この記事では、今後の理学療法や作業療法場面において必ず必要になってくるであろう『MCID』という概念について解説します。
これまで、症例発表等において初期評価と比べて最終評価でアウトカムとなる数値が改善すれば「介入に効果があった」という風潮が強かったですが、MCIDが浸透してくるとこの流れはおそらくパッタリとなくなります。
なぜならば、「効果があったorなかった」とする根拠が前後評価ではなくなるからです。
そこで今回は、このMCIDという概念について丁寧に解説し「臨床における効果判定の出し方」について見直すきっかけになればと思います。
MCID自体は2020年の神経理学療法学会以降、リハビリテーション業界ではかなりトレンドになってきているのでぜひこの機会に抑えておきましょう。
【今後のトレンド】理学療法や作業療法を実施する上で絶対に押さえておきたいMCIDという概念
MCIDとは何か?
MCIDとはMinimal clinically important differenceの略で、これは医療業界で用いられる臨床試験において介入が有効であるかどうかを判断するために使用される重要な指標の1つです。
もう少し分かりやすくいうと、治療や介入によって生じる変化が臨床的に意味があるかどうかを表す指標であり、症状の改善に必要な最小限の変化量を示します。
MCIDをすごく簡単にいうと、患者様が「良くなった」と感じることのできる最小の値と言えるじゃろう。
例えば、ある治療法が疼痛を軽減するために効果的であるかどうかを調べる場合、MCIDは治療前と治療後の評価の差が患者にとって主観的に重要な改善をもたらす程度の量であることを示します。
この場合でいう疼痛の評価には、例えばNRSやVASなどが当てはまります。
臨床においてMCIDが必要な理由
臨床現場においてMCIDが必要になってくる理由。
それは、自分自身が行った介入によって患者様に意味のある変化が起こせたかどうかを明らかにするためです。
従来の理学療法や作業療法場面を見てみると、前後のアウトカム(評価)の差だけを見て「効果があったorなかった」とする風潮が強かったです。
ただ、それだと極端なことを言えばほとんどのケースで「効果あり」となっちゃうわけです。なぜならば、1点でも改善すればOKという解釈なので。
しかし臨床において大切なことは、アウトカムが改善したという事実以上に、その『1点』の改善にどのような意味があるのか?ということなんです。
そして、この『〜点』の改善という事実に対して意味づけをしてくれるのがMCIDです。
例えば、あなたがある介入(方法A)を実施した場合。
方法Aが有効であることを示すためには、当然ですがその効果を評価する必要があります。
このとき、方法Aが患者様にとって有用なものであるかどうかを評価するためにMCIDを調べます。
調べた結果例えばMCIDが5点(仮)だった場合、方法Aによって生じた変化が5点を超えていれば、方法Aという介入が有効であることが示されます。
逆に、その変化が5点を下回った場合は「方法Aに効果があるとは言えない」となるわけです。
そうすると、例えば『3点』の改善が見られたとしても『効果あり』とはならないのです。
今まではアウトカムが1点でも改善していれば、『効果あり』となっていたと思うので、MCIDを臨床に導入するのは結果を解釈する上で大きなポイントになりそうじゃの。
- MCIDは、実施した介入が患者様にとって意味のある変化が起こったかどうかを評価するために必要な指標である。
MCIDの算出方法
MCIDの算出方法はいくつかありますが、以下に代表的な方法を紹介します。
- 分布ベース法(Distribution-based method)
- アンカーベース法(Anchor-based method)
- 両者の組み合わせ
分布ベース法(Distribution-based method)
ある検査や評価スケールの標準偏差(SD)や標準誤差(SE)などの統計値を基に、MCIDを算出する方法です。
代表的な方法としては、効果量(Effect size)、標準化応答平均(Standardized response mean)、最小検出可能差(Minimum detectable difference)などがあります。
具体的なやり方としては、アンケート調査や質問紙などを用いて大規模な患者集団からMCIDを算出します。
アンカーベース法(Anchor-based method)
ある既存の指標や尺度(アンカー)を使用して、患者様にとって主観的に重要な変化量を決定する方法です。
例えば、ある疾患の症状の改善について、患者様の主観的な評価(「良くなった」「やや良くなった」「同じ」「やや悪くなった」「悪くなった」など)をアンカーとして用いMCIDを算出することができます。
分布ベース法とアンカーベース法を組み合わせた方法
検査や評価スケールの統計値とアンカーを組み合わせて、より客観的なMCIDを算出する方法です。
いずれの方法を用いても、MCIDは臨床的に重要な変化を反映する量であることが求められます。
MCIDとMDCの違い
MCIDと類似する用語に『MDC』というものがあります。
この2つはよくごっちゃになってしまうことが多いので、ここではこの2つの違いについて解説します。
MCIDとMDCは、どちらも臨床評価において重要な指標ですが概念は違います。
繰り返しですが、MCIDは治療や介入によって生じる変化が臨床的に有意であるかどうかを評価するために使用される指標です。
一方MDCは、評価尺度や測定器具の信頼性を評価するための指標です。
MDCは2回の測定による評価結果のばらつきによって算出され、測定の信頼性を表します。
臨床において筋力や柔軟性、バランスといった評価を実施することがありますが、仮にその結果がMDCを下回ると実際に変化があったとしても「誤差の範囲内」という解釈になります。
ポイント
MDCは、アウトカムとなる評価方法の信頼性を把握するのに重要な指標です。
MDCを把握することで評価指標の再現性を知ることができ、治療や介入方法を評価する際そのツールを使用するか否かを判断するときにすごく役立ちます。
MCIDの例~Numerical Rating Scale(NRS)〜
最後に、MCIDの実例をご紹介します。
ここでご紹介させて頂く評価は『Numerical Rating Scale:NRS』です。
NRSのMCIDについては、各疾患や病期によって様々な報告があり「これ!」というものは現状ありませんが、一つ知見をご紹介すると以下の研究があります。
慢性筋骨格系疼痛患者825名(変形性膝関節症233名、変形性股関節症86名、変形性手関節症133名、関節リウマチ290名、強直性脊椎炎83名)を対象に実施されたもので、3ヶ月間にわたり彼らのNRSを測定しMCIDを算出しています。
結果、NRSが2点減少すれば臨床的に意味のある改善ライン(MCID)となることが明らかになっています。
つまり、慢性筋骨格系の患者様を見ていく場合は、少なくともNRSを2点以上改善させることがセラピストには求められるわけですね。
このようにMCIDという概念を押さえておくことで、ただ闇雲に「アウトカムとなる評価を改善させよう」という進め方ではなく、ある種セラピスト側が「目標を明確に定めることができる」という大きなメリットがあります。
今回はNRSだけをご紹介しましたが、その他の評価(NRS含め)についてMCIDを算出している論文は多数公開されているので、ご興味ある方はぜひ調べてみてください。
なお、以下の記事ではMCIDを実際に活用した研究をご紹介していますので、ご興味ある方はご覧ください。
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