中枢性感作のメカニズムと評価について分かりやすく解説
中枢性感作(Central Sensitization:CS)とは
Woolfの定義における、中枢性感作とは
中枢神経系において痛覚過敏を誘発する神経信号の拡大
というふうに定義されています。
つまり、ざっくりいうと中枢性神経系が過興奮した結果痛みの閾値が低下した状態ということが出来ます。
中枢性感作のメカニズム
中枢性感作が生じるにはいくつかメカニズムがありますが、この記事ではそのうちの2つをご紹介します。
ワインドアップ現象
ワインドアップ現象とは、末梢神経へ強い刺激が繰り返し加わることによって脊髄後角にある広作動域(WDR)ニューロンの放電時間が延長することで結果痛みが増強してしまう現象です。
長期増強
長期増強とは、高頻度に強い刺激が繰り返しニューロンに加わることによって伝達効率が増加し、刺激がなくなったあともシナプスの興奮が持続してしまう状態です。
これもシナプスの可塑性を示すものであり痛みの持続や慢性化に関与すると考えられています。
臨床における中枢性感作のリスク
ワインドアップ現象と長期増強
両者に共通する点としては『繰り返される(痛み)刺激』があります。
これらの知見から言えること。
それは、リハビリテーションの中や日常生活の中で患者様自身の『痛み』が長期間・今頻度に繰り返し引き起こされると、最初は末梢組織のみに存在した痛みの原因が中枢性感作によって、脳-脊髄を含む中枢神経系に拡がるということです。
そのように考えると臨床の中で…
・硬いですねえ…ちょっと痛いですよー。(筋肉をグリグリグリ)
・関節が固くならないように動かしますね。
この時、対象者は悲痛の顔を浮かべながら痛みを我慢していると。
痛みを含んだ臨床が全て悪いとはいませんが、『痛み刺激が高頻度に生じることは中枢性感作を生じる可能性がある』という事実があることは間違いないので、このことを頭の片隅において臨床を行っていく必要があるかもしれません。
もしかしたら理学療法士や作業療法士、もしくは柔道整復師や鍼灸師、整体師といったセラピスト側が知らず知らずのうちに、「痛みを感じやすい身体」に対象者の方を追いやっている可能性もゼロではないかと思います。
中枢性感作の代表的な疾患は線維筋痛症であるが、腰痛患者や変形性関節症においても中枢性感作の影響が報告されている。中枢性感作の影響が強いと、痛み以外にも様々な刺激に過敏性を示し、治療側が中枢性感作の概念を知らなければ「不定愁訴」として扱われてしまう危険性がある.
中枢性感作の評価.西上智彦,2019
中枢性感作の評価
中枢性感作の評価には『Quantitative Sensory Testing:QST』という方法があります。
QSTには大きく2種類あって、スタティックQSTとダイナミックQSTがあります。
この2つのうち臨床で活用しやすいのはスタティックQSTの方で、これは圧痛閾値(pressure pain threshold: PPT)を一つの指標として検査することができます。
詳しくはこちらのページで解説されているのでご興味ある方はご覧ください。
中枢性感作症候群の評価
中枢性感作を評価するための方法にはQSTをはじめ、(上記では紹介していませんが)Brain imagingなどがあります。
一方で、中枢性感作とはまた少し違う『中枢性感作症候群』というのがあり、これにも評価方法があります。
中枢性感作と中枢性感作症候群って何が違うの?
中枢性感作症候群(Central Sensitivity Syndrome: CSS)とは、中枢性感作が病態に関与しているであろうとするより広い意味での概念をさす状態を言います。
要は、「中枢性感作とは言い切れないがそれに近い症状がある」みたいなイメージです。
で、この中枢性感作症候群の評価にはCentral sensitization Inventory(CSI)というものがあります。
この評価は元々海外で開発されたものでしたが、現在は日本語版CSIも開発されています。
- 【Part A】健康関連に関する質問(25問):0~100点
- 【Part B】中枢性感作を生じやすい特徴的な疾患の診断歴の有無を問う質問
CSIに関して報告されている知見は以下です。
人工膝関節全置換術前のCSIが高得点の方は、術後3ヶ月の予後が不良である。(Kim.2015)
過去に線維筋痛症や慢性疲労症候群、うつ病などを有した事がある者はCSIの点数が高い。(Neblett.2016)
とされています。
CSIはQSTなどに比べるととても臨床で使いやすい評価法なので、まずはCSIで中枢性感作症候群の特徴がないかを確認し、それに大きく引っ掛かるようならQST等を用いてより精査をかけていく、という順番が好ましいかと思います。
ちなみに、中枢性感作に対するリハビリテーションでは運動療法等に加えて『患者教育』がより重要であるとされています。(nishigami,2019)
患者教育についての実施方法などについては、以下の記事で詳しく解説しているので合わせてご覧ください。
変形性膝関節症と中枢性感作の関係
最後に、中枢性感作が実際にどのような臨床像を呈するのか、その点について先行研究をもとに解説していきます。
ご紹介する論文はこちらです。
この研究は48人の変形性膝関節症の患者様を対象に圧痛閾値(PPT)などを用いて中枢性感作の評価をしています。
結果明らかになったことは、コントロール群よりも変形性膝関節症を患っているグループでは膝関節はもちろん下腿や腕の方にも痛覚過敏が生じていたのです。
では、この痛覚過敏が果たして中枢性感作によるものなのか?
ということで、事前に検査しておいたPPTなどを確認すると、やはり変形性膝関節症患者様はそうでない人に比べると疼痛閾値が低下し中枢性感作を呈していたのです。
ただ、面白いのはここからでして…
実は48人の変形性膝関節症患者のうち20人は、人工膝関節全置換術(TKA)を実施したんです。
そうすると、TKA実施後は低下していた疼痛閾値が上がり中枢性感作が軽減したんですね。
つまり、この事実から言えることは何かというと。
TKA前においては、「歩くたびに感じる僅かな痛みは中枢神経系の感作を招き、より痛みが感じやすくなる身体になっている可能性がある」ということですね。
この話し、皆さんの臨床に置き換えてもそんなに疎遠なものではないと思います。
むしろ、すごく身近な問題の一つであると思いますので、これを機に中枢性感作という病態だけでも覚えていって頂ければと思います。
それでは、明日も良い仕事しましょう。
参考文献
1)中枢性感作の評価.西上智彦,2019
2)『日本語版Central Sensitization Inventoryの開発:言語的妥当性を担保した翻訳版の作成.余野ら,2016
3)Normalization of widespread hyperesthesia and facilitated spatial summation of deep-tissue pain in knee osteoarthritis patients after knee replacement.Graven-Nielsen T,2012
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