本日は、脳卒中のリハビリテーションを進めていく上でよくぶつかるであろう問題、『麻痺側下肢の支持性』についてその定義やリハビリの方法論について解説して行こうと思います。
現在、以下のような症状の改善に悩んでいるセラピストの皆さんは、ぜひ最後までご覧ください。
- 立ち上がり動作時に、麻痺側の足部が浮いたりズレたりする。
- 立ち上がり動作時に、非麻痺側優位となった動作が多い。
- 麻痺側で立っているのが怖いと感じている。
麻痺側下肢の支持性を高めるためのリハビリ戦略
麻痺側下肢の支持性とは何か?
臨床現場では、「麻痺側下肢の支持性がー」と言う言葉が頻繁に飛び交っています。
しかし、ここで一つ改めて考えたいこと。それは…
麻痺側下肢の“支持性”って何?
という問いです。
なんとなく分かっているようだけど、じゃあこの『麻痺側下肢の支持性』が具体的にどのような状態を指しているかを説明できるかというと、「いまいち言語化できないかも…」と感じる人が多いのではないでしょうか?
それもそうです。なぜなら、医学の領域において『支持性』という言葉自体の定義がそもそも存在しないからです。
「支持性」(support)という用語は、理学療法士が関わる臨床で頻用されている。支持性が高い、あるいは低いといった使われ方である。しかし理学療法学および医学を網羅する辞典において「支持性」なる項目を探しあてることはできないし、近年の理学療法士国家試験の問題に「支持性」という用語をみつけることもできない。要するに定義が明確に示されないまま「支持性」という用語が濫用されているのが現状といえる。
理学療法ジャーナル41巻10号.北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻,柴喜崇より引用
そこで、本題に入っていく前にまずはこの『麻痺側下肢の支持性』に関しての解像度を上げていきたいと思います。
とはいえ、繰り返しですが麻痺側下肢の支持性は明確な定義というものがないというのもまた事実であるので、ここでは一旦僕が考えている『支持性』についてを言語化していきます。
“支持性”のキーワードは『床反力』と『力の向き』
そもそも『支持性とは何か?』ということなんですが、先ほども述べたように明確な定義がないので「これだ!」とはいえないのですが、近いニュアンスで定義づけるとするならば、『自分自身の体重を支えられる程の耐久性があること』が近い答えになるのではないかと思います。
ただ、問題は…
「じゃあ、この支持性が高いとは一体どのような状態を指すのか?」です。ここがいつもふわっとしてしまうわけです。
では仮に…
みなさんは「支持性が高いor低い」と聞いた時、どのような現象が生じているとイメージしますか?
『支持性』と聞いて、なんとなくパッとイメージしやすいのは恐らく『筋力の強さ』ではないかと思います。
この『支持性=筋力の強さ』という構図は、これまで多くのセラピストの方達と議論してきた中で最も想起されやすい推論であると僕は感じています。
なぜ、この2つが結びつきやすいのか?
これはあくまで僕の予想ですが、例えば筋力が弱いと、なんとなく「下肢がグラグラするイメージ」というのが思い浮かびやすいことからら、『支持性の低下=筋力が弱い』みたいなロジックになるのではないかと考えています。
では、「本当に筋力が弱ければ下肢の支持性は乏しいのか?」というと「半分正解、半分不正解」というのが僕の考えです。
具体的にいえば、「筋力は必要条件であるが、それだけじゃ支持性の説明はできない。」と思っています。それは、筋力は十分あるにも関わらず、麻痺側下肢で十分に支持できない方や、非麻痺側優位で動いている方も沢山目にするからです。
だとすれば、『支持性が高い』とは一体どのような状態を指すのか?
というと、僕はこの定義を「床反力に対して力の向きを変えられることである」と考えています。
床反力に対して力の向きを変えるために当然筋力は必要なのですが、それだけでは不十分です。
なぜならば、『力の向き』を変えるには、床から伝わる『圧情報』の方向を感じとらなければならないからです。
筋力だけあっても一定方向だけにしか力が加えられなければ、“支持”はできません。
※例えば、平な床に立っている場面をイメージすると、床反力は足底から上方に加わるため『力の向き』は床に対して垂直に加わる必要があります。
しかし、この床に対する力の方向がずれてしまうと、いくら筋力があったとしても支持するのは困難です。
平面に立っているだけでは支持性の良し悪しは判断できない
では、臨床現場において「支持性が高いor低い」ということを、どのように確認していけば良いのでしょうか?
脳卒中患者様を例に話しますが、まず逆説的な結論を言うと…
平な床に立っている状態では支持性が高いor低いを確認するのは極めて難しいです。
その理由は、平な床では一見すると垂直に力が加わっているような気がするからです。
例えば、上図は脳卒中後遺症患者様の麻痺側下肢ですが、見た目上は平なコンクリートの上に足が支持できているように見えますが、ご本人は自身の足に対して頼りなさを強く感じており、常に非麻痺側優位の動作をとっています。
これを支持性の観点から考えてみると…
この写真をよくみると、麻痺側下肢は反張膝(back Knee)を呈していることから、床に対する力の向きは『垂直』ではなく、「踵から前方に向かって力が加わっているのではないか?」と推察されます。(これを検証する方法は後述します)
この力の向きを変えられないというのが、支持性を乏しくしている一つの要因ではないかと僕は仮説を立てています。
“支持性”の良し悪しを確認する方法
では、それらを踏まえた上で、支持性が高いor低いを評価するために、実際に僕が臨床で行っている方法をご紹介していきます。
今回ご紹介する方法は、評価にもなるし同時にそれが方法論(トレーニング)にもなるため、汎用性自体はかなり高いと思います。
続きは『はじまりのまち』で
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