今回は、『幻肢痛』について、そのメカニズムとリハビリテーションについて解説していきたいと思います。
切断患者様を担当する療法士の方は、脳卒中や整形外科疾患科に比べるとそう多くはないと思いますが、特に幻肢痛による痛みはすごく難渋する可能性が高いのでぜひこの機会に抑えていただけたらと思います。
それでは、はじめます。
幻肢痛のメカニズムとリハビリテーション~VRを用いた治療~
幻視痛とは
幻肢痛について、話す前にまずはそもそも『幻視』とは何かについて、もう一度おさらいじゃ。
幻肢とは四肢切断後、欠損しているはずの空間に四肢が存在しているかのように感じたり、痺れ感や温冷感を感じたりすることです。
発生割合は四肢切断患者の80%以上に生じることが分かっています。
また、この現象は四肢切断患者だけに発症するわけではなく脳卒中や脊髄損傷、末梢神経障害などにより運動(感覚)障害が生じた人にも幻視と同様の症状が生じることがあります。
ちなみに、これを“余剰幻視”というんじゃ。
幻肢痛は、この幻肢に疼痛が伴った場合をいい 切断者の50~80%に発生すると報告されています。
幻肢痛のメカニズム
現在、幻肢痛のメカニズムとして考えられているのは“知覚-運動ループの破綻”じゃ
知覚-運動ループの破綻?
そうじゃ。もし知覚-運動ループについて何のことか分からなければ、この論文を読んでみるとよいぞ。
幻肢痛について多数の論文を書かれている東京大学の住谷先生は幻肢痛の機序についてこのように述べられています。
通常であれば統合されているべき知覚-運動ループが神経損傷や四肢切断によって破綻した際に四肢の異常を知らせるアラームとして疼痛(幻肢痛)が起きていると考えられている。(住谷.2016)
加えて、切断により脳内に帰結する感覚フィードバックが減少することで切断患者の脳内のボディマップは縮小することが分かっています。
現に、上肢切断患者における上肢領域の一次運動野と一次体性感覚野は切断後狭小化し、元々上肢の領域だった皮質領域は顔などの領域に変化していくことが報告されています。
これも、幻肢痛を発生させる要因の一つとなっているようです。
幻肢痛が生じない人の特徴
ここまで幻肢痛のメカニズムを話してきたが、当然切断患者の中には幻肢痛が存在する人としない人がいるんじゃ。その違いが分かるかな?
うーん。なんだろう…
これについては、以前テレビ番組で幻肢痛について特集されていたんじゃが、そのワンシーンがとても分かりやすかったので少しそれを見てもらおうかの。
はい!お願いします!
どうじゃ?この一連の流れで何か気づいたことはあったかな?
この男性は自分の手がないのにものすごく鮮明に自分の腕を感じているように思いました!
そうじゃ。そこなんじゃ。
住谷先生によると、切断患者の中には切断肢を鮮明にイメージ出来る者がいることが分かり、鮮明にイメージ出来る人ほど幻肢痛が軽度であったということが分かったそうです。
先ほど、幻肢痛が生じる人の脳内体部位局在は狭小化していると述べましたが、このように鮮明に幻肢の運動を知覚できるタイプの人の脳内はどうなっているのか。
というと、彼らの脳は健常の人と同じように一次運動野や一次体性感覚野が賦活することが分かっています。
幻肢患者の中には幻肢を随意に運動することが出来る(幻肢が運動しているように鮮明に知覚できる)者がおり、その際には健常な四肢随意運動に類似したM1/S1の賦活化が観察される。(住谷.2016)
- M1(一次運動野)
- S1(一次体性感覚野)
ここまでの内容からリハビリテーションを考えていった場合、幻肢痛を防ぐもしくは治療していく上では知覚-運動ループの整合性を図り、かつ切断肢の脳内体部位局在の賦活化を図っていく必要がありそうです。
幻肢のイメージをどのように評価するのか
とはいうもの先生。臨床において、切断患者様が幻肢を鮮明にイメージ出来ているかってどうすれば定量的に評価するんですか?
そうじゃな。次はそれについて話そう。
両手協調運動課題(Bimanual circle-line coordination task:BCT)
人は両手動作を行う時、両手で異なる運動を行ってもどちらか一方に収束してしまう特徴があります。
これだけだとよく分からないと思うので、実際にどんな評価なのかやってみましょう。
右手で△を書きながら左手で〇を同時に書き続けるとどうなりますか?
恐らく、書き続けてると多くの人が右手も〇をになっていくと思います。
これが、両手動作を行う際一方に収束してしまうということです。
このメカニズムを応用して作られた評価法が両手協調運動課題(CBT)です。
課題内容は?
課題の内容は、健側肢で『直線』を引く一方、切断肢(幻肢)では『円』を描きます。
すると、幻肢を随意的に運動出来る人は健側肢が幻肢に収束し、健側肢で書いている直線が徐々に円に近づいていきます。
逆に、幻肢を随意的に動かせない人はこの収束が起こらず健側肢が影響を受けません。
『リハビリテーションのための脳・神経科学入門 森岡周』より引用
幻肢痛のリハビリテーション
virtual reality(VR)を用いた治療
『sensori-motor Integrationと痛みの慢性化 住谷ら』より引用
最後に、これらを踏まえて幻肢痛のリハビリテーションについて話していこうかの
おさらいですが、幻肢痛のメカニズムとして知覚-運動ループの破綻というのがありましたが、リハビリテーションを行っていく際にはこの病態を考慮した方法論が必要となってきます。
そこで、現在行われているのがバーチャルリアリティ(VR)を用いたリハビリテーションです。※論文あり
VRを用いた幻肢痛の治療は、バーチャル空間上で切断されたはずの腕を再現しその腕を意のまま操作することで知覚-運動ループの再獲得を図る方法です。
その際、切断によって物理的には腕が存在しないため、リアルタイムの感覚フィードバックは『体性感覚』ではなく『視覚』を利用しています。
また、バーチャル空間上だとあたかも自分の切断肢があるような錯覚が生じるため、幻肢の運動イメージがしやすくなります。
VRを用いたリハビリテーション実施後では、治療前には見られなかった幻肢の随意運動が出現しそれに伴って幻肢痛の軽減が図れることが分かりました。
『sensori-motor Integrationと痛みの慢性化 住谷ら』より引用
また、この治療により狭小化していた脳の体部位局在が修復されることも報告されています。(住谷.2017)
『sensori-motor Integrationと痛みの慢性化 住谷ら』より引用
- 左(C):幻肢の随意運動獲得前
治療前(幻肢の随意運動獲得前)は、口唇の運動によって手の領域も活動が生じていた。
- 右(D):幻肢の随意運動獲得後
治療後(幻肢の随意運動獲得後)は、口唇の運動によってその範囲領域のみが活動し、手の領域までは及んでいない
VR治療の実例
以上が、幻肢痛のメカニズムからリハビリテーションに至るまでの内容になります。
ちなみにVRを用いた幻肢痛のリハビリテーションの実例がビジネス・メディアである『ダイヤモンド・オンライン』で取り上げられています。
実際に上肢切断後、幻肢痛が生じている方で実施しているので生の感想を読むことが出来ます。
興味があれば是非一度ご覧になってみてください。
VRを用いた幻肢痛リハビリテーションの実例
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