理学療法士や作業療法士として働いていると、必ず一度は経験するものとして『症例発表』というものがあります。
これは、自分自身が担当した患者様をレポートにまとめ、介入からその結果までを大勢の療法士の前で発表することで、自分自身の臨床の振り返りと、その時いただいた意見をもとにスキルの向上を図る目的で行われます。
ちなみに、この症例発表は療法士だけが行うのではなく、養成校に通う療法士の学生さんたちも実習で担当した症例のリハビリテーションをまとめ、実習先もしくは学校内で発表することが多いです。
このように、療法士として働く上で症例発表は避けては通れないイベントの一つであるため、今回はこの症例発表時に失敗しがちな点と、同時に必ず意識しておきたい2つのことをお伝えしようと思います。
これさえ意識して発表ができれば、とても良い発表になると思うのでぜひ最後までご覧ください。
【ポイントを抑える】症例発表を行う際に意識しておきたい2つのこと
症例発表のポイント①『結果と考察を混同させないこと』
症例発表時に最もやりがちな失敗。
それが「結果と考察を混同させてしまうこと」です。
これは先日、学生さんの症例発表会を見学させて頂いた時にもよく出てきた課題でした。
そこで、ちょっと改めて『結果』と『考察』の違い、そしてその違いは何を意味するのかというところをまずは解説して行きます。
『結果』と『考察』の違いは何か
さて、『結果』と『考察』の一番大きな違い。
これって一体なんなのか、というとその答えは、『事実』なのか『解釈』なのかの違いです。
結果というのは基本的に生じた現象や評価結果など、客観的なデータに基づいた事実のみがここに入ります。
一方で、『考察』というのは得られた結果に基いた自分なりの解釈になります。
ここでよくある誤りは、考察の部分が結果の羅列で終止してしまっているパターンです。
例えば、こんな例題で考えてみましょう。
本症例は初期評価時に○○筋の筋力低下が見られたが、最終評価の際には○○筋の筋力が向上し、歩容の改善が見られた。
ここから読み取れることは、①○○筋の筋力が向上したこと、②歩容の改善が見られたことの2つです。
さて、これは『結果』でしょうか?『考察』でしょうか?
そう、答えは『結果』です。
なぜならば、筋力が向上したことと、歩容が改善したことは対象者がどうなったのかを表した事実だからです。
『考察』というのは、例えばこの例でいくと…
- 事実①と事実②がなぜ生じたのか
- 事実①が改善したことによって事実②も改善した要因(メカニズム)は何か
というような部分を考えて結論づけることです。つまり、ここに自分なりの解釈が入るのです。
もし仮に、この解釈が間違っていた場合それに対して指摘をもらうのが症例発表という場です。
『結果』というのは端的にいうと、事実の羅列なので極端な言い方をすると誰でも出来ちゃいます。
いま、巷では将来AIやロボットが仕事を奪うなどといわれていますが、この観点に少し触れるならば、弾き出された事実を並べるだけならAIやロボットの得意中の得意分野です。
僕が思う理学療法士の強みや価値って何かというと、複数の事実から色んな解釈を行いアウトプットを導き出す『考える能力』だと思うのです。
症例発表というのは、自分が臨床で行ってきたことを披露する一つの作品です。
つまり、それだけ本来は想いを込めて発表して良いのです。
ではその想いを込めるのはどこなのか。
それが『考察』です。
『結果』は同じでもその事実を見る視点が変われば『考察』は人によって変わります。
よって、考察では他の人とは違う自分のオリジナルに溢れた臨床推論をアウトプットできるのです。(もちろんこれにはきちんと根拠を提示する必要があります)
症例発表のポイント②『主張と根拠はトレードオフである』
症例発表でもう一つやりがちな失敗、それが主張に対する根拠が不足しているという点です。
自分が主張したい事があった場合には、必ずそれに対する根拠を相手に提示しなければなりません。
これは、症例発表含め日々他者と会話する時も同じことが言える、いわば自分の考えを述べるときに絶対必要なルールです。
しかも、その際は出来れば客観的に説明できるものが好ましいです。
なぜならば、仮に主張は斬新なものだとしても、それの根拠となるものがありません。となると、聞いている側としては納得できませんよね。
では、症例発表を行う際この部分はどこで意識するべきでしょうか。
症例発表における『主張と根拠』の考え方
例えば、抄録(レジュメ)がこのような形でつくってあると仮定します。
①基本情報 ②評価 |
③結果 ④考察 |
その場合、右側の結果や考察で述べたい情報は、左側の特に評価の欄にその情報を記載する必要があります。
よくある間違いは、右側の考察で『Aが改善した』という主旨の内容を述べているのに、左側の評価の部分にその『A』に関連する情報が全くない場合です。
「そんなのあり得ないだろ」と思われるかもしれませんが、これ実際によく見かけます。
加えて実はこれは症例発表だけに限ったことではなく、日々のセラピストの会話にも頻繁に起きていることなので、次の言葉をよく覚えておいてください。
『何か主張したいことがあれば、必ずそれを支える根拠が必要』
主張はしているが根拠がない場合、一般的に「論理が飛躍している」なんて言ったりします。
簡単にいうと「話しがぶっ飛んでいる」ということです
自分自身の想いがこもった臨床思考の集大成を伝えるためには、それを支える根拠(評価結果)が必ず必要です。
確かめる方法は、一度自分の考察を読み直し、書いてある内容の根拠が果たして抄録(レジュメ)のどこに記載されているか確認することです。
主張と根拠は必ずトレードオフの関係になるので、言いたい事があればその証拠が評価項目の中のどこかにあるはずです。
この右側の『主張』と左側の『根拠』に整合性がある状態であれば、発表者の思いはある程度周囲にきちんと伝わると思います。
症例発表のポイントまとめ
では、本日お話しした症例発表時に意識したい2つのことについて簡潔にまとめます。
- 結果と考察を混同させないこと
- 主張をするならばきちんと根拠となる情報を肉付けすること
この2つをしっかり意識して準備を行うととても良い発表が行えると思うので、もし今後症例発表を控えている方は少しだけこの辺りを意識されてみてください。
※症例発表に関連した記事のリンクを貼っておきます。ご興味ある方はこちらをご覧ください。
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