【痛みの理学療法】情動的側面からみる「痛み」のリハビリテーション

前々回より『痛みのメカニズム』と題し、痛みの種類や性質そして慢性疼痛に至るまでのメカニズムを中心に解説していきました。

ちょっとおさらい

痛みの3つの側面とは

  1. 感覚的側面
  2. 情動的側面
  3. 認知的側面

痛みにはこのような3つの側面がありました。

中でも、感覚的側面は特に「急性期」などの炎症が強い時期に生じやすく、主にその原因は末梢の効果器にある場合が多い。

そして一方で、情動的側面や認知的側面に向かうほど、中枢神経系の可塑的変化を受け得やすく痛みの原因が複雑化していくことが多い。

というところが前回までの話しでした。

今回からは、より難渋しやすく「慢性疼痛」の原因とされる、情動的側面認知的側面における痛みのリハビリテーションについて考えていこうと思います。

この記事を読んで分かること
  • 痛みの情動的側面と運動療法の関係が理解できる
  • 痛みが慢性化しやすい人の特徴が理解できる
  • 慢性疼痛の脳内メカニズムが理解できる
  • 慢性疼痛に対する介入方法が理解できる
目次

情動的側面からみる「痛み」のリハビリテーション方法

痛みの情動的側面〜周期的な運動療法(セロトニンによる効果)〜

解説が長くなるので、先に結論から言います。

情動的側面におけるリハビリテーションの一つとして、『周期的(リズミカル)な運動は慢性疼痛の改善を図る効果がある』とされています。

その理由をこれから解説していきますので、まずはここちらの報告をご覧ください。

周期的なペダリング運動を行うことで、介入前に比べて「痛みの中枢」である前帯状回の活動が低下する。

これは何を意味しているかというと、要は前帯状回の活動が減少すれば痛みも軽減するということです。

また、この後絡んでくるので先に述べますが、先ほど同様“ペダリング運動を行うとセロトニンという物質の放出量が多くなる”ということも分かっています。

痛みとセロトニンの関係

はじめに、セロトニンとはそもそも何かということですが…

セロトニンは「幸せホルモン」とも言われ、不安や筋緊張などをコントロールしている物質です。

セラピスト

セロトニンってどんな時に出るの?

セラピスト

セロトニンは、私たちがポジティブな感情になったりするときに沢山放出されます。

逆に言えば、不安が強い人や緊張しやすい人などはこのセロトニンの放出量が低下しているといえます。

実は、このセロトニンの活性度合いと先ほど話した前帯状回には強い負の相関が認められることが分かっています。

セラピスト

負の相関…?

セラピスト

つまり、セロトニンの放出量が多い人ほど前帯状回の活動が抑制されるということですな!

ここまでの話しを論理的にまとめるとこのように解釈できます。

周期的な運動療法が痛みを軽減させる理由

  • 前提:前帯状回の活動を抑えると痛みが軽減する
  • 事実①:前帯状回の活動はセロトニンという物質によって抑制することが出来る
  • 事実②:周期的なペダリング運動を行うとセロトニンが沢山放出される
  • 結論:周期的な運動療法(ペダリングなど)を行うことによって痛みの軽減が図れる可能性がある

繰り返しですが…

逆に、セロトニンの放出量が低いと前帯状回の活動は上がってしまうため、痛みを知覚しやすくなるというのはなんとなく理解できるでしょうか?

セラピスト

なら、セロトニンが出にくい人の特徴ってなんなん?

「痛みに対して過度な不安を抱いている人や、痛みによって常に身体が緊張している人」です。

要は対象者が『うつ傾向』にあったり、『不安症状』が過度に露呈している時に痛みを受容しやすくなってしまうのです。

よって、痛みの原因を評価した際は以下の点を注目して観察してください。

・「この人は不安が強そうな性格だな」

・「緊張しやすい人だな」

このような傾向にある人に対しては、はじめにうつ状態の有無を検査し、その傾向が強ければリズミカルで周期的な運動療法を実施するのは1つの手段としてありではないかと思います。

よく歩いたリ運動をすることで痛みが一時的に軽減するという人がいますが、この理由としても運動をすることで脳内セロトニンの放出量が増加するために痛みが軽減するのではないかとも考えられています。

実際、運動療法が慢性腰痛の軽減に一役買っているという論文が2021年に発表されており、それらを以下の記事にまとめておりますので良ければご覧ください。

セロトニンはどうやってつくられる?

※これは余談です※

セロトニンの合成には血液中のトリプトファンという物質が必要です。

トリプトファンは穀物・肉類・乳製品に多く含まれている必須アミノ酸の一つになりますが、基本的に必須アミノ酸は体内で合成されません。

そのため、トリプトファンを合成するためには食事などにより、体外から摂取するしかありません。

つまり何が言いたいかというと・・・

痛みの治療には『食事』もめちゃめちゃ大切だということです。

よく、患者さんのなかには食欲がなくて食べない人がいますが、「疼痛管理」という視点において食事や栄養摂取はリハビリを行っていく上で非常に大切です。

私達が今後、痛みのリハビリテーションに関わっていく場合、「栄養」という部分も考えていかなければならないかもしれないですね。

痛みの情動的側面〜課題指向型訓練&認知行動療法〜

“内側前頭前野と痛みの慢性化”

慢性疼痛患者様の痛みの強さと『内側前頭前野』といわれる脳部位の活動には正の相関があるとされています。

つまり…

痛みの強度が強い人ほど、内側前頭前野の活動が高いということです。

内側前頭前野は主に感情のコントロールを行う時に機能する脳領域ですが、大事なポイントは、内側前頭前野の過活動によって側坐核という部位に抑制がかかることです。(ちょっとまわりくどくてすみません…)

では、「側坐核は何をするところなの?」というと

側坐核は大脳基底核の一部であり「ドーパミン」といわれる神経物質の放出に関わっている部分です。

実は、このドーパミンという物質が鎮痛効果に大きく影響しており、このドーパミンの放出に関与する側坐核を抑制する内側前頭前野の過活動というのは、痛みを抑制するうえでとても大きな弊害になってくるわけです。

セラピスト

え?てことは、内側前頭前野の過活動が抑制されれば、痛みの主観的強度も減るのでは?

大正解です。

とはいえ、どうやったら内側前頭前野を抑えることが出来るのでしょうか?

ここを解決しないことにはどうにもなりません。

では、どうすれば内側前頭前野を抑制する事ができるのか?

それを可能とするのが「背外側前頭前野」と言われる部位です。

背外側前頭前野は内側前頭前野を抑えることが出来る

実はこの内側前頭前野と背外側前頭前野は互いに抑制関係にあることが分かっています。

つまり、背外側前頭前野の活動が高まれば内側前頭前野の過活動は落ち着くという事です。

研究においても「背外側前頭前野」を実験的に直接興奮させた研究では、痛みの情動的側面である不快感の指数が減少した。”との報告があります。

つまり、背外側前頭前野の興奮は痛みの情動的側面を抑制できる神経システムだということです。

セラピスト

どうやったら『背外側前頭前野』が働くの?

では、どうすればこの背外側前頭前野が働くのか。

それは、目標に向かって意図して取り組んだ時や、自発的に制御しようと前向きな意思が生じたときに背外側前頭前野は賦活すると言われています。

つまり、自分で痛みをコントロールしようとする意識や目標などを決めてそれに向けて取り組むことで背外側前頭前野は活動しはじめるのです。

よって、方法論としては2つあります。

①課題指向型訓練

痛みに注意が向かないよう、目標を決め課題をクリアしていくことによって背外側前頭前野が働きやすい状態をつくります。

②認知行動療法

患者本人と面談などを通して本人自身が痛みに対する負の考え方や捉え方を修正するといった手続きを踏むことで背外側前頭前野が働きやすい状態をつくります。

痛みの慢性化のモデルとして、以下に示す恐怖-回避モデルが提唱されていますが、認知行動療法はこのループから抜け出すためにとても大切な方法になります。

痛みの情動的側面まとめ

今回は、痛みの情動的側面に対するリハビリテーションとして2つの方法論(正式には3つ)を提案しました。

1つは『周期的(リズミカル)な運動療法』

例えば、自転車エルゴメーターなどですね。

もう1つが『課題指向型訓練』『認知行動療法』です。

課題指向型訓練は、達成可能性のある課題をセラピストが提供しそれをクリアしていくことによって背外側前頭前野を働かせやすい状態をつくります。

認知行動療法は、痛みに対する負の感情を是正し、慢性疼痛の機序で説明される恐怖-回避モデルから抜け出すために必要な治療法となります。

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