僕はいま仕事の所属柄、脳卒中後遺症の方とお会いすることは比較的多い方で、回復期病院を退院された方のご自宅へ伺わせていただき、入院中のリハビリに関してや、その当時の心境、そして身体状態の確認をさせて頂いています。
そのため、退院後も定期的にプライベートでよくお会いさせていただき、年単位で身体状態の変化を時系列で追わせて頂いています。
僕がお聞きする内容としては
・入院中のリハビリの内容を覚えているか。
・リハビリ自体はどうだったか(感想)
主に聞くのはこの2つです。
そして、多くの退院した方のご自宅へ足を運び上記の質問をするのですが、今日は脳卒中後遺症の方の入院中の正直な気持ちを少しこの場を借りてご紹介したいと思います。
脳卒中後遺症患者の声
入院中のリハビリを覚えているか
まずこの質問をする理由ですが、それはリハビリテーションを行って行く上で大切なのは『本人の能動的な運動学習』にあると僕は思っています。
そのため、リハビリを行う際に患者様の意図や志向性と言ったものがその1時間の訓練に向けられていなければ「学習」というものは中々行えないのではないかと思っています。
そういった意味で、自分自身で学習していくということは、まず訓練の意味を理解してなおかつ本人の中で成功と失敗に対する試行錯誤がなければなりません。
そしてそれを毎日続けるので、本来訓練の内容というのは、自然と覚えているのではないか。
というのが僕の中で思っていたところでした。
逆に、訓練の内容を覚えていないということは部活の練習内容を覚えてないことと一緒で、あまりそこに対して意識して取り組んでなかったり、志向性がズレてたりするのではないかと思っていました。
そうして、実際に患者様にこの質問を投げかけると驚いたことにほとんどの人が訓練内容を覚えていませんでした。
特に、回復期病棟に入棟した最初の方ほど全く覚えてないというのです。
なぜなのか。
それを少し深く掘り下げると
「頭の中がずっとぼーっとしてて、考えがまとまってない」
「混乱してる」
このように答える人が大変多かったのです。
これを聞いた時に、なるほどな。と強く思わされました。
回復期に上がってきた患者様というのは、脳卒中になってまだ日が浅い人も沢山います。
そのため、脳の浮腫がまだ引いていない人も同じく沢山います。
そういった理由から、状況理解であったりというものがあまり分からないのではないかと思うのです。
一方で、このことは僕自身も反省しなければならない事実でもあります。
つまり、訓練の内容が難しいもしくは、きちんと訓練の目的や、その訓練によってどんな改善を期待しているかと言った部分を患者様と共有出来ていなかったということです。
僕らでも、何かスポーツなり勉強なり、するにあたっては目的やその成果を理解しているから頑張れるものです。
しかし、それがリハビリの中では患者様にきちんと説明できておらず、結果として
「自分がやりたいリハビリテーション」
を提供していた可能性があるわけです。
これは、僕自身重く受け止めなければならない事実です。
しかし、逆に言えばこうして退院後に話を聞いていなければきっと僕はこの先ずっと自己満足のリハビリテーションを提供していたかもしれないとかんがえると、聞いてて本当に良かったと思います。
リハビリ自体はどうだったか(感想)
「毎日リハビリがつらい・・・」
これに関しては、個人のリハビリに対するものといよりは、病院自体にあるリハビリテーションのシステムに対して思う事がある人が多かったです。
その中で最も多かったのは
「休みなく毎日リハビリをしないといけないのがキツい」
というものでした。
いま、日本の回復期病院では365日リハを提供しているところがほとんどだと思います。
そのため、患者様はお盆や正月もなければ日曜日の休みもありません。
例えば、仕事や部活、サークル活動といったものでも必ず休みがあります。
休みがあるから、いくらかのモチベーションが保たれるし、身体を休める事だってできます。
しかし、入院中の患者様というのはそうではありません。毎日、PT・OT・STが来て1日3回必ずリハビリがあります。
ただ、特に脳卒中後遺症は離床というのがかなり強く勧められているという側面もあるため、この365日リハ自体が悪であるとも言えないです。
ですので、ここではこれが良いか悪いかという議論は少し置いときます。
しかし、『患者様の声』として。
つまり何にも変えられない事実として、「毎日リハビリがあるのはしんどい」
という声を発しています。
それも1人2人ではなく、何人もいるのです。
果たして、リハビリが辛いと思っている中で円滑に能動的なリハビリテーションが行えるでしょうか?
「身体が重くなる・・・」
この意見もとても多かっです。
ある患者様はこのように言っていました。
「足や肩が動きにくいのは腹筋が弱いからです。とずっと言われていたけれど、何回、何百回やっても良くならないし、やればやるほど身体が重くなるんです。」
僕が脳卒中後遺症患者様の機能回復に「筋力増強主義」というのに限界があると感じたのはこうした患者様の声を聞いたからというのが1つの理由です。
何が正解なのかは分かりませんが、ただ一つ言えることは、僕らだけの主観で患者様を見ていてもダメなんじゃないかと思うのです。
僕らの知識・技術が良いのか悪いのかを判断するのはセラピスト同士の中だけでは解決しません。
判断するのは『患者様』です。
推論だけ先行してしまいエゴイストなリハビリテーションにならないように、きちんと事実に目を向けて、今後も患者様に話しを聞き、そしてそれに対して自戒しながら日々臨床を励んでいこうと思います。
コメント
コメント一覧 (2件)
いつも拝見しております。毎回勉強になることが多く楽しみにみております。
今回の記事、非常に共感できました。
私は回復期で、割と若い脳卒中の人を診ることが多いです。
対象者が何を感じているのか、が全てであり、PTのエゴは一切必要ないと考えています。
また、リハビリテーションとは対象者の主体性を生むことに、本質があると感じています。細かい定義や法律は気にしないとして。
常識にとらわれない、本質をとことん追求する記事をまた楽しみにしています。
いつもありがとうございます。
この度はコメントをくださりありがとうございます。
そのように思って頂き光栄です。
少しでもお役に立てるような記事が書ければと思っています。
今後ともよろしくお願い致します。