こんにちわ!
さていくつかに分けてお伝えしています『麻痺側上肢の疼痛を訴える症例』の事例検討についてですが、今日はいよいよ今回の仮説立案における根拠の部分をお伝えしていこうと思います。
では早速始めていきたいと思います。
認知的側面であるという根拠を提示する
前回までは、今回の痛みの原因のうち『認知的側面以外の痛みの原因を反証する』
という部分にフォーカスを当ててお話ししていきました。
今回は、ではなぜ『認知的側面である』と言えるのか。
その根拠を提示していこうと思います。
①動作時の麻痺側上肢の異常な筋緊張
まず初めに、今回症例の特徴として
『動作時の麻痺側上肢の異常な筋緊張』というものが認められました。
なぜか、ほんのわずかでも動かすたびに一瞬で僧帽筋上部や三角筋などが過収縮するといった現象が認められました。
しかし、本人はこの現象に対しては気づいていない様子で
「ただ、動かそうとすると痛みがきそうなのでもしかしたら力が入っているかも・・・」
と、自分の身体における筋感覚といったものが鮮明に感じ取れていないといった現象と言語記述でした。
これが果たして何を意味しているのか。
と、この現象から一つあることを思いつきました。
それが、畿央大の森岡周先生らが論文等で言われている不活動に基いた疼痛のメカニズムモデルです。
このモデルをフレームワークとして今回の病態を少し紐解いていくと、現在この患者さんは脳卒中後片麻痺という状態になっており、これを『損傷』の位置づけに仮定したとします。
すると、それにより随意性が低下し『運動抑制』が生じていると考えると、そこから麻痺側の不使用が続いたことによる『学習性の不使用』になってしまったのではないかと推論しました。
この学習性の不使用を裏付けるものとしては、本人の痛みが生じるパターンを少し思い出してほしいのですが、その中には
「寝返りの時に右腕を忘れている」
「ふと手をつく」
といったように、身体意識から麻痺側上肢がなくなっている時に強い痛みが生じていることが事実としてありました。
と考えると、麻痺側上肢の不使用による脳内体部位再現が狭小化しその結果身体イメージが破綻し、その結果、自分の筋感覚をきちんとフィードバック出来ないために異常な筋緊張にそもそも気づけないのではないかと考えました。
さらに、こうした不使用から発生してきた疼痛はさらに、運動を抑制し(痛くなりそうという不安から)疼痛防御行動に繋がっていくループを辿っていることが考えられました。
ここまでが僕の推論なのですがただ、『身体イメージの破綻』というのはこの時点ではまだあくまで僕の推測でしかありません。
ではどうやってそれを立証するのか。
そのツールとして『二点識別覚』を用いました。
②二点識別覚と身体イメージ
まず、上記の現象から僕は『身体イメージの破綻』を考えたのですが、ただ検査もせずに現象から憶測で身体イメージの破綻というのはあまりにも推論が飛躍しています。
そこで、『身体イメージの破綻』というのであればそれ相応の評価を実施してみなければなりません。
そこで僕が行ったのが『二点識別覚』なのですが、なぜこれを行ったのか少し説明します。
なぜ『二点識別覚』なのか
身体イメージの評価を行うのにこれを選択した理由は、オーストラリアの理学療法士であるMoseleyの研究を参考にしたからです。
Moselyは慢性腰背部痛の患者を対象に身体イメージと二点識別覚の関連性を見たのですが、結果は身体イメージが低下している部位で二点識別覚の距離が増大し、さらにその身体イメージが低下している部位と痛みには関連があったことを報告しています。
またこれ以外の論文を拝見しても、
感覚野の皮質体部位再現は、対応する身体部位の知覚機能を担っていることから慢性疼痛患者では神経障害性か運動器疼痛かに関わらず、痛みのある身体部位の二点識別覚が低下している。
慢性疼痛に対するニューロリハビリテーション 信迫ら
との報告があります。
では、このような研究をもとに今回の患者さんに話を戻します。
今回、この方は比較的感覚障害が軽度であったことから、もしかしたら二点識別覚にて左右比較が行えるのではないかと考えられたため、今回身体イメージの評価として二点識別覚を実施しました。
上腕前面(右.左):60mm、20mm
上腕外側(右.左):60mm、20mm
上腕後面(右.左):60mm、20mm
前腕(右.左):40mm、30mm
手背(右.左):30mm、30mm
上図を見て頂くと分かる通り、やはり肩関節付近に特化して二点識別覚の距離に左右差が大きく表れる結果となりこれら客観的指標のもと『身体イメージの破綻によるもの』という風に仮説を構築した次第です。
さて、以上で今回の仮説に基づく科学的根拠の提示は以上になります。
終わりに
正直、まだまだ見落としている部分があるかもしれませんが、現時点で僕が考えられる仮説は今まで述べたものになります。
一応、ここまでの仮説立案までの段取りと根拠の提示は担当されている上司にお伝えしたので、果たして変化が見られるのか、逆にこの仮説が反証されるのか。
反証される可能性は十分有り得ます。
その時はまた新たな仮説を考えていかなければならないと思っています。
そのためにも今後、また機会があれば診させていただき、状態を確認していきたいと思っています。
今回結論に至るまでだいぶ長くなってしまい申し訳ありませんでした。
最後までご覧いただき本当にありがとうございます。
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