私達の意識された身体の裏側では膨大な量の情報処理が行われているのです。
それについて内容を今回は少し事例を通してお伝えしていきたいと思います。
身体性の変容
60代のイギリス人女性P・J
イギリス人女性P・Jは数年前に大事故に遭い、その際頭を打ち少しの間意識を失っていました。
それから程なくしその女性は意識が戻り元気に過ごしていました。
しかし、その後しばらくすると右腕の感覚がなくなり、引きつる様になりました。
そこでこの女性の担当医は女性の脳を調べたところ、左頭頂葉の事故の際に損傷を負った部位に小さな嚢胞を見つけました。
担当医はこの嚢胞が原因であるとし、女性に投薬を始めました。
そして、投薬を始めてから約二年間は特に目立った症状は見られなくなりました。
しかし二年経過したある日・・・
この女性は奇妙な感覚を訴え始めたのです。
夜、ベッドに入ると突然
「右腕が無くなった、どこかに消えている。」
と言うのです。
さらに右腕から目を離すといつでも、腕の感覚が薄れていき消えてしまい、右腕がどこにあるのかが分かるのは右腕を凝視している時だけだったのです。
これと同様の事は、右足にも生じました。
そのため、女性は担当医の所へ向かいそこで担当医は彼女の手の甲に物を乗せてみました。
するとやはり、右手に乗っている物の重さが徐々に分からなくなっていったのです。
それより軽い物だと三秒程度で消え失せました。
検査の結果、これらの原因はやはり脳内にあった嚢胞であり、その嚢胞は小さな卵ほどに成長していたのです。
彼女の左頭頂葉はこの嚢胞に圧迫されて自分の身体が把握できない状態となっていることが分かりました。
元株式仲買人の男性「ボブ」
彼は脳卒中となり、頭頂葉に障害を負いました。
その彼に
「靴を指さしてください」
といえば、難なく指すことができます。
しかし
「自分の足を指さして」
と言うと、突如たじろいでしまいそれが出来ません。
また、彼に「今は何時ですか?」
と聞くと、あっさりと時計に目をやり答えるのですが
「自分の手首を見てください」
というと、混乱してしまうのです。
そして、しばらくしてから自分の「肩」に指を指したのです。
そこで、医師は厚紙で切り抜いた動物を彼の洋服にピンで留めました。
肩にはキリンを、膝にはカエルを、肘にはライオンです。
そして、医師が
「動物の名前を言うから指して」
というと、簡単に行うことが出来ました。
しかし、動物を留めてある身体の部位は何処であるか尋ねると、それは答えることが出来ないのです。
・・・
・・・
いかがでしたでしょうか?
このように、脳の損傷後には私たちには想像もつかないくらい身体に対しての認識が大きく変化(ボディスキーマの変化)するのです。
そして、その体験は時として言葉に表れる場合があります。
「手と足が溶けてなくなってる」
「お腹のところに手がある感じがするの」
「手や足が歪んで感じる」
このように、肉眼で実際に見ている身体は四肢があって正常のように見える身体も、感じている自分の身体は全く違うのです。
このような特有の現象を
「不思議の国のアリス症候群」
ともいいます。
これは、知覚された外界のものの大きさや自分の身体の大きさが通常とは異なって感じられることを主症状とする病気と言われています。
要は、身体の大小や形、身体の概念などというのが変質してしまうのです。
こういった現象は、昔は脳損傷患者特有のものでしたが、現在では整形疾患の術後の方、CRPSのような痛みを強く生じている方にも見られる現象です。
その理由としては、術後早期に不動による患部の学習性の不使用や、痛みによるneglect like syndromeなどが影響し、脳内のボディマップが変化していることが挙げられます。
ですから、脳血管疾患だから〇〇療法、整形疾患だから〇〇療法と疾患別に方法を区別するのではなく、きちんとその人の病態を捉えその結果で方法論を意思決定していく必要があると思います。
また、こういった患者様の内面の変化は中々現象としては見えません。
そういった意味では、やはり患者様の表現する言葉や表情、動き方というのはきちんと見てあげなげなければならないのではないかと感じます。
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