【オステオパシーのエビデンス】内臓オステオパシーの信頼性と効果:システマティックレビュー

この記事では、内臓に対するオステオパシーの信頼性とその効果の有無について、海外の知見を参考に解説していきます。

現在、整体院等でオステオパシーを手技として用いている方はぜひ最後までご覧ください。

目次

【オステオパシーのエビデンス】内臓オステオパシーの信頼性と効果:システマティックレビュー

内臓オステオパシーの信頼性と効果を示さなければならない理由

まず、今回『内臓オステオパシー』に関しての有効性とその効果をきちんと示さなければいけないと思った背景を説明すると…

実は、この手技は一部の国で禁止されているにも関わらず、本邦では整体院等で当たり前のように行われているというのがその一つです。(決して内臓オステオパシーを批判しているわけではありません)

ここで、言いたいことは…

『内臓オステオパシー』の手技そのものが一部の地域で禁止されているということは、それだけこの手技に少なからずリスクを孕んでいる可能性があるからです。

だからこそ、お客様に対して安心・安全に手技を提供するために、手技を実施する施術者がきちんと科学的な根拠といった部分も理解した上で提供できたら素敵だなぁと僕は考えています。

オステオパシー治療を受ける全患者の中で、内臓オステオパシーを受ける人の数は1%〜95%までと大きな差があります。内臓オステオパシーの指導が禁止されている国(例えばフランス)があるにもかかわらず、WHOは2010年にオステオパシーの中に内臓テクニックを組み入れました。しかし、より一般的に医療制度の中へ本手技を導入するには、安全性、有効性、品質保証の厳密な証明が必要です。この基準を満たすためには、施術者の診断技術や治療法そのものが、信頼性と有効性の両方を備えていることが示されなければなりません。

Reliability of diagnosis and clinical efficacy of visceral osteopathy: a systematic review.Guillaud A,2018より引用

内臓オステオパシーの理論には現状根拠がない

内臓オステオパシーは、1980年代にフランスのオステオパスであるジャック・ワイシェンクによって創設されました。

創設者が提唱した理論によると、内臓オステオパシーは基本的に腹腔内臓器に焦点を当てています。(Guillaud A,2018)

腹腔内の内臓は、例えば呼吸によって自然に動くという観察からスタートし、関節の可動性が妨げられるのと同じように、内臓の可動性が妨げられる可能性があると彼らは主張しています。

Reliability of diagnosis and clinical efficacy of visceral osteopathy: a systematic review.Guillaud A,2018より引用

内臓系オステオパシーは、これら可動性障害を触診によって発見しマニピュレーションによって治療することを提案しています。

ところが、現在に至るまで内臓オステオパシーに利用されている理論的側面(内臓の可動性障害)は、科学的根拠を得るに至っていません。さらに、内臓オステオパシーで使用される診断技術の検査者内および検査者間の信頼性の証拠についてを調査したシステマティックレビューというのも存在していません。

そこで、これから内臓オステオパシーに関してのはじめてのシステマティックレビューとなる以下の論文をもとに、内臓オステオパシーの信頼性とその効果について明らかにしていこうと思います。

参考文献

Reliability of diagnosis and clinical efficacy of visceral osteopathy: a systematic review.Guillaud A,2018

“内臓オステオパシーの診断の信頼性と臨床効果:システマティックレビュー”

内臓オステオパシー関連の論文を総集めしたレビューの結果

レビューした論文

このシステマティック・レビューに関する取り込み基準を以下に示します。

取り込み基準
  • 内臓オステオパシーを実施した場合に、少なくとも2名の評価者を含む評価者間の信頼性と、同じ評価者による少なくとも2回の評価を含む評価者内信頼性を示した研究のみを対象とした。
  • ヒト(健常者または不健康な被験者)を対象とした研究のみを採用した。
  • 評価対象とした介入に関しては、過去の内臓オステオパシーの文献に記載されている方法、または論文著者が「内臓オステオパシーである」と主張する技術に関するすべての研究を対象とした。

【結果①】手技の“信頼性”についての結果

取り込み基準や除外基準をベースに検索を行った結果、455件の論文が見つかり、このうち8件が取り込み基準に達していました。

レビューした結論をざっくりいうと、いずれの研究全てにおいて『バイアスリスクが非常に高い』ということが判明しました。

ここでいうバイアスリスクとは…

  1. 内臓オステオパシー手技を実行する人(検者者)をランダムに振り分けていない
  2. 参加者グループを盲検化していない

この2つの点が大きく引っかかりました。

盲検化って

『盲検化』とは、臨床試験における検査者が、参加者がどの治療群に割り当てられたかを把握できなくするための処理のこと。

この2つのバイアスによって結果に歪みが生じている可能性があることから、このレビュー結果だけでは手技に信頼性があるとは言えませんでした。

【結果②】手技の“効果”についての結果

内臓オステオパシーの効果に関する論文は、1413件の論文が見つかり、そのうち、6件が採用基準に達していました。

一般的に研究論文で「◯◯治療が有効である」というための条件としては…

  1. 対象者がランダム割り付けされているか?
  2. 比較対象があるか?(ex:プラセボ群など)

厳密には、これ以外にも条件はありますが少なくともこの2つは研究デザインとして設定しておく必要があります。

よって、今回レビューした論文もこの辺りが一つの論点として調査されましたが、結果2つのポイントは抑えられていませんでした。

では、これら結果を踏まえた上で最後まとめに入っていきたいと思います。

内臓オステオパシーの手技には信頼性がない

内臓オステオパシーに対する手技の信頼性については…

「内臓オステオパシーで用いられる手技の信頼性についてエビデンスはない」ことが明らかになりました。

理由としては、実施されている研究全てにおいてバイアスのリスクが高く評価結果に対する信頼性を示すことができないからです。

特に、検者者を盲検化できていないことやランダム化していないことなどは、信頼性を構築する上で大きなマイナスポイントになるので、本レビューからでは、内臓オステオパシー手技者に信頼性があるとは到底言えない結果となりました。

内臓オステオパシーの効果にエビデンスはない

内臓オステオパシーの効果を示すために行われたいくつかの研究の中で、例えばPanagopoulosらの研究では、腰痛に対する内臓オステオパシーの効果に焦点を当てています。

内臓オステオパシーの比較対象となったのは『標準的な理学療法』です。「腰痛が改善した」というアウトカムは自己申告によるものでしたが結果を見ていくと、治療から6週間後の主観的疼痛強度が標準的な理学療法群と比較して統計学的に有意な差が見られませんでした。

参考文献

Does the addition of visceral manipulation alter outcomes for patients with low back pain? A randomized placebo controlled trial.Panagopoulos J,2015

もう一つ検討された研究としてHaidenらが行った研究がありましたが、この研究では超低出生体重児を対象に、内臓オステオパシーの効果を検証するためにプラセボ治療群なしでデザインされていました。

これは、先ほども述べましたが対照群にプラセボ治療がなかったことから、内臓オステオパシーの効果を証明するための根拠としては支持できませんでした。

参考文献

Does visceral osteopathic treatment accelerate meconium passage in very low birth weight infants?- A prospective randomized controlled trial.Haiden N,2015

内臓オステオパシーに関するまとめ

というわけで、このシステマティックレビューを読んでみたところ、全体として内臓オステオパシーで用いられる手技の信頼性や効果を示す根拠は“今のところない”ことが分かりました。

ただし、今後アウトカムの適正化やきちんとした研究デザインが生まれて来ればこの結果はまた変わる可能性があるので、今後の研究を待ちたいところです。

参考文献

・Reliability of diagnosis and clinical efficacy of visceral osteopathy: a systematic review.Guillaud A,2018

・Does the addition of visceral manipulation alter outcomes for patients with low back pain? A randomized placebo controlled trial.Panagopoulos J,2015

・Does visceral osteopathic treatment accelerate meconium passage in very low birth weight infants?- A prospective randomized controlled trial.Haiden N,2015

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