病院やクリニックにおいて、股関節疾患の患者様を担当する理学療法士や作業療法士の方は数多くいらっしゃると思います。
そこで今回は、整形外科的テストの中でも股関節(特に筋肉)に対して行う評価を一覧でまとめ、かつ評価の意義や実際のやり方について解説していきます。
股関節疾患に関する評価項目を一覧で見たいなぁ…
この評価ってよく見るけど…なにを知るための評価なんだっけ?
なんで、この姿勢で検査しないといけないといけないんだっけ?
こういったニーズや疑問をお持ちの方は、是非最後までご覧ください。
この記事を見た後には、股関節疾患に関する評価の種類や目的、方法論を網羅的に理解できる状態になっていると思います。
【整形外科テスト】股関節疾患でよく用いられる評価5選
整形外科テストの目的は?
各種方法論を列挙していく前に、まずは「そもそも整形外科テストってなぜやるんだっけ?」という根本的なところをしっかり抑えましょう。
整形外科テストを実施する目的、それは「痛みや症状が出ている組織を明らかにすること」です。
例えば、『膝関節の可動域制限がある症例』で考えていくと、その症例は膝関節屈曲の最終域で伸張感や疼痛を訴えていました。
この時、考えられる仮説として以下のような点が挙げられたとします。
- 膝の前方に伸張感が出現している
- 膝蓋骨下方に伸張感が出現している
- 膝蓋下脂肪体に伸張感が出現している
これを見ると、③よりも②、②よりも①の方が抽象度が高いことが分かるかと思いますが、これは時系列的に示しているので少しその流れを見ていきます。
まず最初に、①「膝の前方に伸張感が出現している」という仮説に対して、問診や触診を行うことでそのふわっとしている問題の所在が②「膝蓋骨下方にあるな」というように少しクリアになります。
加えて、②の問題をさらに具体化するために例えばここで整形外科テストの一つである、『hoffa test』を用いるとそれが陽性でした。
となると、当初はふわっとしていた仮説が③「膝蓋下脂肪体に伸張感が出現している」という具合に疼痛が生じているであろう組織が明確になるわけです。
このように、整形外科的テストを用いることによって痛みや症状が出ている組織を明確にすることができるのです。
これが臨床現場で整形外科テストを行うことの目的になります。
整形外科テストを用いることで、痛みや症状が出ている部位(解剖学)が明確になり、「どういう時に痛いか」、その時に「どのような負荷がかかっているのか(運動学)」が分かる。
その結果として、どのようなストレスが加わっているのか「ざっくり」把握できるが『ざっくり』という表現をした理由については、後述する「筋長テストの信頼性について」の項目で解説する。
筋骨格系において疼痛が出現しやすい組織はいろいろありますが、今回は股関節の代表的な筋長テストについて解説していきます。
① thomas test(トーマステスト)
トーマステストの目的と手順
目的
股関節屈曲筋(主に腸腰筋)の伸張性を検査すること
手順
対象者は背臥位となり、セラピストは非検査側の下腿近位と足部を把持する。
セラピストがゆっくり他動的に非検査側の股関節を屈曲方向へ誘導する
トーマステストの陽性反応と機能的意義
陽性反応
検査側の下肢が屈曲する
機能的意義
なぜ、非検査側股関節を他動的に屈曲すると検査側の股関節が浮き上がる(屈曲する)のか?
その理由は、非検査側の股関節を屈曲することで骨盤が後傾して検査側の股関節が伸展位となる。
もしこの場合、検査側腸腰筋に短縮が生じていると検査側股関節に伸展制限が生じるため股関節が屈曲する。
② modified thomas test(モディファイドトーマステスト)
モディファイドトーマステストの目的と手順
目的
股関節屈曲筋の伸張性を検査すること
手順
両下肢をベッドから出して背臥位をとり、非検査側下肢を対象者に屈曲固定してもらう。
セラピストは検査側の股関節を様々な方向へ他動的に動かした際の股関節伸展可動域を確認する。
モディファイドトーマステストの陽性反応と機能的意義
陽性反応
- 股関節を外転位にすると股関節の伸展可動域が拡大する
→大腿筋膜張筋ないし腸脛靭帯の伸張性低下が考えられる(当該筋が緩むので) - 膝関節を伸展することで股関節の伸展可動域が拡大する
→大腿四頭筋の伸張性低下が考えられる(当該筋が緩むので) - ①,②が陰性にも関わらず股関節の伸展制限が残ってしまう
→腸腰筋の伸張性低下が考えられる
機能的意義
対象者に非検査側股関節を屈曲固定してもらうことで、骨盤が後傾して検査側の股関節が伸展位となる。
上記の①〜③で挙げた筋肉はいずれも股関節屈曲筋であるため、股関節伸展位にて伸張性の評価を行うことで短縮している筋の把握に繋がる。
主に腸腰筋の伸張性を評価するトーマステストと比較してモディファイドトーマステストでは大腿筋膜張筋や大腿直筋との判別を同じ肢位で行える点にある。
③ely test(エリーテスト)
エリーテストの目的と手順
目的
大腿直筋の伸張性を検査すること
手順
対象者は腹臥位となる
セラピスト検査側の膝関節を他動的に屈曲する
エリーテストの陽性反応と機能的意義
陽性反応
股関節屈曲(尻上がり現象)が生じる
機能的意義
腹臥位で膝関節を屈曲していくことで大腿直筋の起始停止が離れる。
大腿直筋に短縮がある場合には代償動作として大腿前面が浮き上がり股関節屈曲の代償が生じる。
④ ober test(オーバーテスト)
オーバーテストの目的と手順
目的
大腿筋膜張筋ないし腸脛靭帯前部線維由来の伸張性を検査すること
手順
対象者は側臥位をとる。
セラピストは検査側の膝関節を90°屈曲させ大腿部遠位を把持する。
セラピストは検査肢位より大腿部遠位で把持していた手を放す。
オーバーテストの陽性反応と機能的意義
陽性反応
股関節が内転位にならない(重力に抗じず落下しない)
機能的意義
大腿筋膜張筋ないし腸脛靭帯前部線維が伸張位となる肢位から重力により自由落下させることで伸張性の低下を鑑別することができる。
⑤ modified ober test(モディファイドオーバーテスト)
この方法は、オーバーテストの変法になります。
モディファイドオーバーテストの目的と手順
目的
大腿筋膜張筋ないし腸脛靭帯(後部線維)の伸張性を評価する
手順
対象者は側臥位、セラピストは膝関節伸展位で下肢を把持し、体幹の延長線まで股関節伸展と外転位で保持する。
セラピストは検査肢位より大腿遠位で把持していた手を放す
モディファイドオーバーテストの陽性反応と機能的意義
陽性反応
股関節が内転位にならない(重力に抗じず落下しない)
機能的意義
大腿筋膜張筋ないし腸脛靭帯(後部線維)が伸張位となる肢位から重力により自由落下させることで、伸張性の低下を鑑別することができる。
腸脛靭帯近位部は、大腿筋膜張筋の他に大臀筋、中臀筋も合流している。また、腸脛靭帯は外側広筋を覆う筋膜の肥厚部分であるためオーバーテストが陽性となった際には大腿筋膜張筋の他にこれらの筋の伸張性低下が示唆される。
オーバーテスト(変法含む)を行う際のポイント
オーバーテストとモディファイドオーバーテストの使い分けとしては、オーバーテストでは検査側の膝関節を屈曲して行うため腸脛靭帯前部線維の伸張性低下を、モディファイドオーバーテストでは膝関節を伸展位にするため腸脛靭帯後部線維の伸張性低下をみている。
Ober testおよび変法ober testともに「股関節内転位の制限」や「膝がベッドにつかない」といったように書籍によって陽性の基準が様々です。
ここからは個人的な見解にはなりますが、オーバーテストないしモディファイドオーバーテストの陽性反応を見るとき2つ確認していることがあり、それが「左右差を確認すること」と「中臀筋・小臀筋・関節包の短縮」です。
ポイント① 左右差を確認すること
1つ目が「左右差を確認すること」です。
非検査側も同様の検査を行い、検査側と比較して
- 検査側のみ疼痛が出現する
- 拘縮によって左右で可動域制限が著明に出ている
などの所見があった場合には、検査した筋に疼痛あるいは拘縮を引き起こしている可能性が高いと判断するようにしています。
ポイント② 中臀筋・小臀筋・関節包の短縮
「オーバーテストおよびモディファイドオーバーテストは大腿筋膜張筋ないし腸脛靭帯の拘縮をみるテスト」とお伝えしてきましたが、注意点にも記載したように他の組織も影響していると言われています。
Gilbert M の2016の研究で
Ober testおよび変法ober testにおいて腸脛靭帯切断後の股関節内転角に有意差がなく、中臀筋・小臀筋・関節包の切断によって股関節内転角に有意差が見られた。
An Anatomic Investigation of the Ober Test.Gilbert M,2016
という報告がありました。
つまり、オーバーテストおよびモディファイドオーバーテストで陽性になった場合に前述した大臀筋の他にも「中臀筋・小臀筋・関節包の短縮が影響している可能性がある」と考えられます。
ここまでの内容を踏まえて臨床では、大腿筋膜張筋ないし腸脛靭帯の近位側と遠位惻に分けて評価を行っています。
遠位側
- 腸脛靭帯前部線維の緊張をみることができるオーバーテストでは外側広筋と腸脛靭帯の癒着が考えられる
- 腸脛靭帯後部線維の緊張をみることができるモディファイドオーバーテストでは大腿二頭筋と腸脛靭帯の癒着が考えられる
組織間が一塊となって動かなくなっていること
近位側
- オーバーテストおよびモディファイドオーバーテストで疼痛が生じた場合には、中臀筋・小臀筋を触診して圧痛がないか確認する。
というような形で確認すると、より制限となっている組織が明確になるのではないかと思います。
筋長テストの信頼性について
エリーテストは大腿直筋、トーマステストは腸腰筋の拘縮をみるテストではありますが、末梢神経(主に大腿神経)や鼠径部痛の問題によって疼痛が出現している場合やそれらが混在している可能性もあります。
最初から、問題を決めつけて治療を行うよりも疼痛を訴えている部位で他に疼痛を引き起こしやすい組織がないかを考えて評価を進めていくとより質の高い検査になるのではないかと思います。
股関節周囲における整形外科テストまとめ
それでは、今回お伝えした内容でポイントとなる部分をまとめます。
- 整形外科的テストは「痛みや症状が出ている組織を明確にする」ために有効
- 目的としている筋以外の部分にも負担をかけるテストなので他の組織によって疼痛が出現している可能性があるため他の軟部組織の評価も併せて行ない評価の質を高めるようにする。
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