何らかのスポーツを続けていると、自分もしくは周囲(チームメイトなど)のメンバーの中で『イップス』という問題を抱えるケースがあります。
このイップスという用語自体が一番浸透しているのはおそらく野球だろうと思いますが、実際にはゴルフやピアノ、習字など書き物を仕事にする方にも生じたりすることがあります。
イップスはスポーツに限らず生じることがある
また、イップスとは医学的な側面で捉えると『ジストニア』の一種と考えられています。
ジストニアとは「自分の意思とは反して制御できない運動が勝手に生じること」であり、要は自分自身で力のコントロールができなくなる状態をいいます。
今回の記事では、海外の研究を元に…
- イップスの有病率
- イップスになりやすい人の特徴
この2点に関する結論をお伝えしていきたいと思います。
【ゴルファー必見】イップスの有病率となりやすい人の4つの特徴
はじめに
まずはじめに、今回ご紹介する論文はこちらです。
こちらの研究の目的は、オランダ在住で日頃からゴルフを行っている方々のうち、どのくらいの人がイップスを抱えていて、かつその原因として何が考えられるのか。
この2つを明らかにするために行われた調査研究です。
調査の方法としては、アンケートを採用していてゴルファーの皆さんに約30項目ほどの質問に回答してもらいました。
研究の目的
- オランダ在住のゴルファーはどれくらいの割合でイップスを抱えているのか?を明らかにする
- イップスになりやすい人の特徴は?を明らかにする
研究の方法と結果
アンケートの内容
実際にゴルファーの皆さんへ行ったアンケートの内容がこちらです。
アンケート①
- あなたの性別を教えてください
- あなたの生まれた年を教えてください
- これまでのゴルフの最低ハンディキャップを教えてください。
- 現在のゴルフのハンディキャップを教えてください。
- あなたの利き手を教えてください
- ゴルフをはじめたのは何年ですか?
- イップスを患ったことはありますか?「ない」場合は質問13に進む
- イップスになるのはどんなときですか?ショット中・パッティング・チッピング・アイアン・ドライバー
- イップスにかかったのは何年ですか?
- あなたのイップスはどちらの手ですか?右手・左手・両方・わからない
- あなたは1週間に何本アルコールを飲みますか?0本・1~7本・8~14本・14本以上
- あなたは1週間に何本のタバコを吸いますか?0本・1~10本・10本以上・止めた
- あなたはスポーツにどの程度熱中していますか?0~10(0=全く熱中していない、10=かなり熱狂的)
- あなたはゴルフにどの程度熱中していますか?(0=全く熱中していない、10=かなり熱狂的)
- ゴルフの試合前、あなたはどの程度緊張していますか?0~10(0=全くない、10=極端に緊張している)
- 強迫観念や強迫的な行動をとることがありますか?
- あなたは何らかの薬を使用していますか?「はい」の場合、薬の名前を記入してください。
- ご家族の中に神経症のようなものを患っている人はいますか?
- あなたは神経学的な障害をお持ちですか、または過去お持ちでしたか?
- ご家族の中にイップスの人がいますか?
アンケート②
ジストニアに関する質問
- 自分の意思に反して、自然に両目を閉じてしまうことはないのですか?「はい」・「いいえ」
- 自分の意志に反して、両まぶたを頻繁に瞬きしていませんか?
- 自分の意思に反して、自然に口を開けたり閉じたりすることはありませんか?
- 自分の意志に反して、唇が自然に動いてしまうことはありませんか?
- 自分の意思に反して、舌が自然に動いてしまうことはないですか?
- 声が小さくなる、声が詰まるなどの変調を感じたことはありませんか?
- 自分の意思に反して、頭が自然に動いてしまうことはないのか?
- 自分の意思に反して首を縦に振ることはありませんか?
- 自分の意志に反して腕や手が動いてしまうことはありませんか?
- 自分の意志に反して、腕や手が動かなくなることはありませんか?
以上が、ゴルファーの皆さんに実施したアンケートの内容です。
アンケートから得られた結果
最終的にアンケートに答えてくださった人は全員で234名でした。
参加者の属性については、234名中男性は150人(64%)で平均年齢は61歳、回答者全員の平均ゴルフ歴(中央値)は23年となっていました。
中央値が23年なら、皆さんゴルフ歴はかなり長いですね。
ゴルファーのうち約2割の人がイップス持ちだった
このアンケート調査で、234人中何人がイップスを持っているかが明らかになりました。
結論、234人中イップスに悩まされている方は52名(22%)という結果でした。
なお、このうちイップスを抱えた52名のうち48名(87%)は男性であったというのは非常に興味深い結果ではないかと思います。
男性の方がイップスになりやすいのかもしれないですね。
イップスは熟練してきたくらいから出始める
また、「いつからイップスが出始めたのか?」という点については中央値で6年ほどで出現し始めるケースが多いことが分かりました。
つまり、ゴルフをはじめて直ぐにイップスになるということはあまりなく、むしろ少し熟練してきたくらいからイップスは出現し始めることが多いということですね。
どのような場面でよりイップスが出現しやすいか?
という点については、約半数の23名はパッティング時、11名はチッピング時、1名はドライブ時でした。
グリーン周りからグリーン上をできるだけ転がしてカップインを狙うアプローチショットのこと
ドライバーショットの時よりもチッピング、そしてパッティングと、より微細な筋出力が求められる場面においてイップスは出現しやすいことから、イップスの一つの病態として「筋出力がコントロールできない」というのはやはり大きいかと思われます。
イップスは利き手に生じることが多い
イップスを持っていた52名のゴルファーのうち、利き手にイップスを発症していたのはなんと45人、割合でいうと約90%もいました。
上記の点も合わせると、イップスはその運動もしくはスポーツが熟練しはじめ、使い慣れた方の手に発症することが非常に多いということですね。
この研究から推測できるイップスのリスクプロファイル
はじめに伝えておきたいのは、今回イップス発症のリスクとして考えられるのは「あくまでこの研究から推測できること」という点です。
イップスの原因やリスクプロファイルに関して言及した研究というのは他にも沢山あって、研究デザインなどによって結論は様々です。
よって、ここでもアンケート調査によって得られた情報から言える範疇で結論を述べていきたいと思います。
まず、今回の研究から分かるイップスのリスクプロファイルは大きく以下4点であると考えられます。
- 男性である
- 喫煙歴がある
- ゴルフ歴が長い
- スキルが高い
先ほど述べたように、イップスを抱えた52名のうち48名(87%)は男性であったことから、実はイップスを発症する人のほとんどは男性であることが分かります。
なぜ、男性のみがイップス発症率が高いのかという点については未だ明らかになっていないところもあり、今後の研究が待たれます。
喫煙に関してですが、イップスが生じるゴルファーのうち29%が喫煙しているか、過去に喫煙していたことが明らかになり、一方でイップスのないゴルファーで喫煙歴を持っているのは13%でした。
喫煙がイップス発症の危険因子であることが判明しましたが、この関連性の生物学的裏付けはまだ解明されておらず、偶然の一致である可能性もあります。
The Dutch Yips Study: Results of a Survey Among Golfers.van Wensen E,2021
さて、以上が『イップスの有病率』そして『イップスになりやすい人の特徴』でした。
イップスの研究はここ最近増えてきているので、それらを元にしながらイップスの原因や対処方法について解説していきたいと思います。
参考文献
1)The Dutch Yips Study: Results of a Survey Among Golfers.van Wensen E,2021
コメント