【知ってた?】足関節捻挫後は患側のみのリハビリに囚われない方がいい

スポーツ現場において、足関節の障害は膝関節に次いで2番目に怪我が多い部位です。

特に、足関節捻挫はスポーツに関連する怪我の約4分の1を占めており女性の方が男性よりも多く見られる傾向にあります。

また、足関節捻挫はその再発率というのがとても高いスポーツ障害の一つです。

繰り返し捻挫が生じることで罹患側足関節を庇い、その結果としてパフォーマンスにも影響してくることがあります。

そんな足関節捻挫について、リハビリを行なっていく中でよくフォーカスされるのは、「罹患側足関節のリハビリ方法」に関するものが多いですが、この記事では『非罹患側』、つまり健側側の足関節を含めたリハビリが足関節捻挫のリハビリとして効果的であるか否かについて解説します。

現在、足関節捻挫後のリハビリに従事されている方、もしくは実際に足関節捻挫を患っていてパフォーマンスに悩みがある方はぜひ最後までご覧ください。

目次

【知ってた?】足関節捻挫後は患側のみのリハビリに囚われない方がいい

今回、健側側のリハビリが足関節捻挫後のパフォーマンス改善に有効であるかどうかを調べるために参考にさせていただいた論文はこちらです。

1.足関節捻挫後は単なる「足の怪我」じゃない

足関節捻挫は、単に「足首が怪我をする」ということで終えるわけではなく、パフォーマンスに強く影響するスポーツ障害の一つとされています。

その背景には、足関節捻挫という怪我は身体運動に欠かせない『姿勢制御』に影響を与えることが分かっているからです。

用語解説『姿勢制御』とは

姿勢制御とは、身体運動を円滑に行うために筋肉や関節を適切に調整・制御する能力のことです。これは、基本的に無意識的に行われているものであり、「立つ」、「歩く」、「座る」など様々な動作を行っている間に自然に行われます。

姿勢制御は主に3つの感覚(視覚・前庭感覚・固有感覚)が脳内で統合されることで構築されます。

一般的に足関節捻挫が生じた後というのは、姿勢制御に必要な要素の一つである『固有感覚』に障害が見られる傾向があり、その結果として主にバランス能力が阻害され身体運動に影響が生じやすくなります。

ちなみに慢性足関節不安定症(CAI)を持つ人は、両側の姿勢制御の障害が観察されることがあると報告されていて(Elsotohy NM,2021)パフォーマンスアップのためには、罹患側だけの問題ではない可能性が示唆されています。

この研究の目的は、6週間の片脚立位によるバランストレーニングプログラムが慢性足関節不安定症患者の姿勢制御に対してどのような効果が発揮されるかを調査することでした。

そして特筆すべきは、この研究では、怪我をしていない側の足関節のトレーニングを行うことで、怪我をした側の足関節の姿勢制御にどのような効果があるかも検討しています。(むしろこれがメインと言っていい)

2.研究方法の解説

この研究では、慢性足関節不安定症を患っている32人の女性が参加しました。

参加者の年齢、体重、身長の平均値はそれぞれ20.96±1.69歳、69.37±12.73 kg、162.03±5.45 cmとなっています。

なお参加者は、次の3つのグループにランダムに割り当てられました。

グループ
  1. グループA(クロス教育):健側の足関節に対してトレーニングを実施(n = 11)
  2. グループB(伝統的トレーニング):患側の足関節に対してトレーニングを実施(n = 11)
  3. コントロールグループC:介入なし(n = 10)

6週間のトレーニング前後に、Biodex Balance System(BBS)を使用してバランスのスコアを評価しました。

Cross-education effect of balance training program in patients with chronic ankle instability: A randomized controlled trial.Elsotohy NM,2021より引用

実際のトレーニング

3.結果〜統計学的な有意差はないが…〜

以下に、3グループの6週間後におけるバランス能力の結果を示します。

結果グループA
(健側ex)
グループB
(患側ex)
グループC
(exなし)
OASI
(p値)
.001.001.981
OASI
(効果量)
1.111.730
APSI
(p値)
.042.001.931
APSI
(効果量)
0.641.560.02
MLSI
(p値)
.023.007.944
MLSI
(効果量)
0.581.080.01

この表に示す、『OASI』、『APSI』、および『MLSI』は、バランスや姿勢の安定性を評価するために使用される指標です。それぞれ以下のような意味があります。

  1. OASI(Overall Stability Index):
    全体的な安定性指数。これは、患者の全体的なバランスと安定性を評価するための指標で、前後および左右の動きを含む全ての方向の動きを示す。
  2. APSI(Anteroposterior Stability Index):
    左右方向の安定性指数。これは、患者の前後方向のバランスと安定性を評価するための指標で前後方向の動きを示す。
  3. MLSI(Mediolateral Stability Index):
    前後方向の安定性指数。これは、患者の左右方向のバランスと安定性を評価するための指標で、左右方向の動きを示す。

この表で見てほしいのが『効果量』の部分です。

効果量(effect size)とは、統計的な分析から得られる数値で、2つの群間の平均値の差を標準偏差で除した値です。効果量は、研究の結果の大きさや、実験操作がどれだけ影響を与えたかを定量的に評価するために使用されます。

セラピスト

難しい…ドユコト

おっけい。では「実験や調査で見つけた違いがどれくらい大きいかを示す数値のこと」と言えばしっくりくるでしょうか?

例えば、2つのグループが異なる勉強法を使って勉強した後、どちらのグループのテストの点数が良かったかを比べるときに、効果量を使ってその違いの大きさを評価します。

結論、効果量が大きいほど、その勉強法が効果的だと言えます。

これを踏まえた上で、効果量の数値的な意味合いの違いを以下に示します。

効果量を解釈する際の一般的なガイドライン

  1. 小さい効果量(0.2以下):
    効果は小さく、実用的な意義がない可能性が高い。ただし、重要な研究問題や特定の分野においては、小さな効果でも意義がある場合があることに注意。
  2. 中程度の効果量(0.2から0.5):効果は中程度で、実用的な意義がある可能性が出てくる。
  3. 大きい効果量(0.5以上):効果は大きく、実用的な意義が高いと解釈できる。

数値の解釈ができた上で表の解説を行います。

結論から言うと、グループA&グループBはバランス能力が著しく向上したのに対し、グループCはそこまでなかったと言うのがこの研究の結果です。

そしてもう一つ特筆すべきは、グループAとグループB、つまり患側足関節のトレーニングを行ったグループと健側足関節のトレーニングを行ったグループでは、どちらもバランス能力が向上したものの統計学的な有意差はなかった。というのが結果です。

ただし

効果量を見てください。

『OASI』、『APSI』、および『MLSI』すべての指標で、実はグループB(患側のトレーニング)の方がグループAに比べてバランス能力が向上しているのが分かるかと思います。

僕がここで伝えたかったのは、「有意差がない」という言葉だけに惑わされないでほしいという点ですね。詳しく見ていくと統計学的な差はなくとも違いはあるんです。

4.姿勢制御は患側のみで完結しない

この研究結果からも分かるように、足関節捻挫は大抵片側に生じますがその後のリハビリとして、健側側足関節のトレーニングを行っても(多少の差はあれど)患側側と同じくらいバランス能力の向上に寄与できるということが言えます。

要するに、「壊れたところだけを治せば良い」という考えではなく健側側も含めた身体全体のコーディネートしなくてはパフォーマンスに求められるバランス能力や姿勢制御機能が最大まで向上しない可能性があります。

5.足関節捻挫後に恐怖心や不安がある場合に有効な方法

個人的に、足関節捻挫後において健側を用いたトレーニングが一番必要な場面は以下のような場面だと考えています。

足関節の捻挫が生じた直後というのはまだ痛みが残っていたりすることから、その余韻や体験から患者様自身がリハビリの際に患側に体重をかけるようなリハビリ(=バランス練習など)に対して恐怖心や不安を感じるケースが少なくありません。

不安や恐怖心が強い状態で無理にバランス練習を行うと、そこで代償行動を身につける可能性があったりと『不適切な運動学習』が進むことも考えられます。

そんな時に、今回の研究結果は一つ臨床に活用できるのではないかと思います。

要は、患側ではなく健側でバランストレーニングを行うということです。

健側側の足関節トレーニングを行っても身体全体としてのバランス能力はしっかり向上することから、恐怖心や不安が強い段階では健側側を、徐々にそうした情動的側面が緩和してきた段階で患側側のトレーニングを、というふうに進めていけると代償動作などの誤学習も防ぐことができるのではないかと思います。

6.まとめ

それでは、以上が足関節捻挫後のバランストレーニングの進め方についてでした。

意外にも患側のみではなく健側側を使ったバランストレーニングも姿勢制御の向上に一役買っていることが明らかになったので、ぜひ明日の臨床から取り入れて頂けると良いのではないかと思います。

この記事が少しでも皆さんの明日の臨床の一助になれば幸いです。

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参考文献

1)Cross-education effect of balance training program in patients with chronic ankle instability: A randomized controlled trial.Elsotohy NM

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