【セラピスト必見】腰痛に関して効果的ではない10個の誤解と真実

「腰痛について誰もが知っておくべき10の真実」なる論文が2020年に発表されたのをご存知でしょうか?

著者は、ピーター・オサリバン。僕が大好きな痛みに関する研究者の一人です。

https://bjsm.bmj.com/content/54/12/698.full

原著論文は一部のみ閲覧可能。全文読むには購入が必要でした。

論文の内容自体、全然ボリュームはありません。

A4で3枚程度です。

しかし、その中に書かれていることがそこそこ衝撃と言いますか、腰痛患者様のリハビリないしは施術を対象にしているすべてのセラピストにとって非常に重要なことが書かれていたので、今日はその一部をシェアしたいと思います。

まじで、絶対見てください。

目次

腰痛に関して効果的ではない10個の誤解と真実

腰痛についての情報は書籍やSNS、メディアによる媒体を通して日々様々な内容が発信されています。

ただ、その中には決して正しくない情報もそこそこなボリュームあって、そうした情報というのは当事者の皆さんにとって「誤った信念や考え」につながり、結果として不適切な行動(疼痛回避行動)へと導くことがあります。

この点については、論文の中でも指摘されていて具体的には以下のような内容です。

腰痛に関する誤った信念は、特に問題のない姿勢(例えば、猫背で座ること)や問題のない動作(例えば、背中を曲げること)を避けたり、意味のある活動(例えば、脊柱への負荷、身体活動、社会的活動、日常生活や仕事の活動)を避けるなど、腰痛をむしろ悪化させる行動へとつながる可能性がある。

また有益でない信念は、筋肉の固定を強めたり、「体幹」の筋肉に力を入れたり、ゆっくりと慎重に動くといった疼痛回避行動につながることもある。

さらに、症状を和らげたり(薬物療法、受動的療法、 注射)、姿勢の崩れを治したり(例えば、姿勢エクササイズ)、 損傷したとされる構造を治したり(例えば、幹細胞治療、 手術)するために、より生物医学的で侵襲的な介入を選ぶように なるかもしれない。

Back to basics: 10 facts every person should know about back pain

少し抜粋して解説すると、例えば「猫背」と聞くと、腰痛を悪化させる代表的な”姿勢の問題”として扱われがちですが、実際猫背が腰痛を悪化させるなんていうデータって存在しないんですね。

でも、「なんか猫背になると脊柱に負担がかかってるっぽく見える」という理由から、結果として「猫背=腰痛」という誤った考えが広まってしまっている現状があります。

このように、一般的に広まっている腰痛に関する知識にはまー役に立たない、むしろ腰痛を助長させるものもありまして。

以下に示すのは、本論文で述べられている代表的な10個の誤解とそれを覆す真実になります。

いくつかの項目は僕の解釈も含んでます

①「腰痛は深刻な状態である」という誤解

真実:腰痛は生命を脅かす深刻な症状ではない

「腰痛は慢性化する病気であり、一度患うと癖になる」という誤った概念が浸透している傾向にありますが、決してそんなことはありません。

もちろん、レッドフラッグ(悪性腫瘍など)となるような症状を示す腰痛もありますが、多くの場合生命を脅かす深刻な状態でもなければ、一生付き纏う疾患でもありません。

②腰痛は晩年になると悪化する

真実:腰痛のほとんどは改善し、加齢とともに腰痛が悪化することはない。

これも上記と同様の誤解です。年齢が増すにつれて腰痛が悪化しやすくなるというエビデンスは現在まで存在していません。

③腰痛が持続するのは常に組織の損傷が関係している

真実:否定的な考え方、恐怖回避行動、回復への否定的な期待、不十分な痛み対処行動は、組織損傷よりも持続的な痛みと強く関連している

2020年、国際疼痛学会は1974年に制定した痛みの定義を約40年ぶりに更新しました。

その中で重要な部分、それは「実質的または潜在的な組織損傷に結びつく」という元々定義の中に含まれていた文言が、改訂後削除されたことです。

これは何を意味するかというと、要は「組織損傷のみが必ずしも痛みを生み出しているわけではない」ということであり、不安や恐怖といった情動的な側面、痛みに対する誤った認識をしてしまう認知的側面、その他社会的背景含めこれらも痛みを発生・増悪させる要因になりうるわけです。

痛みの定義が改訂される前は、こうした情動や認知的側面に関連する痛みは「患者自身の心の問題だ!」と病態の究明がある種放り投げられていた部分がありましたが、脳科学が発展したいまこれを言ってしまうセラピストは逆にオワコンです。

「わたし痛みの勉強できてません」

と自分から開示しているようなものなので、恥ずかしいとすら思った方がいいかもしれません。

④腰痛の原因を見つけるためには常に検査が必要である

真実:検査は現在の腰痛の予後、将来の腰痛の可能性を決定するものではなく臨床転帰を改善するものでもない。

実は臨床ガイドラインを見ると、筋骨格系疼痛の診断と管理にMRIやCTを使用しないよう勧告されているんですが、実態としては腰痛で来院する患者さんのほぼ全員がMRIやCTを撮るケースがほとんどです。

この背景としては…

臨床医が組織の問題を診断したいという欲求と病態を見逃すことへの恐怖から不適切な画像診断が行われることがある。(Caneiro J,2021)


Beliefs about the body and pain: the critical role in musculoskeletal pain management.Caneiro J,2021

という報告が挙げられたりしています。

医療サイドの立場に立つと、「何かしら検査をして診断しなきゃいけない」という気持ちもわかるので正直なんとも言えないですが、事実として推奨されない検査が行われている可能性がそこら中であるということも一つ知っておく必要があるかもしれません。

⑤運動や動作時の痛みは脊柱への警告信号であることから中止すべきである

真実:段階的な運動とあらゆる方向への動きは、脊椎にとって安全で健康的である。

「痛みがある運動は避けること。安静にしなさい。」

もう幾千年と擦られ続けているこの神話。擦られすぎてもう原著に辿り着くこともできません。

そろそろ(いや、早急に)変えていきましょう。

⑥腰痛は座ったり、立ったり、持ち上げたりするときの姿勢の悪さが原因である

真実:座ったり、立ったり、持ち上げたりする時の背骨の姿勢は腰痛やその持続を予測しない。

姿勢と腰痛の関係についてもこれまで何度も擦られ続けている概念の一つです。

が、現在において特定の姿勢が必ず腰痛を引き起こすというエビデンスはありません。

ヒトの脊椎の湾曲には自然なバリエーションがあり、痛みと強く関連するような唯一の湾曲などは存在しない。(Slater D,2019)

“Sit Up Straight”: Time to Re-evaluate

そして、同時に「正しい姿勢」というもの自体が存在しないことも頭に入れておかなければなりません。

最適な姿勢が存在することや一般的に「正しくない」と言われる姿勢を避けることで腰痛が予防できるという強い証拠はない。(Slater D,2019)

“Sit Up Straight”: Time to Re-evaluate

⑦腰痛は”体幹筋”が弱いことが原因でそれを強くすることが将来の腰痛も防ぐ

真実:体幹が弱いことが腰痛の原因ではない。体幹の筋肉を強く保つことは良いことだが、必要でないときにはリラックスさせることも有効である。

「腰痛は体幹の筋肉が弱いことで生じる」

はーーーー、なんともキャッチーでわかりやすい。

ただ、この分かりやすさが解釈を誤った方向へ進めている可能性があることをセラピストは頭に入れておかなくちゃいけません。

でないと、「腰痛=体幹の筋トレ」という超ステレオタイプのセラピストが量産されることになります。

ちなみに、腰痛と体幹筋力の関係についてはこんな報告もあるので参考までに。

腰痛が腹横筋などの特定の筋肉によるものであることを示した研究はこれまでにありません。これらの変化は、すでに腰痛を持っている人にのみ観察されており、腰痛の原因というよりはむしろ結果であると考えられる。(Lederman, 2010)

The fall of the postural-structural-biomechanical model in manual and physical therapies: exemplified by lower back pain.2011

⑧脊椎に繰り返し負荷がかかると”すり減り “や組織の損傷が起こる

真実:脊椎の動きや負荷は、段階的であれば安全であり、構造的な回復力を高める。

「脊柱は脆い」これも誤解です。

時々腰痛を患っている人に対してこんなことを言うセラピストがいます。

セラピスト

○○さん、背骨の中でも腰椎っていうのは肋骨がついてないでしょ?だから構造的に凄く脆いんです。ただ、腰椎の周りには筋肉が沢山あるから、これらをしっかり鍛えることで腰椎を保護できますから、トレーニング頑張りましょう!

体幹トレーニングに対しての意識を高めるために伝えているのかもしれませんが、これには別の側面があって、それは患者様自身が「私の背骨って脆いんだ」と逆に自己身体に対する不安や恐怖心を強化している可能性がまぁまぁ高いということです。

で、その結果として、例えばコルセットなどで腰椎を過度に守ろうとする疼痛回避行動に繋がりやすくなってしまうことがあります。

背骨は頑丈で、様々な姿勢において安全に動き、負荷をかけることができる適応性のある構造になっている。背骨を守るための警告は必要なく、むしろ恐怖心を抱かせる可能性がある。(Slater D,2019)

“Sit Up Straight”: Time to Re-evaluate

⑨痛みの再燃は組織損傷のサインであり安静が必要である

真実:痛みの再燃は、構造的な損傷というよりも、活動やストレス、気分の変化に関係する

⑩腰痛の治療には強い薬や注射、手術などの治療が有効である

真実:腰痛に対する効果的なケアは比較的安価で安全である。これには、患者中心に前向きな考え方を育む教育、身体的・精神的健康を最適化するためのコーチング(身体活動や運動、社会活動、健康的な睡眠習慣や体重の維持、就業継続など)が含まれる

腰痛の誤った概念が広まるワケ〜ネガティブキャンペーンは販促しやすい〜

さて、長々と書いてきましたがひとまずこの10個は「これまで定説っぽく扱われてきた腰痛に関する誤解」として腰痛治療に携わるセラピストの皆さんはしっかり抑えておきましょう。

これまで長いこと一般的に唱えられてきた腰痛の知識や概念の中には、それ自体が腰痛という病態を複雑にしている諸悪の根源になっている可能性が非常に高いです。

じゃあ、なぜこうした誤った情報が広く浸透したのか、というとこれはあくまで僕の持論ですが「その方が儲かるから」というのがあると感じています。

というのも、腰痛に対して治療ないしは介入するケースって、国内だと病院等の医療機関よりも整骨院や整体院といった業界で診る方が圧倒的に多いです。(慢性腰痛は特に)

そうすると、サービス提供者は「いかにお客様に通ってもらえるか」を四六時中考えているわけなので、「ここが悪い」、「あそこが悪い」とネガティブな部分を訴求、販促活動をした方がそりゃ売れるんですよね。

メディアや書籍、各種SNSも同様です。

腰痛の原因って紐解くと色んな要素が絡んだカオス状態なわけですが、売り手としては何かわかりやすい原因をガツンと発信していた方が当事者の人の食いつきも良いわけです。

代表的なところで言えば「姿勢が悪い」とか「関節が歪んでいる」とか、そういった類ですね。

その結果、本当はありもしない原因を勝手に創り出し、かつ得体の知れない大きな病態へと成長させてしまっているというのが昨今の腰痛事情であると僕は考えています。

これをそろそろ脱却しないといけない。

なぜなら、今やセラピスト自身が本気で「姿勢が悪いことこそが腰痛の原因だ」と思って疑わない人もめちゃくちゃ多いからです。

これじゃやばいです。腰痛患者さんがそこかしこに蔓延してしまいます。

まだまだ多少のブラックボックスさは残っているものの、脳科学の発展とともに昔に比べるとその病態はかなりクリアになってきました。

だからこそ、まずはセラピストの皆さんに正しく痛みの知識を身につけてほしい。

そのための手段として、このきんたろーブログがあり、Instagramがあり、そしてさらに最新の知見や定期的なセミナーを通して実際の痛みの臨床を深く知りたい方にはオンラインサロン『はじまりのまち』があります。

これからも僕にできることを精一杯やりながら、痛みのリハビリテーションの底上げに貢献していきたいと思います。

よし、それじゃ明日も良い仕事しましょう。

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きんたろー

主に『臨床推論』と『痛み』、『脳卒中』に関する内容について講義してるよー!

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