痛みの『強さ』を評価する際に、おそらく最も使用されるであろうツール。
それが、『visual analogue scale:VAS』もしくは『numerical rating scale:NRS』ではないかと思います。
今回、これを踏まえた上で皆さんに一つお聞きしたいのは…
VASとNRS、どっちを使うのが好ましいと思いますか?
という問いです。
臨床を見渡してみると、何かしら明確な理由があって使い分けてる人って案外いなくって、「使い慣れてる方」だったり、「なんとなく」で選んでいる人が多いような気がします。
皆さんはどうですか?
というわけで今回は、「VASとNRSどちらを用いた方が良いのか?」これについて先行研究を参考に解説していきたいと思います。
この記事を最後まで読むことで…
- 臨床でVASとNRSどちらを使用すれば良いかが分かる
- VASやNRSを実施する時に気をつけるべき点が分かる
以上2点がクリアになるかと思います。
臨床で、ほとんどのセラピストの方がVASやNRSを活用するかと思いますので、ぜひ最後までご覧頂き明日からの臨床に活かして頂けると嬉しいです。
それじゃ、やってこー。
【痛みの評価】NRSとVAS、臨床で使うべきはこっち!
結論に入る前に、まずはVASとNRSがどんな評価法だったかおさらいしておきましょう。
visual analogue scale:VAS
紙に長さ10cmの黒い線を引きそれを患者様に見せる。そして、現在の痛みがどの程度かを患者様に指し示してもらう視覚的なスケール。
numerical rating scale:NRS
0が「痛みなし」、10が「想像できる最大の痛み」として0~10までの11段階に分けて、現在の痛みがどの程度かを患者様本人に口頭で指し示してもらう評価スケール。
\結論/痛みの強さを評価するなら『NRS』
では、結論です。
痛みの強さを評価する際に活用した方が良い評価は『NRS』です。
「なぜ、VASよりもNRSの方がおすすめなのか?」
ということですが、ここからはその理由やこれら評価法を用いるときの注意点について解説していきます。
NRSが好ましい理由~VASとNRSを比較した研究~
「VASとNRSどっちを使った方がいいか」というのを解説するにあたって、実はそれを明らかにした研究があるのってご存知ですか?
それがこちら(↓)なんですが、今回はこの研究を参考にしています。
この研究は、VAS、NRSそしてVerbal Rating Scale(VRS)という3つの痛みの(強さ)評価スケールを比較・検討したシステマティック・レビューです。
上記、痛みの評価を比較した論文が最終的に54本検討され結論づけられています。
結果
以下に、本研究のポイントとなる点をいくつか箇条書きで示します。
- 全体としてVASが圧倒的に使用頻度の高い評価尺度であった。(54の研究のうち52本でVASを利用)
- NRSは54件のうち32件で採用されていた
- ほとんどの論文で尺度間(VAS,NRS,VRS)の相関は良好であり、特にNRSとVASの相関は良好である。
- NRSの得点は同等のVASの得点より高く出る傾向にある
- VASは年齢や他の障害が増すと誤差が大きくなるため、認知障害のある人にはこの尺度は適用しにくい。
- VASはコンプライアンス(遵守率)が低いことが9件の研究で認められた。
以上の結果から分かるように、臨床においてVASを用いるケースって結構多いのは事実である一方、定規や紙など何かしら道具を必要とするVASは遵守率が低いということが指摘されています。
NRSはそういった問題などが特になく、かつVASとNRSの評価結果自体には高い相関があるので「だったらNRSを用いた方が適切なんじゃないか?」ということでこちらがオススメだと結論づけられています。
VAS/NRSを利用する際に共通する注意点
アンカーラベルがバラバラな件
これ、おそらく多くの方が意外とやっちゃってる問題の一つだと思うんですが…
みなさんはVASやNRSを実施する際に、痛みがない状態(NRSなら0)とMAXの状態(NRSなら10)を患者様に聴取する時、なんと質問していますか?
NRSであれば…
痛みがない状態を0、想像できる最大の痛みを10としたら今の痛みはどれくらいですか?
このように聞く人もいれば、中には10の痛みについて「過去経験した中で最も痛いものを10とした時に今はどれくらいですか?」と聞いているケースもあったりします。
要は、VASを用いるにしてもNRSを用いるにしても質問する内容によって尺度(アンカーラベル)がズレてしまうという問題があるんです。
実際にこの問題は、このレビューでも指摘されていて以下に利用されていたアンカーラベルを一部抜粋して示します。
VAS | NRS | |
0:痛みがない 10:最悪の痛み | 6 | 16 |
0:痛みがない 10:想像を絶する痛み | 1 | 3 |
0:痛み全くない 10:耐えられない痛み | 5 | 4 |
0:痛みがない 10:想像を絶する激痛 | 4 | 3 |
0:痛みが全くない 10:強い痛み | 3 | 2 |
0:痛みがない 10:最大の痛み | 3 | 4 |
ほとんどの尺度が「痛みなし」を下限としているが、上限ではより多くのバリエーションがあり、中には以前の痛み体験との比較を示唆するものもある「経験した最悪の痛み」。
Studies comparing Numerical Rating Scales, Verbal Rating Scales, and Visual Analogue Scales for assessment of pain intensity in adults: a systematic literature review.Hjermstad MJ,2011
このように、VASやNRSを実施する際アンカーラベルはこんなにも多様でズレがあるのです。
これに加えて、「過去経験した痛みを10とすると…」みたいなものもあるのでn=1も含めるとその数はもっと多いと思います。
アンカーラベルがズレると当然表出される結果も変わってしまうので、ここはやはり統一することが必要です。
特に、1人の患者様の痛みの状態を経過として追っていく際に、最初は『痛みなし/想像できるほどの痛み』としていたのに経過の途中で『痛みなし/過去経験した最悪の痛み』にアンカーラベルが変わってしまう。みたいなことはNGなので、必ず1人の患者様の経過を追う際にはアンカーラベルを一貫させておきましょう。
同じ患者集団で長期間にわたって痛みを評価する場合には、同じ方法論(同じ尺度、言葉遣い、形式)を適用する必要がある。
Studies comparing Numerical Rating Scales, Verbal Rating Scales, and Visual Analogue Scales for assessment of pain intensity in adults: a systematic literature review.Hjermstad MJ,2011
ちなみに、この研究では『痛みなし/想像できる最大の痛み』を標準エンドポイントとすることを推奨しています。
痛みの評価まとめ
以上が、「痛みの(強さ)評価を行う際にVASとNRSどちらを用いるべきか?」ということに対する答えと、これら評価を用いる際に注意すべき点になります。
アンカーラベルの件などは、さっそく明日の臨床から心がけてもらえたら良いかと思います。
それでは、明日もいい仕事しましょう!
参考文献
1)Studies comparing Numerical Rating Scales, Verbal Rating Scales, and Visual Analogue Scales for assessment of pain intensity in adults: a systematic literature review.Hjermstad MJ,2011
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