神経筋電気刺激療法などを実施する際に知っておかなければならないこと。
それは、『モーターポイント:Motor Point』の位置です。
モーターポイントとは、神経が筋腹に侵入する部位および体表からの電気刺激で最も筋収縮が起こりやすい部位と定義されていますが(成田,2010)、臨床においてここをしっかり把握できているか否かによって得られる効果は大きく変わります。
そこで本日は過去の先行研究を参考に、よく臨床でターゲットになりやすい筋肉のモーターポイントをご紹介していきます。
この記事が神経筋電気刺激療法を実施するセラピストの皆さんの日々の臨床の一助になれば幸いです。
【治療やトレーニングをより科学的に】臨床で対象になりがちな筋肉のモーターポイント一覧
【前提のおさらい】モーターポイント(Motor Poit)とは何か?
モーターポイント(MP)とは、電気刺激が最も効果的に筋収縮を引き起こす位置のことを指します。
平たくいうと“神経が筋肉に入る場所”、つまり神経が筋線維を刺激して収縮を起こすポイントになります。
電気刺激療法において、モーターポイントを正確に特定し刺激することで効率的かつ効果的な筋活動を促すことができ、その結果として治療やトレーニングの効果を最大化することができます。
逆に、モーターポイントじゃない場所に電極を貼り付け神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation:NMES)等を実施するとどうなるか?
筋収縮を得られないどころか、電気による痛みを知覚しやすくなるといったデメリットもあります。それを説明しているのが以下の文章と上図です。
電極が正確に運動点(MP)の上にある場合、神経線維の軸索を興奮させるために必要な電流は最小限で済む。したがって筋収縮を誘発するために必要な電流は少なくなる。一方で運動点ではない場所(非MP)を刺激すると、運動枝(Motor Nerve)に到達するために高い電流強度が必要となり、痛みを伝える感覚線維(Sensory nerve)が興奮する可能性がある。つまり痛みを感じやすくなるということである。
Muscle motor point identification is essential for optimizing neuromuscular electrical stimulation use.2014より引用
ゆえに、しつこいですが必ずモーターポイントの位置を把握すること、これが電気刺激療法を実施する際の一丁目一番地になります。
- 小さな刺激強度でも効率的に筋収縮を促すことができる
- 余計な不快感や痛みを発生させず電気刺激を実施することができる
ただ一方で難しいのは、「モーターポイントの位置が筋肉の種類や人によって異なる」ということ。
実際いくつかの研究で筋肉の種類や個々人によってモーターポイントの位置は異なっていることが明らかになっています。(Botter et al., 2011,Gobbo et al., 2014,Moon et al., 2012)
モーターポイントの位置が筋肉の種類や人によってばらつくなら、もう元も子もなくね?
そう、元も子もないんです。
とはいえ、日々科学は進歩しているわけでして、人によってばらつきがあるモーターポイントの位置もある程度「この辺に集中している」というのが分かってきてるんですね。
それを解説していくのがこの記事のテーマです。
というわけで前置きはこの辺にして、実際に各種筋肉のモーターポイントを見ていきましょう。
①大腿四頭筋のモーターポイント
一刻でも早くモーターポイントの場所を知りたい方もいるかもしれないので、ひとまず結論から。
大腿四頭筋におけるモーターポイントの位置は…
- 大腿部下方の外側(外側広筋領域)
- 大腿部下方の内側(内側広筋領域)
です。ではもう少し具体的に解説していきます。
こちらの研究は、健常成人31名を対象に大腿四頭筋のモーターポイントの位置をヒートマップを使って明らかにした研究です。
この図は、大腿四頭筋のモーターポイント(MP)の位置を示すマップになっていて、色分けの違いは大腿四頭筋の各種筋肉を示しています。
具体的には、緑色が内側広筋、黄色が大腿直筋、赤色が外側広筋です。
図が2種類あるのでそれぞれ説明すると…
まず左の図、これは「全モーターポイントマップ」とされており、被験者全員分のモーターポイントの位置がプロットされている状態です。
右の図は、「最良モーターポイントマップ」とされ、これは全てのモーターポイントのうち電気刺激に最も反応するモーターポイントを表しています。
そのため、Aの図はばらつきと点の数が多いのに対し、Bの図は点の数が厳選されているのがわかるかと思います。
これでいくと、最良モーターポイントの密度が最も高い領域は、膝蓋骨の上縁からの近位5〜8cmかつ外側5〜7cm、あるいは内側5〜8cmの領域に集中していることがわかりました。
この研究ではモーターポイントの数に個体差があることが明らかにされており、大腿四頭筋全体で7〜11個、個々の筋肉では2〜4個のモーターポイントが存在することが示されています。また、最良のモーターポイントは他のポイントと比較して有意に反応が良いことが示されています(統計的に有意、p<0.001)。
で、その上でこれらモーターポイントの位置を確率で示したのが先ほど冒頭で示したこの図になります。
3x3cmの領域でモーターポイントを見つける確率を色の濃淡で表現していて、緑色ほどモーターポイントの位置となる確率が低く、黄色→オレンジ色→赤色の順でモーターポイントの確率が高いことを示しています。
最良モーターポイントマップを見ると、大腿四頭筋においてモーターポイントとして最も確率が高いのは外側広筋の領域になりそうであることが分かります。
先に示した内側広筋の部分もモーターポイントになる確率が高い(オレンジ)が外側広筋に比べるとその確率が低いことがわかるの
ここで重要なのは、大腿四頭筋の筋収縮の最大化を考える時…
大腿直筋(筋肉の中央付近)はモーターポイントになる確率が極めて低い
ということ。これすごく大切なところで、実際の臨床現場で大腿四頭筋“全体”に対して神経筋電気刺激(NMES)を実施する際なんとなく大腿部の中央付近に電極を貼ってしまうことってないですか?
これ、今回の知見をベースに考えると「あまり効果がありません」
もしこれまでこの辺をふわっと考え適当に電極を貼ってしまっていたという方は、この機会に見直してみると良いかもしれません。
②腓腹筋のモーターポイント
次は腓腹筋のモーターポイントについて解説していきます。
こちらもひとまず結論からお伝えすると…
- 膝窩部の中央
- 腓腹筋中心のやや外側
こちらの図の見方は先ほどの大腿四頭筋の時と同様です。
参考文献とヒートマップ図は以下です。
腓腹筋に関しては、最良モーターポイントマップのみを示していますが、ご覧の通りモーターポイントが膝窩部中央付近と腓腹筋中央のやや外側部分に集中しているのが分かるかと思います。
ポイントとしては、アキレス腱付近にはモーターポイントがほとんどないので注意です。
③上半身の筋肉におけるモーターポイント
では、次は上半身(上肢)の筋肉におけるモーターポイントを確認していきましょう。
参考文献はこちらです。
この研究は、30人の被験者の上肢と体幹筋で1563個のモーターポイントを特定しました。
これらモーターポイントは筋肉によって異なっていて1つの筋肉につき1〜5個見つかっています。
ちなみに対象となった筋肉がこちら
- 上腕二頭筋
- 上腕三頭筋
- 三角筋
- 僧帽筋
- 広背筋
- 脊柱起立筋(腰部)
- 小胸筋
- 大胸筋
- 腹直筋
上腕二頭筋
上図の『a』が一番わかりやすいですのでご覧ください。
上腕二頭筋のモーターポイントは2つあって、一つは筋腹の中央部分、もう一つは上腕二頭筋中央の内側付近に位置しています。
筋腱移行部というよりは、筋肉実質部分にあるということを覚えておこう!
上腕三頭筋
上図の『b』をご覧ください。
上腕三頭筋のモーターポイントは3つ見つかったようで、この3つが三角形を形成しているというのが特徴だったようです。
1つが遠位(肘関節に近いところ)と、あと2つは近位(肩関節方向)にありました。
ここもポイントは、筋腱移行部というよりは筋実質に集中しているという点ですね。
三角筋
上図の『c,d,e』がわかりやすいです。
三角筋のモーターポイントは全部で5つあって、三角筋の前部・中部・後部の上部を貫くような形で横一線に配列されているようです。
故に、三角筋のどこを狙うにしても、「上の方にモーターポイントがあったな」というイメージを持っておくと良いと思います。
大胸筋
上図の『a』をご覧ください。
大胸筋のモーターポイントは、3つ左右対称にあることが分かりました。
このあと解説する小胸筋のモーターポイントとの区別が分かりにくいですが、『a』の図でみると大胸筋のモーターポイントは内側部に縦で3つ並んでいるあれです。
ゆえに、大胸筋のモーターポイントを狙う際は「胸骨に近い内側部分にあるんだ」というイメージを持っておくと良いと思います。
小胸筋
上図の『a』をご覧ください。
小胸筋のモーターポイントは1つで、鎖骨の外側下部付近にあります。
表面上見ると「大胸筋では?」と思うかもしれませんが研究上は収縮が区別できているようです。
僧帽筋
上図の『b』をご覧ください。
僧帽筋のモーターポイントは全部で4つあって、上部から中部線維にかけて全て内側を縦に走るような形で位置しています。
広背筋
上図の『b』をご覧ください。
広背筋のモーターポイントは全部で3つあって、背中の外側を縦に走る形で位置しているようです。
腹直筋
上図の『a』をご覧ください。
腹直筋のモーターポイントは全部で4つ、筋腹を縦に跨る形で位置しています。
シックスパックという商品があの形をしているのもなんとなく理解できますね。
腰部脊柱起立筋
上図の『b』をご覧ください。
図を見ると分かりますが、腰部脊柱起立筋のモーターポイントは他のものに比べるとなんとなくぐちゃっとなっています。
これ実は被験者のうち5人、腰部脊柱起立筋のモーターポイントの位置や数が分からなかったんです。
その結果データが足りなくなってこういう形になっているようです。
ただこの5人を除くほとんどが、腰椎の横に均等に位置していたことから“おそらく”この辺りじゃないかという形で解釈されています。
モーターポイントまとめ
いかがでしたか?
下肢はヒートマップを使って割と明確にモーターポイントを示していますが、上肢(体幹)は少し抽象度が高い点に関しては、研究デザインが異なるのでご理解いただけたら幸いです。
ただ、筋肉をバクっと捉えて「どこだっけ?」となるよりかは「少なくともこの辺りだよね」の方が成功確率は高くなると思いますので、ぜひ臨床の一助にしていただけると嬉しいです。
それでは、今日も良い仕事しましょう。
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