【痛みに対する信念と慢性化メカニズム】医療従事者が安易に伝えている言葉によって腰痛が加速している可能性

腰痛は、罹患率が最も多い整形外科疾患の一つです。

一般的に急性腰痛の予後は良好であると考えられていますが、実際には多くの方が長期間にわたり痛みに悩まされるといった経験をしているのも事実です。

ここで重要なのは、このブログでも何度もお伝えしているように腰痛をはじめ「痛みそのもの」というのは物理学的な問題(筋肉や関節など)以外に心理社会的要因が大きく影響しているという点です。

例えば、痛みに対する恐怖心によって生じる身体活動量の低下は腰痛の悪化と関連しています。

だからこそ、腰痛をはじめとする慢性疼痛のリハビリテーション戦略には「身体活動量を追う」というのが一つ重要な評価指標になってくるわけです。

もう一つ、痛みを慢性化させる心理社会的要因の一つに『信念』というのがあります。

信念とは、例えば「骨盤が歪んでるから私の腰は痛いんだ」とか「筋力が落ちると痛みが起きる」とか

要は、痛みに対して患者様本人が信じている価値観のことです。

これが良くも悪くも痛みの経過に影響することがあって、なぜなら痛みに対する誤った信念を強く抱いている人は破局的思考が強くなる傾向にあるからです。

だからこそ、こういった客観的には評価することができないような、患者様自身の中にある問題についても僕らセラピストは切り込んでいかなくちゃいけないわけです。

では、この『信念』一体どのように形成されるのでしょうか?

今回は、腰痛をはじめとする痛みを患っている方の「信念の形成」に影響する要素を過去の先行研究をもとに解説していきたいと思います。

目次

【痛みに対する信念と慢性化メカニズム】医療従事者が安易に伝えている言葉によって腰痛が加速している可能性

はじめに、今回参考にした論文はこちらです。

この研究で対象となったのは、急性(6週間未満)腰痛を患う方12名、慢性(3ヵ月以上)腰痛を患っている方11名で、対象者にはインタビュー形式で聞き取り調査が行われました。

研究方法に関しては、原著の方をご覧いただくとしてこちらでは早速結果と、そこから示唆できるポイントについて解説していきたいと思います。

信念の形成には家族やメディアからの影響も含まれる

腰痛を患う患者様が抱く信念の要因として挙げられる因子には以下のようなものがありました。

  • メディア
  • 家族や友人
  • 過去の経験

「長時間デスクワークをしたら腰が痛くなった」

「重たいものを運んだら腰が痛くなった」

こうした過去の自身の経験に基づいて発生した腰痛だと、なんとなく信念として形成されそうなイメージは湧きます。

ところが実際には、自身の経験だけではなくメディアや家族や友人からの情報といったものも信念の形成材料になってくることがわかりました。

まぁでも言われたら確かにそうで、テレビやYouTubeなんかでそこそこ有名な人が「骨盤の歪みが腰痛の原因だ」みたいなことをいうと、一定数の人は…

「腰痛は骨盤が歪むことで起きるんだ」

と、それを信じると思うし、なんなら自分が他の人にもそれを伝達してしまう。みたいなことってあるんじゃないかと思います。

ここで大切なことは、この場合における情報に「正しいか否か」というのは二の次にされてしまうということです。

間違っていようとも、それっぽいところだけを切り取りかつ有名な媒体(著名人)が言っていることなら

「この番組(人)が発信してることならそうなんだろう」

となるわけです。

だからこそ、権威性のあるメディアや求心力のあるインフルエンサーが特に気をつけなきゃいけないのは「適当な情報を出さないこと」です。

数字が取れればそれでいいとデタラメを言ってしまうことによって、この先慢性腰痛で苦しむ人を生み出しかねないことは留意しておいて欲しいところですね。

一定数の人はメディアや家族・友人からの情報に疑いを持つ

さて、話しを戻します。

行われたインタビューにおいて、メディアや家族(友人)からの情報を信じるという人もいれば中には「信じない」と述べた患者様もいました。

「信じるor信じない」:論文の中では「十分な確信or不十分な確信」と表現されています

では、こうした人たちは一体どこで信念が形成されるのでしょうか?

それが次のステップでして、ここで登場するのが我々医療従事者です。

最終的に医療従事者の意見が大きな影響力を持つ

情報に対して不十分な確信を持つ人々は、その後先ほどの要素に加えて『医療従事者』に対して情報や支援を求めることが分かりました。

インタビュー参加者の多くは、突然の腰痛に見舞われたとき「何が起こっているのか」、「何をすべきなのか」が分からなかったというふうに報告しています。

腰痛が何なのか、それが何なのかを理解する枠組みがなかったんだ。自分でもわからないし、治すために何をすればいいのかもわからないからまったく手探り状態なんだ。

急性腰痛症参加者

その結果、参加者はより確実な情報を求めるためにインターネットで調べ、その情報に懐疑的だった人は家族や友人、腰痛経験者からの助言をもらいました。

家族や友人、腰痛経験者からの助言はインターネットよりも重視された一方、その内容は矛盾していることもあったことから、最終的には医者をはじめとする医療従事者に相談する流れになった方が多いようです。

そして、この医療従事者の意見というのを多くの患者様は信じる傾向にあるようで、ここで自分自身の痛みの原因についての信念が形成されるようです。

腰痛経験者は臨床医に高い信頼を寄せており信念の形成に大きな影響を与える立場にあった。

The Enduring Impact of What Clinicians Say to People With Low Back Pain.Ben Darlow,,2013

ここで重要なこと、それは…

医療従事者が良かれと思って伝えたことが「腰痛患者の恐怖回避思考を強化してしまっている可能性がある」という点です。

もちろん、伝える内容によって逆に誤った信念を取り払ったり、恐怖回避思考の軽減につながることもありますが意外にもこれと真逆のアドバイスをしてしまうことって現場を見ていると結構多いです。

例えばその一つが、『腰を守る(Protect the back)』という趣旨のアドバイス

コルセットを巻いて腰を保護しましょう

できるだけ腰に負荷のかかることはしないように

長時間座らないように

こうした「腰に負担をかけすぎないように」といった内容のメッセージは、患者側からすると

「腰に負担をかけるような動きをすると腰痛が再発するからできるだけじっとしておこう」

と、身体活動量の低下をガンガン加速させる可能性が極めて高くなります。

(医師は)腰椎捻挫の可能性が高いと言った。鋭い痛みがあるときは、筋肉の損傷した部分に負担をかけ続けるような動きをしてしまったのだと思う。

慢性腰痛参加者

「整える」という言葉が「歪み」という信念をつくる

セラピストの皆さんがよく使っているワードの一つに「整える」というものがありますが、これも実は誤った信念をつくりだす要素になっているようです。

以下、原文から引用します。

ある参加者は、カイロプラクターから「背中を整える」ことを中心に治療を説明され、腰に痛みを感じるたびに、また背中がずれていると思い込んでいた。

「(今回のエピソードが)最初に起こったとき、私の頭の中をよぎっていたのは背中のアライメントが崩れていることの深刻さだけでした。本当に茫然自失で、脊髄や何かを損傷して半身不随になるかもしれないという意味で怖くなったのです。」

慢性腰痛参加者

セラピストの皆さんが「整える」あるいは「調整する」という言葉を使う時、それ自体に重要な意味を持ったり、深刻な状態として捉えている人はあまりいないと思います。

しかし、その言葉を受け取る方(患者)はそう思っていない可能性が高いです。

私の身体はどこかしらがズレているんだ。歪んでいるんだ。

と捉えている可能性があるということです。

だからこそ、細かいかもしれませんが「セラピストの皆さんが発する言葉」

これにはすごく大きなパワーがあるという前提でコミュニケーションをとっていただけると嬉しいです。

まとめると

  • 腰痛を悪化させる要因には身体の物理的な側面以外に、心理社会的な問題も含まれる
  • 心理社会的な問題の一つに『信念』がある
  • 信念の形成は家族や友人、メディア、腰痛経験者からの情報によってもつくられる
  • 最も信念の形成に影響を与えるのは医療従事者からの情報である
  • 一般的に権威性や信頼性の高い人からの情報は良い意味でも悪い意味でも「信用されやすい」
  • だからこそ言葉選びや伝える情報はきちんと吟味しなければならない

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きんたろー

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