「レントゲンを撮っても特に異常な所見が見られない」
「発症から数年経過、手術もしているのに中々痛みが取れない」
こうした症状を呈する患者さん、見たことありませんか?
特に外来がメインの整形外科や脳神経外科クリニックではむしろこういうケースの患者さんの方が多かったりします。
今回の記事ではこうした症状を持つ患者さんの病態特性に触れていきたいと思います。
【病態解明シリーズ】中枢性感作を患いやすい人の2つの特徴
まず前提として、冒頭で述べたような症状を呈する患者さんの病態に『中枢性感作』がその背景に隠れているケースがあります。
中枢性感作とは、痛みの元となる患部の侵害刺激が最小限あるいは全くなくても「痛みを感じてしまう状態」を指します。
ここで、「痛みの元となる侵害刺激はないのに痛みを感じるの?」こう疑問に感じた方がいるかもしれません。
が、まさにそうで痛みというのは侵害刺激なくとも“感じる”ものであり、様々な要素(情動・認知・社会的側面)によって修飾されるのです。
その証拠に2020年、国際疼痛学会(IASP)は痛みの定義の中で「痛みと侵害刺激は異なるものである」というのを明文化しています。
実際、皆さんが日々現場で働いている中で「侵害刺激的な要素はないにも関わらず痛みを訴えている患者さん」ってそこそこな数いませんか?
特に慢性疼痛を抱えている患者さんの多くはこういう傾向にある方がいます。
このように、中枢性感作という病態は患部の侵害刺激がなくとも“痛みを感じさせる”要因となっていて、だからこそ慢性疼痛に対峙している全てのセラピストは必ずおさえておきたいところです。
中枢性感作の病態と評価方法
中枢性感作は、繰り返しの痛み刺激等によって中枢神経系(脳-脊髄)が過剰興奮を引き起こし、その結果として痛みに対する感受性が増大してしまうことによって生じます。
いわば、感覚過敏状態に近いです。
この感覚過敏状態をチェックすることで、中枢性感作の有無をスクリーニングすることができるのですがその際に用いられる評価として『QST』というものがあります。
また、もう一つ中枢性感作症状をスクリーニングする評価としてよく用いられる方法に、Central Sensitization Inventory(CSI)と呼ばれる質問紙による評価方法もあります。
中枢性感作を患いやすい人の特徴
ここからは中枢性感作を患いやすい人の特徴を2つお伝えします。
ぜひ、今担当している患者さんに照らし合わせてご覧ください。
特徴その① 感覚過敏状態である
先ほど中枢性感作の評価方法としてCSIのことをお伝えしましたが、実はCSIのスコアが高い人たちの約70%の人が感覚過敏症状を示すことが明らかになっています。()
感覚過敏状態とは具体的にどんな状態なのか?
これは単に刺激に対して過敏な状態を示すだけでなく、音や匂いなども含めた様々な感覚刺激に対して過敏に反応しやすい状態を指します。
中枢性感作を患う半数以上の人がこうした特徴があると考えると、一つ無視できないファクト情報になりそうですね。
特徴その② 防御型高不安タイプである
まず前提として、腰痛をはじめ慢性的な痛みを抱える人のタイプは大きく4つに分類できると言われています。(Jacqui R.Clark,2019)
- 高不安タイプ(High Anxious)
- 防御型高不安タイプ(Defensive High Anxious)
- 低不安タイプ(Low Anxious)
- 抑圧者タイプ(Repressor)
この中で、最も中枢性感作症状を呈しやすいのが「防御型高不安タイプ(Defensive High Anxious)」と言われていて、どんな特徴があるかというと…
防御型高不安タイプ(Defensive High Anxious)の人の性格をすごくざっくり一言で言うと「心配性で、自分を守ろうとする傾向が強い人」です。
感覚刺激を脅威と認識しやすく痛みや不快感を強く感じる。また、医療介入を頻繁に求める傾向がある。(Jacqui R.Clark,2019)
この特徴をもっと現場レベルの話しで抽象化すると…
沢山の医療や代替医療を試したり、様々な医療機関を転々とする(いわゆる“ドクターショッピング”)をする傾向にある人がこの特徴に当てはまるのかなと僕は感じています。
防御型高不安タイプの人が持つ3つのバイアス
実は、防御型高不安タイプの人が持つ“思考”には3つの特徴的なバイアスがあることが示唆されていて、それが以下です。
- 選択的注意バイアス
- 解釈バイアス
- ネガティビティバイアス
防御型高不安タイプがもつ『選択的注意バイアス』
選択的注意バイアスとは、その名の通り特定の情報に対して選択的に注意が向くことですが防御型高不安タイプの人の場合…
自分自身に降りかかる“脅威(らしきもの)”に対して選択的に注意を向ける傾向があります。
その結果常に不安や心配事に思考を支配され、結果的に中枢性感作を増強させてしまう可能性が高いことが示唆されています。
防御型高不安タイプがもつ『解釈バイアス』
解釈バイアスとは、ポジティブでもネガティブでもないある種フラットな刺激に対してマイナスに解釈してしまうバイアスのことです。
俗にいう『マイナス思考』とほぼ同義と思ってもらって大丈夫です。
防御型高不安タイプの人は、客観的にみたら特に恐れるようなことがなさそうなファクト情報に対して異常なまでに脅威を感じ、不安や恐怖心が強くなる傾向にあります。
常に自分自身の注意が向くことで感覚が過敏となり、その結果として痛みの閾値も低下しやすくなるというプロセスを辿る可能性が高いです。
防御型高不安タイプがもつ『ネガティビティバイアス』
人はポジティブな情報よりもネガティブな情報の方が記憶に残りやすいと言われており、これを「ネガティビティバイアス」と呼びます。
防御型高不安タイプの人はこのバイアスが極端に強いことが示唆されていて、以前に感じた不安や痛み、その時の場面や状況を鮮明に記憶していることが多いです。
これが顕著なのが「運動の場面」で、何かしらの運動あるいは動作を行った際に”軽い”痛みであったとしても、それが自分の身体にとってはマズいことであると解釈してしまいます。
その結果、「この運動/活動をすると痛くなる」という具合に「その時の場面と痛み情報」リンクさせて記憶し特定の運動を避けるようになっていきます。
中枢性感作を患いやすい人の特徴まとめ
このように、中枢性感作を患いやすい人というのはある種性格に一つ大きな特徴があって、それが「防御型高不安タイプ」の人です。
逆にいうと、もし仮に担当している患者さんがこの記事で述べてきたような特徴がある場合は、「どんな治療を行うか」というよりもまずはコミュニケーションの取り方や患者教育、運動療法(種目)の選択といった部分をより繊細に行っていく必要があるかもしれません。
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