痙縮とは③~評価編~

さて、前回まで『痙縮』をテーマに様々な生理学的機序を中心にお話ししていきました。

痙縮シリーズ最後となる今回は、『痙縮に対する評価』です。

ただ、種類などに関しては正直教科書やネットで調べれば簡単に出てくるなと思いましたので、今回は痙縮に関連する評価に関してのメリットデメリット、また行うにあたって考慮するべき点などを重点的に書いていこうかと思います。

この記事で分かること
  • modified Ashworth Scale(MAS)のポイントを抑える
  • 腱反射の特徴を抑える
  • 痙縮を客観的に評価する方法を抑える
目次

痙縮とは③~評価編~

では、以下に痙縮の評価に用いられる方法を一つずつ挙げて行きます。

①modified Ashworth Scale(MAS)

痙縮の評価として、おそらく最も頻繁に用いられる評価の一つ、それが『modified Ashworth Scale(MAS)』です。

MASは、徒手的に他動関節運動の抵抗性を6段階で検査する評価です。

メリットとしては、比較的簡便に行えますしおおよその筋緊張の程度を共有するツールとしては有効ではないかと思います。

一方でデメリットとしては…

『MAS自体が非常に主観的である』という部分です。

主観的というのがどういった問題を生むのか。

(例) 1人の患者様の痙縮の程度を3人のセラピストがMASを行った場合。

セラピストA

僕はグレード1だと思います

セラピストB

私は1+だと思ったのですが…

セラピストC

私は2だと思ったんだけどなあ…

先生

ふふふ。正解は・・・1です!

とまあ、こんな感じでセラピストの主観が強く表れるので評価結果に誤差が生じやすいんです。

さらにいうなら、この先生が言っているのも厳密にいったら怪しいものです(笑)

MASは、臨床の際に他のセラピストと情報共有をざっくり行う上では有効なのですが、例えばこの情報を学会発表などでその他セラピストに自分が見てきた患者様の情報を伝える際に、先程例を出したようにセラピスト間で評価結果に誤差が生じるMASでは誤差間が大きく客観性に欠けるため、痙縮の評価自体がやや不十分な可能性が出てきます。

MASのメリット

簡便なので臨床で使いやすい。

MASのデメリット

評価がセラピストの主観によるものなので、セラピスト間のばらつきが大きくなりやすい。

②深部腱反射

深部腱反射は『痙縮』の代表的な検査の一つです。

この検査も、非常に簡便で実施しやすいことがメリットとして挙げられます。

同時に、これはセラピストが主観で評価できるものではなく『反射』という生理学的反応が評価指標となるので、MASに比べてばらつきも発生しにくいです。

一方でデメリットですが、深部腱反射に関してはデメリットというよりも気をつけなければならない点があるので、それについて解説していきたいと思います。

それではさっそくなんですが、2問問題を出します。

Q1.腱反射の亢進と筋緊張の亢進は同義語でしょうか??

Q2.腱反射が亢進するのは『錐体路障害』ですか?『錐体外路障害』ですか?

Q1.の答えは『NO』です。

そしてQ2.の答えは『錐体路障害』です。

当たりましたか??

では解説していきます。

まずはじめに、深部腱反射が亢進しているからといって筋緊張が亢進しているとは限りません。

その理由は、例えばパーキンソン病を考えてみましょう。パーキンソン病を代表とする錐体外路疾患では、筋緊張の亢進(固縮)は見られますが、伸張反射の亢進は目立たないことが多いです。

日頃、よく「腱反射を行って伸張反射が亢進している場合は錐体路障害が疑われる」と言っていますよね?

ただ、ここで思い出してほしいのですが、伸張反射には相動性伸張反射と持続性伸張反射の二種類あったことを覚えていますか?

この場合、相動性伸張反射と持続性伸張反射のうち果たしてどちらの反射の亢進が錐体路障害でしょうか?

もうお分かりですね?

そうです。腱反射を行った際「亢進している」というのは、『相動性伸張反射の亢進』を表しています。

相動性伸張反射の亢進は『痙縮』
持続性伸張反射の亢進は『固縮』

『痙縮』,『固縮』両者ともに、筋緊張自体は高い可能性があります。

しかし冒頭で述べた通り、だからといって腱反射が両者とも亢進するとは限りません。

なぜなら…

『痙縮』は【錐体路障害】

『固縮』は【錐体外路障害】

であり、深部腱反射は『錐体路障害』を見る検査であるからです。

そのためパーキンソン病などのように、固縮によっていくら筋緊張が高いといっても、錐体路障害ではないため、腱反射が亢進するとは限らないのです。

最後は、臨床でなかなか使うことはないですがより客観的に痙縮を評価する方法についてご紹介していきます。

③神経生理学的検査

H波

H反射というのは、Hoffmanが発見し報告したことより名づけられています。

主に、相動性伸張反射を反映するための誘発筋電図検査です。

具体的には、電気刺激により伸張反射の感覚成分であるⅠa感覚ニューロンにインパルスを生じさせる事によって、脊髄前角細胞を興奮させ、結果的に筋収縮をもたらす反射のことです。

なお、この時に生じた反射を『H反射』といいます。さらにこのH反射が生じた際、筋電図では筋活動の波形が出現するのですが、これを『H波』と呼びます。

この筋電図で出現するH波脊髄の興奮性を可視化できるツールとなっています。

脳卒中後遺症により痙縮が強い方では、脊髄の興奮性が高くなることからこのH波が大きく出現してきます。

逆にH波が出現しない場合は、感覚神経障害などが考えられます。

※より正確に計測する場合はM波と言ってα運動ニューロンに直接電気刺激を行い得られた波形と、H波との比で算出します。

なお、検査が行える筋肉としては、下肢は『ヒラメ筋』、上肢は『橈側手根屈筋』から測定できます。さて、このH波を用いた検査のメリットとしては…

▶︎痙縮の状態を客観的に評価できる

これが、一番ではないかと思われます。現に現在多くの研究者の方がH波を用いて痙縮の程度を可視化することで、脳卒中片麻痺のリハビリテーション戦略を検討しています。

中でも関西医療大学の鈴木俊明先生は、このH波などのツールを用いて痙縮に関する論文を大変多く執筆されていますので是非一度ご覧になってみてください。

さて、では一方で、デメリットとしては…

▶︎臨床の単位時間内で検査することが困難

であることが挙げられます。研究を行う上では時間的確保もできるため実施できますが、臨床の限られた時間内では、筋電図等も用いるため時間的なコストが大きいことがデメリットとして挙げられます。

(ただ、個人的にはこういった数値化できるデバイスを評価ツールとして利用した方が、私達の行っているリハビリテーションの結果としては表しやすいのではないかと思います。)

F波

H波がⅠa感覚ニューロンを刺激して生じるのに対し、F波はα運動ニューロンを電気刺激して筋収縮を生じさせる検査です。

F波の『F』は、当初足部(foot)の筋肉から記録されたことに由来しています。

H波と比べた時のメリットとしては、H波は『ヒラメ筋』と『橈側手根屈筋』からでしか計測できませんが、F波はどの筋からでも測定可能である点です。

デメリットは、H波と同様で筋電図を用いて行う検査であるため、やはり時間的コストがかかるという部分が挙げられます。

まとめ

以上が『痙縮』に関する評価ツールになります。

痙縮のみにフォーカスを当てると中々ツールとしては少ないですが、脳卒中全般における機能評価としてはこれまで挙げてきたツール以外にも以下のような評価法があります。

・Strok Impairment Assessment(SIAS)

・Fugl-Meyer assessment(FMA)

今後、『痙縮』に対するリハビリテーションの発展のためにはより多くの人と情報共有を行い、そして議論を行っていかなければなりません。

しかし、情報共有といってもセラピスト一人ひとりが見ている患者様を全員が同じように見ることは不可能です。

だからこそ、出来るだけきちんと数値化や視覚化出来る評価ツールを用いることで、より多くの人と議論が出来る材料の一つになるのではないかと思います。

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