痙縮のメカニズムについて、なんとなくわかってはいるものの自分の言葉でうまく説明できない方っていませんか?
この理由は、痙縮自体に多くの説があることがその一因だと思います。
そこで、今回は数ある痙縮の定義からひとまず1980年にLanceが述べたものだけに絞り、痙縮のメカニズムについてお伝えできればと思います。
とはいえ、痙縮自体がすごく複雑であることに変わりはないので、評価も含めて全3回に分けて解説していきます。
- 痙縮のメカニズムが理解できる
- 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの違いが分かる
- 伸張反射の仕組みが分かる
“痙縮”とは①~基礎生理学と病態メカニズム~
痙縮とは
痙縮の定義は、“上位運動ニューロン障害の代表的な症状のひとつであり、伸張反射の相対的亢進により生じる筋伸張速度に依存した受動運動に対する抵抗の増大を主とする(Lance.1980)”
というのが一般的に言われています。
ただ正直、この文章だけではメカニズムが掴みづらいと感じる方もいらっしゃると思うので、以下ではこの文章を出来るだけわかりやすく噛み砕いて説明して行きますので、これまで痙縮のメカニズムに関してふわっとしていた人は今日を機に、しっかり自分の言葉で説明できるようになりましょう。
【痙縮の解明その①】上位運動ニューロンって何?
上位・下位運動ニューロンのおさらい
神経系には、“上位運動ニューロン”と、“下位運動ニューロン”の2つが存在しています。
冒頭の痙縮の定義にてLanceさんが言っていたのは“上位運動ニューロン”ですね。
上位運動ニューロンの正体。
これは、すごく簡単にいうといわゆる皮質脊髄路のことです。
要は、大脳皮質から脊髄前角細胞まで投射する神経系のことを総称して上位運動ニューロンと呼んでいるのです。
一方で、下位運動ニューロンというのは筋皮神経や正中神経などに代表される末梢神経にあたります。
上位運動ニューロン=皮質脊髄路(注)
下位運動ニューロン:末梢神経
(注)厳密には網様体脊髄路など、皮質脊髄路以外の下行性運動ニューロンも存在する。
また顔面部でいえば、“顔面神経”や“三叉神経”なども末梢神経になるため『下位運動ニューロン』に分類されます。
では、顔面部の『上位運動ニューロン』は何になるのでしょうか??
これは“皮質核路”と言われるものになります。
上の図でいうなら、ピンクと青の線は『上位運動ニューロン』。緑の線は『下位運動ニューロン』になります。
これらを少しまとめると…
⚫大脳皮質から脳幹・脊髄に至る神経→『上位運動ニューロン』
⚫脳幹・脊髄から出ていき筋肉まで至る神経→『下位運動ニューロン』
とすることが出来ます。
※今回は、それぞれの具体的な役割については割愛します。
では、本題に戻ります。
Lanceさんが述べた、痙縮の定義の中にあった“上位運動ニューロン障害”
これは、つまり脳卒中によって大脳皮質から脳幹・脊髄に至る神経である、皮質脊髄路や皮質核路が障害されることを意味しています。
【痙縮の解明その②】伸張反射の相対的亢進とは?
先程まで説明したのは、脳卒中によって上位運動ニューロンが障害されるんだよ。というところまで。
次に生じる疑問が、“上位運動ニューロン障害によって相対的に伸張反射が亢進する”とは一体なんのこっちゃ。
てことです。
これを理解するためには、まずはそもほも『伸張反射』について知る必要があります。
伸張反射とは
伸張反射とは、筋肉が伸張刺激を受けると感覚神経であるⅠaニューロンが脊髄の全角細胞に至り、そこで運動神経であるαニューロンに伝達して筋肉が収縮する。といった脊髄反射の一つです。
これが一般的に伸張反射といわれるものなんですが、では何故上位運動ニューロン障害が起きるとこの伸張反射が亢進してしまうのか…
それは基本的に健常者であれば、この伸張反射のループは上位中枢(上位運動ニューロン)から抑制されているからです。
つまり、こういうことです。(下図)
この図を見ると、α運動ニューロンに対して脳から抑制がかかっているように見えますが、本来はこの抑制はⅠa感覚ニューロンに投射しています。
このように、上位運動ニューロンが末梢にある伸張反射ループに抑制をかけることを『シナプス前抑制』といいます。
このシナプス前抑制が必要である意味。
その理由は、無駄に伸張反射を起こさせないようにするためです。
私たちヒトは必ず毎秒ごとに身体を動かしています。
つまり運動を行っているのですが、もしこの際にシナプス前抑制がなければどうなるか。
伸張反射は筋肉が伸張する度に反射的に筋肉が収縮しますから、運動を行うと意図しない筋収縮が絶えず生じてしまう可能性があります。
しかし、シナプス前抑制が存在することで、随意的な運動を行う際は上位運動ニューロンから末梢の伸張反射ループに対して不必要な伸張反射を生じさせないように抑制をかけているのです。
とすると、冒頭で述べた『上位運動ニューロン障害によって相対的に伸張反射が亢進する』の意味が何となくお分かりでしょうか??
つまり上位運動ニューロン障害が生じると、大脳皮質からのシナプス前抑制が外れちゃうので、その結果今まで抑制されていた伸張反射ループが亢進し始めるといったことが生じるのです。
この伸張反射が亢進した結果、筋肉が持続的に収縮状態に陥る“痙縮”が完成してしまうわけです。
いかがでしたでしょうか??
以上が、“痙縮”のメカニズムになります。
脳卒中後遺症においては、この痙縮というのが非常に予後に深く関わってくる要因の一つになります。
リハビリテーションにおいて、このような様々な現象に挑んでいくためには、まずはその病態の理解が必要だと思います。
ただ、臨床では難解でどうにも分からない現象もまた出てくるのが当たり前です。
そんな時、そこから逃げずに勉強して向き合っていけば、そこで得られるものはきっと大きいのではないでしょうか。
次回は、痙縮の評価などに関する部分をお伝えしていければと思います。
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