近年リハビリテーションの現場において、『運動イメージ』を臨床に用いるケースというの増えてきており、特に脳卒中後遺症や切断、CRPSをはじめとする慢性疼痛の領域においてその効果の高さが実証されてきています。
どれほどアツい領域なのか、気になる方はpubmedやGoogle scalarにて、『mental practice』もしくは『motor imagery』と検索をかけてみてください。かなりの量の論文がヒットするはずです。
それらの中には、ランダム化比較試験(RCT)にて行われている研究もいくつかありますので、参考にして頂けたらと思います。
で、中でもより具体的に運動イメージを臨床に落とし込んで使用されている例が『Graded Motor Imagery:GMI』という方法ではないかと思います。
これは、オーストラリアの理学療法士であるLorimer Moseley氏が慢性疼痛患者に対するリハビリテーションの方法として開発してもので、簡単に仕組みをお伝えすると…
『①メンタルローテーション課題→②実用場面における運動イメージ課題→③ミラーセラピー』という3段階からなる運動イメージトレーニングを実施し、これによって慢性疼痛に特徴的な神経科学的メカニズムの改善を図ることが可能になることを提唱しています。
ちなみに、このGMIの具体的な手順やポイントについては、オンラインサロン『はじまりのまち』内で(動画付きで)具体的にまとめていますので、ご興味ある方はぜひご参加お待ちしております。
そんなわけで、リハビリテーションを進めていく上で『運動イメージ』というのは非常に重要になってくるわけですが、一方で実際に現場で活用していくとなるといくつか問題も出てくるわけです。
その一つが、「対象者の方が運動イメージを行えているかどうか見えない」という問題でして、ここが一つ躓きポイントだったりします。
そこで今回は、この問題を解決するための手段として一つある方法をご紹介したいと思います。
ぜひ、最後までご覧いただき明日の臨床に活用して頂けると嬉しいです。
それでは、はじめていきましょう!
運動イメージを定量的に評価する方法〜bimanual circle-line coordination task(BCT)〜
運動イメージを活用するときの課題
改めて、運動イメージというのは臨床場面において非常に有効である一方、課題があるとすれば…
「対象者の方が運動イメージを行えているかどうか見えない」
ということで、要するに評価する際その結果が完全に患者様の自己申告に委ねられてしまうという側面があります。
そのため、「運動イメージが本当にできているのだろうか?」という部分で、多少なり評価結果に懐疑的になったセラピストの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実際、運動イメージの評価はいくつかあるのですが恐らく現場で最も利用されているであろう評価スケールが『Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire (KVIQ)』ではないかと思います。
これは、上肢・手指・下肢・頸部&体幹における運動パターンを対象者に対して質問し、その際の運動イメージの鮮明度を評価します。
なお、評価は『筋感覚イメージ』と『視覚イメージ』、両方を分けて評価することができます。
※『筋感覚イメージ』と『視覚イメージ』がピンとこない方はこちらの記事をご覧ください。
ただ、このKVIQも「運動イメージができているかどうか」は対象者の言葉次第なので、これも客観性に欠けるという難点があります。
このように、運動イメージを評価しようとすると「客観性に欠けてしまう」という点がいささか課題としてあるのですが、そんな中一つ運動イメージをできる限り客観的に評価できるツールがあります。
それが、『bimanual circle-line coordination task(BCT)』というものです。
bimanual circle-line coordination task(BCT)
BCTは『両手動作は互いに干渉し合う』という特性を活かして、運動イメージの評価に転用されているもので、主に脳卒中後遺症や切断、CRPSをはじめとする慢性疼痛患者様のリハビリテーションに応用されることが多いです。
BCTを用いた研究報告もいくつか挙がっておりますので、以下に論文URLを添付しておりますので、ご興味ある方は原著をご覧ください
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304394015300793]
BCTの手順としくみ
BCTの進め方を簡単にまとめると、以下のような感じです。
①患側(麻痺側)で円(◯)を描く(描こうとするイメージでもOK)
②健側(非麻痺側)で直線を上下に描き続ける
そうすると、通常片方の手で円(◯)を描こうとすると、もう片方の手の運動が影響を受け直線がだんだん丸くなっていく。という現象が起きます。
つまり、もし実際に(例えば脳卒中患者様に対して)この評価を行った場合、麻痺側の「円を描く」という動きに非麻痺側が干渉され描いている直線が丸みを帯びてきたのであれば、「麻痺側の運動イメージが行えている」と判断できます。
一方で逆に、麻痺側の上肢で運動イメージは行っているものの、非麻痺側の直線がなんら影響を受けなかった場合、この時は「麻痺側の運動イメージができていないのかもしれない」と推論を立てることができるわけです。
このように、BCTを用いれば対象者の頭の中で起きていることを可視化することが可能になるため、客観性を担保できるという点でいうとすごく有効だと思います。
BCTの注意点と限界点
ただしBCTにも注意点や限界点というのはあります。
まず注意点ですが、これは「両手動作が干渉し合わない人がいる」ケースです。
世の中には、元々両手動作が独立していて互いの運動が干渉しない方というのが稀にいます。
その時は、仮に運動イメージが行えていたとしても直線が全く干渉されないということが起きるので注意が必要です。
そして、限界点。
これは、現状BCTは上肢に限られた評価であるという点です。つまり、下肢や頸部・体幹に問題を抱える方には使用できないというのが、現在BCTを用いる上での使用条件になってくるかと思います。
それでも、上肢もしくは手指の運動イメージを定量化する上では非常に有効な手段かと思いますので、ご興味ある方はぜひ活用されてみてください。
参考文献
1)Structured movement representations of a phantom limb associated with phantom limb pain.osumi,2015
2)Motor-imagery ability and function of hemiplegic upper limb in stroke patients.morioka,2019
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