新人セラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)とリハビリ学生を応援するためのブログ

身体性とは何か?~身体性の階層性とリハビリテーション~

スポンサーリンク

『身体性』とは

Gallagherは

“自己の身体が自分のものであるという所有の意識”を『身体所有感』と呼び、“自己の行為を実現しているのは自分自身である主体の意識”を『行為(運動)主体感』

と定義しました。

 

哲学の領域では、この2つの自己意識を総称して『身体性(embodiment)』と言います。

 

身体所有感と行為主体感のメカニズムを簡単に説明すると…

 

身体所有感は、基本的に視覚と体性感覚が時間的・空間的に一致することにより生じると言われています。(森岡.2018)

 

一方、行為主体感は運動意図(遠心性コピー)とそれに伴う感覚フィードバックが一致することにより生じるとされています。(森岡.2018)

 

※詳しくはこちらをご覧ください

身体性が変容するとどうなるの?

では、この身体性が変容すると一体どのような現象を呈するのでしょうか。

 

身体性が変容した場合に臨床でしばしば見かける現象としてこのようなものが挙げられます。

 

《身体症状》

✓異常知覚

✓neglect like syndrome

✓疼痛増大

etc・・・

 

《発言》

「私の身体のように感じない」

「他人の身体のように感じる」

「自分で動かしている感じがしない」

「(手足を)動かす時に、その部位に注意を向けておかないと動かせない」

「(手足を)自分の思い通りに動かせない」

 

身体性が変容している患者様は主にこのような症状や言葉を発します。

身体性の階層性

さて、次に身体性の構造についてもう少し詳しくみていきましょう。

 

synofzikは、身体性には3つの階層性があると提唱しています。

 

下から『感覚運動表象』『命題的表象』『メタ表象』というようになっています。

感覚運動表象

感覚運動表象、これがこれまで述べてきた一般的な『身体性』に当たる部分です。

 

すなわち、視覚と体性感覚が同期して生まれる身体所有感や、予測と体性感覚フィードバックの同期によって生まれる運動主体感が含まれ、これらの情報の不一致が生じると、異常知覚や痛みなどが出現してきます。

 

基本的にこの“感覚運動表象”は3つある階層の中で最も下層の部分であり、一時的な自己であるminimal selfとも呼ばれています。(後ほど説明します)

 

命題的表象

命題的表象は、個人の経験や意図などが関与するもので、例えば「運動すると痛みが強くなる」といったものなどが挙げられます。

というのは、運動と痛みには直接的な関連性はないにも関わらず、過去運動によって痛みが増幅した経験があったり、他者から運動すると痛くなると教えられたりと、個人の経験により『認知的な歪み』を形成することがあるからです。

 

メタ表象

メタ表象は、他者との関係性や社会における自己の位置づけといった社会的自己が関与しています。

 

例えば、『自分の身体が他者からどのように見られているか』というものや、『自分が他者よりも劣っていることによって自分自身の身体に嫌悪感を抱いてしまう』ことがこれにあたります。

 

以上3つが身体性の階層性になるのですが、ここで大事なことが2点。

 

1つ目として、感覚運動表象は比較的科学的な部分が強い(視覚と体性感覚の不一致、予測とフィードバックの不一致)ため、誰でも条件が揃えば生じえます。

スポンサーリンク

 

しかし、一方で命題的表象メタ表象は過去の経験や他者と比較した時の自分の考えなど、とても個別性があるのが特徴です。

 

2点目は、感覚運動表象は先ほどminimal selfといわれると述べましたが、命題的表象とメタ表象はnarrative selfといわれています。

次は、これについて少し説明していきます。

 

minimal selfとnarrative self

 

minimal selfとnarrative self

 

認知科学領域では、この2つを『自己意識』のことであるとしています。

 

narrative selfは永続的に存在する自己,つまり過去の記憶から未来の展望まで含めた自己像です。

 

一方minimal selfとは一時的な自己であり,身体所有感と運動主体感が含まれます。

 

これだけみると、これまで述べてきた身体性は基本的に感覚運動表象の事であると思いがちになりますが、実は命題的表象とメタ表象によって結果的に“身体性”に影響を及ぼすことがあります。

 

だからこそ、身体性は3つの階層からなるといわれており、次はそれについて述べていきます。

 

narrative selfによる身体性の修飾

例えば、このような実験があります。

 

赤い傷があるラバーハンドをあたかも自分の手ように錯覚を起こした場合、疼痛の閾値が低下するというものがあります。(つまり、痛みを感じやすくなる)

 

これはなぜかというと、過去の経験から『赤い傷』というのは出血などの怪我を連想させることから『赤い傷=疼痛を生み出す』という命題的表象が関与しているからです。

 

また、手が2倍の大きさに見える錯覚鏡を用意し、『手が大きくなる』という錯覚させた後に疼痛を加えると、その疼痛が増大する人と変わらない人が存在することが分かったという実験があります。

 

ただ、この実験のポイントというのは、錯覚によって疼痛が増大する人というのは自己の身体に対してネガティブなイメージを持っていたことがわかりました。

 

つまり、自己身体に対してネガティブなメタ表象が関与していたのです。

 

このように、『身体性の変容』は基本的には感覚運動表象における視覚や体性感覚、予測といった機能的な部分が大きく関与している所ではありますが、命題的表象やメタ表象といった個人の経験や自己身体に対する認識といった非常に個別性の強い情動的な部分が下の階層である感覚運動表象を修飾し、身体性を変容させているのです。

 

身体性の変容に対するリハビリテーション

感覚運動表象による身体性の変容に対するリハビリテーションは今回割愛しますが、命題的表象やメタ表象に問題がある人は、多くが認知の歪みを抱えていることから“教育的な介入”が必要になってきます。

 

方法論としては、認知行動療法を代表とするような、認知の歪みの是正や目標を設定することで、身体性が変容している部位に対して固執しない関わり方が必要になってきます。

 

というのは、自分の身体に対してポジティブな意識を持つことで、メタ表象が感覚運動表象に対してポジティブに修飾することが出来るからです。

 

以上が、『身体性』についてのメカニズムと階層性、リハビリテーションはほんの一部ですが、ご紹介になります。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。

スポンサーリンク