リハビリテーションの現場等でよくぶつかる問題の一つに、患者様が「力を抜くことができない」もしくは「筋肉を緩めることができない」ということってないでしょうか?
実際の現象で例えるならば、『防御性収縮』がその代表例ではないかと思います。
要は、患者様自身も力を入れているつもりは到底ないのだが、無意識に患部周囲の筋肉に対して力が入ってしまうというあれです。
この時、「◯◯さーん、力入ってますよー!少し力抜きましょー!」といっても結論それで抜けることってほぼほぼなく、対処に困っているセラピストの方も多いのではないでしょうか。
実は、私たち理学療法士や作業療法士はじめ、おそらく柔道整復師や鍼灸師も同様ですが、『筋肉を収縮させるための方法』というのは例外なく養成校等で勉強します。
つまり、「一次運動野から皮質脊髄路から投射して脊髄の前角細胞で末梢神経にシナプスしてー」というやつです。
このような、筋収縮が生じるまでの一連の流れに関しては過去の教育等で比較的理解されている部分が多い一方で『力を抜き方』、要は『筋弛緩のメカニズム』ですね。
これに関しては、ほとんど習う場面がありません。その理由としては、いま現在も明確な機序が明らかになっていないといいのが一つあり、力を抜くためのメカニズムというのは、複数仮説が存在しています。
そこで、本記事では『力を抜くためのメカニズム』として現在考えられている仮説を一通り解説していきたいと思います。
防御性収縮などで、力が抜けない患者様へのリハビリテーションに難渋されている皆さんのヒントになれば幸いです。
それでは、はじめていきます!
【神経系から紐解く】力を抜くためのメカニズムを一覧でまとめてみた
現在考えられている力を抜くための仮説
2022年時点における、力を抜くためのメカニズムとして考えられている仮説がこちらになります。(下図)
図のみではスッと入ってきにくいかと思いますのでこれから解説していきますが、ひとまずポイントとなっている点をお伝えすると…
力を抜くためのメカニズムは『大脳皮質レベル』と『脊髄レベル』という2種類が想定されています。
- 皮質脊髄路を抑制する神経回路が存在するという仮説
- 脊髄レベルにおいて抑制性介在ニューロンが存在するという仮説
この辺りになってくるかと思います。
大脳皮質レベルによる筋弛緩メカニズム
まず、大脳皮質レベルにおける力を抜くためのメカニズムですが、この背景には以下のような知見が関係しています。
手指の筋弛緩時には、関与する筋の弛緩を制御する皮質脊髄路の興奮性が安静時に比べて低下することが観察された。(Buccolieri et al.2004;Begum et al.2005;Motawar et al.2012)
皮質脊髄路興奮性の低下は、あからさまな筋収縮を伴わない筋弛緩の心的表現(すなわち運動イメージ)を伴う場合にも観察された。(Kato et al.2015;kato and kanosue,2018)
このように、大脳皮質レベルにおける筋弛緩メカニズムの一つには、「皮質脊髄路の興奮性自体を抑制する神経が活発化する」というのが仮説として考えられています。
上図でいうならば、左側にある神経メカニズムがこの仮説にあたります。
脊髄レベルによる筋弛緩メカニズム
一方、皮質脊髄路自体の興奮性は低下しないが、脊髄前角細胞にて筋弛緩を促す仮説も存在しています。
この仮説の多くは、鈴木らの報告によるもので彼らは「随意的筋弛緩を実行する約60ms前に一過性のMEP増加、すなわちM1興奮性の増大がみとめられた。(鈴木ら,2014)」と述べており、皮質脊髄路の興奮性はむしろ低下せず、脊髄レベルにおける抑制性介在ニューロンが筋弛緩に関与しているという仮説を提唱しています。
こちらの仮説は、上図でいうならば右側の神経メカニズムにあたるものになります。
力を抜くためのメカニズムまとめ
というわけで、簡単ではありますが以上が『力を抜くためのメカニズム』として現在考えられている仮説一覧でした。
筋弛緩については、脳科学的な部分でさらに詳しく研究されている論文が他にもあるので、以下に記載している研究もぜひ参考にされてみてください。
1)Activities of the Primary and Supplementary Motor Areas Increase in Preparation and Execution of Voluntary Muscle Relaxation: An Event-Related fMRI Study.toma,1999
2)Brain Activity Underlying Muscle Relaxation.kato,2019
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Instagramの方でも詳しく解説しています。
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