れるので伸張反射が亢進するといった現象が起きるのです。
痙性麻痺やクローヌスというのはこの伸張反射が過度に亢進した状態です。
つまり、痙性麻痺やクローヌスを軽減するためには上位中枢(脳)からのシナプス前抑制を再びかけられるような手続きを踏む訓練が必要になってくるのです。
ではどういった手続きを踏めばシナプス前抑制がかかるのでしょうか。
その答えが今回利用した運動イメージなのですが、次回この続きから書いていきたいと思います。