本日は、脳卒中後遺症患者様の上肢痙縮に対する治療アプローチの一つである、『振動刺激』の効果と周波数や適切な頻度などの疑問を解決していきたいと思います。
脳卒中後の痙縮に対する振動刺激療法については、現在数多くの論文が存在していますが、一方でその方法についてはそれぞれの研究によってかなりばらつきがあります。
その最たる例としては「どこに当てるか問題」で、上腕二頭筋に当てるのか、はたまた上腕三頭筋に当てるのか。
この辺に関しては、事実どちらとも効果が出ていたりするので、これまで振動刺激療法関連の論文を少しでも読んだことがある方は狙うべきポイントに迷った経験があるのではないでしょうか?
そこで今回は、ひとまずそうした振動刺激療法に関する研究を全て集め検討したシステマティックレビューを参考に、(現時点における)振動刺激療法の最適解を示していきたいと思います。
本システマティック・レビューは、『痙縮に対する振動刺激療法の効果』について2012年から2019年までの間に行われた研究(全390本)のうち、より質の高い研究論文のみを集め考察した論文になります。
【最新版】痙縮に対する振動刺激療法の最適な設定条件はこれだ!
結論「痙縮に対する振動刺激療法は効果がある」
システマティック・レビューの詳細を見ていく前にひとまず結論からお伝えすると…
今回最終的に8件の研究論文まで絞られレビューした結果、 脳卒中後上肢に痙縮を患っている患者様に対する振動刺激には効果があるという結論が出されました。(特に肩と肘)
ただし、この結論だけでは「じゃあどんな風に?」、「どんな設定で?」という疑問が解決できないので、ここからは取り上げられた8件の研究から、対象となった患者特性や振動刺激の設定条件についてを解説していきます。
対象となった論文抽出の流れ
ひとまず、レビュー対象となった論文を絞るまでのフローをざっと抑えておきましょう。
痙縮と振動刺激療法に関連する論文は合計390件あった。
上記論文のうち重複するものを除去した結果、170件の引用をレビューした。
上記170件のうち136件の論文は抄録を見る限り『痙縮に対する振動刺激療法の効果』という基準に合致しないため除外した。
残った34件のうち、26件の研究が以下の理由で除外された。
1)他の形態(局所的ではなく全身など)の振動を使用していた
2)上肢の評価を行っていなかった
最終的に合計8件の研究が、今回のシステマティック・レビューの対象として認められた。
それでは、この8件から振動刺激療法の特徴を見ていきましょう。
対象患者様の特徴とアウトカム
今回のレビューで対象となった患者様の抽出は全てPICO(Patients, Intervention, Control, Outcomes)に基づいて選ばれています。
脳卒中の内訳ですが、脳出血が36名、脳梗塞が232名となっており、左片麻痺が144名、右片麻痺が118名の合計268名が対象となりました。
8件中、6つの研究は慢性脳卒中患者様(12か月以上)を含み、1つは急性期脳卒中患者様、もう1つの研究に関しては時期的な詳しいデータが不明となっていました。
なお今回、上肢痙縮のアウトカムとして採用されているのはMAS(Modified Ashworth scale)となっています。
①周波数
痙縮に対して用いた振動刺激の周波数の設定は以下のようになっていました。
- 300Hz:1件
- 120Hz:2件
- 100Hz:3件
- 91Hz:1件
- 30Hz:1件
結論、周波数に関してはかなりばらつきがあるため「これで!」というのはなさそうです。
ただし、強いていうなら(この中の内訳だけでみると)100Hzが最も最適解なのかもしれないです。(作用機序についてはあまり触れられていない)
②照射時間
振動刺激を照射する時間ですが、以下のようになっていました。
- 30分:6件(ただし1つの筋に10分間×3筋)
- 5分:2件
この結果を見る限り、振動刺激を当てる時間については5分〜10分というのが妥当かもしれません。
③頻度
頻度とは、要するに「振動刺激療法を周何回実施するのが好ましいか?」ということですね。
これに関しては、以下のようになっていました。
- 週5回:3件
- 週3回:3件
- 週2回:1件
- 不明 :1件
この結果を踏まえると、やはり頻度にも多少ばらつきがあるので「何回!」とは言えないものの、週1回よりかはできる限り沢山行う(週3回〜5回を目処に)方が好ましいかもしれません。
回復期であればこの頻度は担保できそうなので、実施していくのはアリかもしれないですね。
④ターゲットとした筋肉
最後に、振動刺激を照射するターゲットとなる筋肉についてです。
ここが結構割れるとこではあるんですが、8件の研究の結果は以下のようになっていました。
- 上腕三頭筋:8件(全て)
- 尺側手根屈筋:5件
- 長橈側手根伸筋&屈筋:1件
- 小胸筋:2件
さて、この結果を踏まえると痙縮によって上腕二頭筋の筋緊張が著しく高い場合には、上腕三頭筋に対する振動刺激はマストになってくる可能性が高いと言えそうです。
時々、上腕二頭筋に対して振動刺激を行うケースがあると思うのですが、少なくとも2012〜2019年までの振動刺激療法に対するコンセンサスとしては、「それはない=上腕二頭筋より上腕三頭筋の方が好ましい」ということが明らかになりました。
痙縮に対する振動刺激療法の実施方法まとめ
それでは最後に、ここまでお伝えしてきた内容をまとめていきます。
- 痙縮に対して振動刺激療法を行う際の最適な周波数は100Hz前後が好ましい
- 振動刺激の照射時間は5分〜10分が好ましい
- 振動刺激療法の実施頻度は最低でも週3回〜5回が好ましい
- 上肢の痙縮に対して振動刺激療法を行う際ターゲットとなる筋肉は上腕三頭筋である
参考文献
Effectiveness of focal muscle vibration on hemiplegic upper extremity spasticity in individuals with stroke: A systematic review.Alashram AR,2019
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