この記事では、以下の項目について解説しています。
- 二点識別覚は何を検査しているのか?
- 二点識別覚の実施方法と注意点
- 二点識別覚を行っている最中の脳活動
- 二点識別覚のカットオフ値(知見あり)
- 二点識別覚と慢性疼痛の関係
これから、二点識別覚の実施を検討している皆さんや、カットオフ値を知りたい方にとってドンピシャとなる解決策をご提示しています。
ぜひ、最後までご覧いただき日々の臨床に活かして頂けると嬉しいです。
【これを見れば網羅できる!】二点識別覚の意義や実施方法、カットオフ値などを徹底解説
まずは感覚の種類を整理しよう
二点識別覚の説明に入る前に、まずは『感覚の種類』について整理しておきましょう。
細かく見るとそこそこ膨大な数がありますが、ざっくり分けると感覚の種類は3つです。
- 表在感覚
- 深部感覚
- 複合感覚
表在感覚は皮膚から伝わる感覚であり、その検査には痛覚や温度覚、触覚などが該当します。
深部感覚は筋肉や関節から伝えられる感覚であり、その検査には振動覚や位置覚、運動覚があります。
このあたりの検査は臨床でもよく使っているのですごくしっくりきますね。
最後3つ目が、複合感覚です。
結論から言うと、この感覚を検査するための方法論に二点識別覚は該当します。
複合感覚を検査することで何がわかるの?
これに関しては、『著:ベッドサイドの神経の診かた』に記述されている文章を引用して回答します。
複合感覚は…
皮膚の2点を同時に触れてこれを識別できるかどうか、また皮膚に書かれた数字などを当てることができるかどうか、使い慣れた物体を触っただけでその物品名を当てることができるかなどを検査する。
この試験には、大脳皮質(頭頂葉)が関係している。刺激部位の表在感覚がほぼ正常であるのに、これらの識別ができない時には、視床より上、ことに頭頂葉の障害が考えられる。
『ベッドサイドの神経の診かた』より引用
このラインを引いている部分、本当なのかどうかこの後回収するのでちょっと頭の片隅に置いておいてください。
- 皮膚の2点を同時に触れてこれを識別できるかどうか
→二点識別覚(後述) - 皮膚に書かれた数字などを当てることができるか
- 使い慣れた物体を触っただけでその物品名を当てることができるか
それでは、上記を踏まえた上で二点識別覚とはどんな検査なのかを詳しく見ていきましょう。
二点識別覚とは
二点識別覚とは、皮膚の二点を同時に触れてこれを識別できるかどうかを診る検査です。
検査の方法は、コンパスやノギスを用いたりするのが一般的です。
二点識別覚で何がわかるのか?
これは先ほどお伝えしたように二点識別覚では視床以下による感覚障害ではなく、頭頂葉の障害に基づく感覚障害であると判断できます。
それでは、実際に二点識別覚を行っている最中には脳のどの領域が働いているのか。
その点について知見を交えて解説します。
二点識別覚の脳活動(神経基盤)
二点識別覚を行なっている際、どの脳領域が活動するのか?
これについて明らかにした論文が2008年に国内で発表されています。
Neural codes for somatosensory two-point discrimination in inferior parietal lobule: An fMRI study.akatsuka,2008
研究デザイン等は原著を見ていただくとして、ここでは結論だけお伝えします。
二点識別覚を行なっている最中に最も活動する脳領域は下頭頂小葉(IPL)であることが明らかになりました。
下頭頂小葉は、角回と縁上回からなる脳領域でここでは視覚や体性感覚といった異なる感覚が統合され『身体イメージ』や『身体所有感』を構築する場所だと考えられています。
二点識別覚の検査手順
患者には、2点で触られたと感じたら「2」と回答し、1点で触られたら「1」と回答するよう求めます。
これから、使って皮膚を触ります。触られてる場所が2つあれば「2」と、触られている場所が1つだと感じたら「1」と答えてください。
検査を行うときのポイントとして、セラピストが気をつけなきゃいけないことは3つです。
- 二点の刺激は身体の長軸に沿って行うこと
- 二点は同時に触れること
- 二点刺激ばかりではなく一点刺激も織り交ぜること
実際にやってみるとわかりますが、二点を触れる時に少しでもタイミングにズレがあると二点の識別はかなり簡単になります。
刺激をトータル10回検査して、もし二点を正確に識別できている場合は徐々に二点間の距離を縮めていきます。
結果の解釈は、その『距離』を見ていきます。二点の距離が大きいにも関わらず「一点と感じてしまう」みたいな場合には、複合感覚機能に異常があるかもしれないと考えることができます。
ただし、抑えておきたいのは二点の識別能力は身体の各部位によって違いがあるということです。
以下に、参考値ではありますが身体各部位と二点識別覚の距離を整理しておきましょう。
指尖 | 3〜6㎜ |
手掌・足底 | 15〜20㎜ |
手背・足背 | 30㎜ |
脛骨面 | 40㎜ |
二点識別覚のカットオフ値(知見あり)
上記表で、身体各部位におけるざっくりとして二点識別覚の正常範囲を記しましたが、もう少し詳しくデータを元に割り出した値も欲しいと思います。
そこで、以下に2本の研究をご紹介します。
はじめに、2013年インドにて健常者を対象に行われた上肢における二点識別覚のカットオフ値です。
The Discrimination of Two-point Touch Sense for the Upper Extremity in Indian Adults.Kannathu Shibin,2013
男性 | 女性 | |
上腕外側上部 | 38㎜ | 42㎜ |
上腕外側下部 | 33㎜ | 35㎜ |
上腕内側上部 | 36㎜ | 36㎜ |
上腕内側中部 | 33㎜ | 33㎜ |
上腕内側下部 | 24㎜ | 25㎜ |
上腕後面上部 | 35㎜ | 35㎜ |
上腕後面中部 | 37㎜ | 36㎜ |
上腕後面下部 | 28㎜ | 26㎜ |
前腕外側部 | 29㎜ | 28㎜ |
前腕内側部 | 27㎜ | 24㎜ |
前腕後面部 | 28㎜ | 24㎜ |
第1背側骨間部 | 14㎜ | 13㎜ |
親指末節の手掌側面 | 3㎜ | 3㎜ |
中指末節の手掌側面 | 3㎜ | 2㎜ |
小指末節の手掌側面 | 3㎜ | 2㎜ |
※小数点は切り捨て
2本目にご紹介するのは、健常者ではなく手根管症候群をお持ちの方を対象に手指に対して二点識別覚を実施し、カットオフ値を算出した研究です。
CUTOFF VALUE OF TWO-POINT DISCRIMINATION DISTANCES IN CARPAL TUNNEL SYNDROME.Department of Physical Medicine and Rehabilitation, Phramongkutklao Hospital,2020
ちなみに参加者は全員で48名、そのうち85手(89.5%)が手根管症候群と診断されています。
重症度、そしてカットオフ値の結果に関しては以下です。
- 軽度:28.4%
- 中等度:32.6%
- 重度:39%
手根管症候群における二点識別覚のカットオフ値
手根管症候群における二点識別覚のカットオフ値は『4㎜』以下です。
感度 | 特異度 | |
母指 | 75.3% | 80% |
示指 | 68.2% | 90% |
中指 | 68.2% | 90% |
つまり母指、示指、中指の二点識別覚が4mm以上ある場合は、手根管症候群である可能性が高いことが明らかになりました。
ぜひ、手根管症候群の患者様のリハビリテーションに携わる際には参考にして頂けたらと思います。
二点識別覚と慢性疼痛の関係
二点識別覚は近年、慢性疼痛に対するリハビリテーションの分野で活躍してきています。
特に、2008年にオーストラリアの理学療法士であるmoseley氏は二点識別覚を慢性疼痛患者様における『身体イメージ』の評価の一つとして活用できることを発見しました。
え!身体イメージって評価することできるんだ!?
この辺りの詳しい話しについては、オンラインサロン『はじまりのまち』で解説しています。
ご興味ある方は、『はじまりのまち』のホームページを覗いてみてください。
肩関節疾患患者と二点識別覚の実態
以下の研究では、凍結肩(frozen shoulder)の患者を対象に、患側肩の運動イメージ能力と知覚識別能力を評価しました。
対象となったのは、NRSで平均5点ほどの痛みがある患者18人みたいじゃな。
Motor Imagery Performance and Tactile Spatial Acuity: Are They Altered in People with Frozen Shoulder?Breckenridge JD,2020
このうち、運動イメージ能力はメンタルローテーション課題を用いて評価し、知覚識別能力についてを『二点識別覚』を用いて評価しています。
結果分かったこと…
「健側肩に比べ患側肩の二点識別覚の距離が大きい」ということがこの研究にて明らかになりました。
具体的には、健側肩は55.9㎜である一方、患側肩では66.6㎜と約1㎝ほどの左右差がありました。
二点識別覚の距離が患側肩で大きいということは、それだけ知覚識別能力が低下していることを表しており、これは単に末梢神経由来の感覚障害を表しているわけではありません。
先ほども述べたように、二点識別覚に障害があるということはそれを処理している下頭頂小葉を中心とした脳領域に問題があることを示唆しています。
整形外科疾患であるにも関わらず脳内活動に問題があることを示唆しているというのは、もはや運動器疾患は単なる筋-関節だけの障害じゃないことを示しているんじゃな。
二点識別覚まとめ
以上が二点識別覚の意義と実施手順、そしてカットオフ値とその結果が示す解釈(知見含む)についてでした。
二点識別覚は表在感覚や深部感覚の検査に比べると使用頻度は少ないかもしれませんが、そこから分かる結果というのはすごく重要です。
特に近年は慢性疼痛の分野においてすごく重要な検査として使用されてきているので、ぜひこれを機に二点識別覚を実施する頻度を増やしてみてはいかがでしょうか?
それでは、今日も良い仕事していきましょう!
参考文献
1)ベッドサイドの神経の診かた.田崎ら,2010
2)Neural codes for somatosensory two-point discrimination in inferior parietal lobule: An fMRI study.akatsuka,2008
3)The Discrimination of Two-point Touch Sense for the Upper Extremity in Indian Adults.Kannathu Shibin,2013
4)CUTOFF VALUE OF TWO-POINT DISCRIMINATION DISTANCES IN CARPAL TUNNEL SYNDROME.Department of Physical Medicine and Rehabilitation, Phramongkutklao Hospital,2020
5)Motor Imagery Performance and Tactile Spatial Acuity: Are They Altered in People with Frozen Shoulder?Breckenridge JD,2020
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