この記事では、「非特異的慢性腰痛に対して強めのマッサージと軽めのマッサージはどちらが効果的なのか?」という疑問に対して先行研究を参考に解説します。
現在、腰痛のリハビリテーションないしは施術を生業としているセラピストの方はぜひ最後までご覧ください。
- マッサージを仕事にしているセラピストの方
- 「強いマッサージこそ正義だ!」と信じている方
- 「アホか弱いマッサージこそ良いに決まってる!」と信じている方
【2023年最新】非特異的慢性腰痛におけるマッサージの効果
これまで言われていた腰痛に対するマッサージの効果
マッサージ自体は、様々な場面や場所で行われている治療(リラクゼーション)技術の一つですが、これまでマッサージの効果について網羅的にまとめられている論文は2015年に発表されたコクランレビューだと思います。
この論文は急性・亜急性・慢性期における非特異的腰痛患者さん(3096人)を対象にマッサージの効果を調べたシステマティック・レビューです。
結論としては、「短期的に見ると痛みの改善に有効だけど長期的な疼痛緩和効果は低い。そして能力障害に対する効果は薄い」ということがわかっています。
で、その上で全体的な総括として「マッサージが腰痛に対して有効な治療手段か?」という問いに対しては、結論「そうでもない」というのが2015年時点です。
ここでいう短期と長期って具体的にどれくらい?
短期
対象者をランダムに振り分けてから6ヶ月以内
長期
対象者をランダムに振り分けてからから6ヶ月以上
とまぁこんな感じで、非特異的腰痛に対してマッサージって劇的に改善を図るほど有効なものかと言われるとそうでもないんですが、一方で「短期的には痛みの改善に有効」という結果も出てるわけです。
そこで、今回解決したい問いというのは…
マッサージにも強い弱い色々あるけど、どれが良いん?
というような部分を解決していきたいなと思っています。
腰痛に対してどんなマッサージが効果的なん?
今回解説していくにあたって、参考にさせて頂いた論文はこちらです。
めっちゃ最近の論文じゃん。で、どんな研究なの?
この研究は、非特異的腰痛をお持ちの女性患者様を対象に、マッサージが治療効果に及ぼす影響について2種類の力レベルを比較し検証しました。
- 同意を得た対象者を、高力(HF)群または低力(LF)群にランダムに割り付け。
※HFは2kg以上の強さのマッサージであり、LFは1kg以下の強さのマッサージである。 - 参加者は全員、週2回、計6回のマッサージ療法を受けた。
- 介入前(0週目)、介入後(4週目)、フォローアップ時(8週目)にアウトカムが評価された。
- アウトカムはVisual Analogue Scale(VAS)が採用された。
※但し、この研究におけるVASの表記が0~10で評価するようになっているので、多分NRSと同義だと思う。
アウトカム評価者は治療割り付けに対して盲検化されていたみたいじゃな。
盲検化とは、「臨床試験における検査者が、参加者がどの治療群に割り当てられたかを把握できなくするための処理」です。
要は、結果にバイアスが含まれないようにするための手続きですね。
対象になった人の特徴ってどんななの?
今回対象となったのは全員女性で特徴としては、非特異的な腰痛が1ヶ月以上(平均疼痛期間は9.6ヶ月)続いていると診断された20歳から65歳の方(平均年齢は42歳)です。
そのうち除外対象になっているのは以下です。
- 妊娠している
- 全身性または特異的疾患(例:自己免疫疾患、感染症、血管疾患、内分泌疾患、代謝性疾患、腫瘍性疾患)に関連した腰痛がある
- 腰椎の手術を受けた
- 神経症状(例:運動機能低下、放散痛)がある
- 背部皮膚疾患(例:乾癬、蕁麻疹、創傷)がある
- 腰痛に対して非ステロイド性抗炎症剤の内服またはステロイド治療を受けている
- 身体検査と脊椎X線検査を受け特定の病態(例:脊椎辷り症、骨折、重度の脊椎症)を伴う
マッサージのやり方、特に強いor弱いってどんなふうに行ったの?
マッサージは以下のような機器を用いて行われています。
\結果/強いマッサージの方が鎮痛効果が高いみたい
まず介入前(0週目)、いわゆるベースライン時点のVASは2グループともに約4.5点ほどでした。
そこから4週目、そして8週目に評価した時点のVASの結果が以下です。
HFグループ | LFグループ | 有意差 | |
ベースライン | 4.36 | 4.76 | – |
4週目 | 2.29 | 3.79 | あり |
8週目 | 2.84 | 3.37 | なし |
今回の研究結果から、「強いマッサージの方が弱いマッサージに比べて4週間目までの鎮痛効果は高い」ことが明らかになりました。
しかし、特筆しておくべきは「それが持続しない」ということです。
強いマッサージは短期的には鎮痛効果があるものの、フォローアップである8週目には4週目の頃よりも痛みがやや強くなっています。
逆に、『鎮痛効果の持続性』という点で考えるとむしろ弱いマッサージの方が鎮痛の程度自体は低いものの、8週目まで効果が持続する傾向にあります。
強いマッサージに関しては、冒頭で紹介したレビューとほぼ同じような結果じゃな。
というわけで、短期的に成果を出すということが主目的であるならば強いマッサージは有効かもしれない。
というのがこの研究の結論です。
ただですね。ちょっと一点だけこの結果について補足をさせてください。(ここからが超重要です)
NRSで4→3になることは「効果あり」で良いのか?
今回の結果の是非を問う前に押さえておきたいこと。
それは、「この数字の増減にどのような意味があるのか?」ということです。
これ、臨床でも良くあるんですが例えばNRSの数値が4から3になると、確かに痛みの強さは減っているので「治療介入に効果があった」と言えちゃいます。
但し、ここで考えないといけないのはその変化が「誤差や、たまたまなんじゃないか?」という点です。
つまり、その変化(NRS4→3)は本当に意味のある改善と言えるのかどうか、ここをしっかり押さえておく必要があるわけです。
そんな時に必要になってくるのが、Minimal Clinically Important Difference(MCID)という概念です。
Minimal Clinically Important Difference(MCID)とは?
MCIDとは、治療の有効性が得られたと判断できる評価尺度の変化量のことを指していて、もっと解像度を上げると…
患者様自身が「良くなった」と感じることのできる変化量のことを言います。
つまりNRSなりVASなどを用いて対象者の状態を評価する際、いくら数字が改善していようが予め分かっているMCIDを超えていなければ、それは治療介入に効果があったとは言えないわけです。(誤差や偶然の可能性が高い)
ただ、痛みというのはどこまでいっても『主観』なので、MCIDを超えているからといって患者様本人が「改善した!」と必ず感じるかどうかは分からんのも事実じゃ。(実際の臨床場面において)
で、実は今回の研究にも予め先行研究より求められたMCIDというのが設定されていました。
その数値というのが『1.8』です。
つまり、介入前後を比べてVASの変化が1.8を超えなければいくら数値が下がってもそれは「効果ありとは言えない」というわけです。
VASの変化が1.8を超えないと「改善した」とは言えない
これは、あくまでもこの研究においてはの話しです。
今回、事前に先行研究でMCIDが1.8と設定されていたというのを前提に再度結果の表をご覧ください。
HFグループ | LFグループ | 有意差 | |
ベースライン | 4.36 | 4.76 | – |
4週目 | 2.29 | 3.79 | あり |
8週目 | 2.84 | 3.37 | なし |
まず、HFグループのベースラインから4週目におけるVASの変化量を見ると、その差は『1.97』ありました。
つまり、この変化はマッサージによる鎮痛効果と言えるわけです。
一方で、LFグループのベースラインから4週目の変化量を見ると、その差は『0.79』でした。
確かに、VASの数字的には下がってはいるもののMCIDには到底タッチできないので、この変化は「効果あり」とは言えません。
そして両グループのフォローアップ期(8週目)をみてみましょう。
すると、HFグループはVASの値が『2.84』となっています。
これを最初のベースライン期と比較すると、差は『1.52』になります。つまり4週目まではMCIDを超えていただ8週目になるとMCIDを下回ってしまうことから、「効果が持続していない」という結論になったわけです。
LFグループの方は、ベースライン期と8週目の差が『1.39』なのでやはり「効果あり」とは言えないというのが結論になります。
MCIDというベンチマークを設けることで効果の是非が分かる
このように、ただ結果欄にある「有意差あり」という文字を追いかけるのではなく、「その数字の変化が何を物語っているのか?」という部分まで想像を膨らませて分析をしていくと、見えてくるものがさらに広がります。
そして、これはご自身の臨床に置き換えても(対象の条件が合えば)応用可能です。
例えば、今までアウトカムとなる数字が改善すれば「効果あり」といっていたものが、MCIDをベンチマークにすることで、仮にあなたが意思決定し実施した方法によってMCIDを下回っていた場合は、「MCIDよりも下回っているから見直していかなくちゃいけない」というように、自分自身の臨床を振り返るきっかけにもなります。
ぜひ、この視点をこれまでお持ちでなかった方は明日からの臨床に繋げてみてください。
参考文献
1)Massage for low‐back pain.Furlan AD,2015
2)The Effect of Massage Force on Relieving Nonspecific Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial.Chen PC,2022
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