【動くから痛くなるの?】動作誘発性疼痛と情動・認知的側面のつながり

本記事は、オンラインサロン『はじまりのまち』内で発信している記事です。本サイトでは途中までご覧いただけます。

近年、筋骨格系疼痛の領域において『動作誘発性疼痛』が注目されています。

これは、その言葉の通り「動くことによって引き起こされる疼痛」を指します。

一見、この動作誘発性疼痛は物理的な要因(ex:膝を曲げるから痛くなるなど)で発生すると思われがちですが、実は最近『情動・認知的要因』といった要因も動作誘発性疼痛の発生に関与していることが明らかになってきました。

さらに、痛みの急性期と慢性期では物理的要因と情動・認知的要因の比重が変わるというのも重要な点です。

今回、本記事では動作誘発性疼痛に関する最近の研究結果から、急性期と慢性期の違いに焦点を当て痛みに対処する際の治療アプローチについて解説していきます。

現在、痛みのリハビリテーションに携わっている全てのセラピストの皆さんにお役立ちする内容となっておりますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

【動くから痛くなるの?】動作誘発性疼痛と情動・認知的側面のつながり

動作誘発性疼痛と情動・認知的要因

はじめに、Leemans L(2022)の研究で、動作誘発性疼痛と情動・認知的要因の関連が明らかになりました。

詳細は原著をご覧頂けたらと思うのですが、特筆すべきは…

特に、抑うつ症状痛みに対する恐怖心痛みに対する破局的思考が動作誘発性疼痛と弱〜中程度の関連があることが明らかになったことです。

これは、動作誘発性疼痛の評価や治療において情動・認知的要因を考慮することが重要であることを示唆しています。

というのも、これまで動作誘発性疼痛が見られた場合、おそらく以下のような推論パターンがほとんどだったと思います。

ケース:腰を反ると腰痛を伴う患者さん

セラピスト

腰を反ると痛いのか。ということはおそらく…
・椎間関節にストレスがかかっているからかも
・脊柱管の狭窄が強くなるからかも
・背部の筋肉にストレスが加わってるからかも

要するに、「物理的な組織や構造に何らか問題あり」とする着地ですね。

これはいわゆる生物医学モデル的な考えですが、上記でご紹介した研究では「動くと痛くなる要因は物理的な身体構造のみではなく情動や認知的側面が関わっているよ」ということを明らかにしたわけです。

とはいえ、こういうと…

セラピスト

いやいや、痛みの問題を情動とか認知的側面だけに丸投げしようとしてるだろ!物理的な問題もあるだろ絶対!

と言われそうなので先に言っておきますが、「物理的要因を排除しようなんて1ミリも思っていません。」

ここで伝えたいメッセージというのは、動作誘発性疼痛の病態解釈を行う際に「物理的要因だけではなく情動や認知的な要素も見ていったほうがいいかもよ」ということです。

で、当然『急性期』と『慢性期』ではこの両者の比重に違いがあることは間違いありません。

急性期の動作誘発性疼痛と物理的要因

急性期(通常は症状発現から数日から数週間の期間)では、動作誘発性疼痛の多くが物理的要因によって引き起こされます。

逆にいうと、情動・認知的な要因は動作誘発性疼痛に対する影響が比較的小さいです。

なぜならば、急性期の疼痛の主な原因には、筋肉そのものの損傷だったり、それによって生じる炎症などが起因となっているケースがほとんどだからです。

よって、この段階ではしっかりと動作誘発性疼痛の起因となっている物理的要因をケアすることが最重要事項になってきます。

慢性期の動作誘発性疼痛と情動・認知的要因

一方、慢性期(通常は症状発現から3か月以上経過した期間)では、情動・認知的要因が痛みの持続や増幅に大きな役割を果たすことがあります。

なぜならば、慢性的の痛みは「痛みに関連する恐怖心」や、「痛みに対する破局的思考」、「抑うつ症状」などの情動・認知的要因が痛みの感受性を亢進させてしまうからです。

故に、動作誘発性疼痛においてもこれら要因が疼痛の程度に影響を与える(中枢性感作などによって)可能性があるというのが冒頭で紹介した研究の考察です。

物理的要因or情動・認知的要因の線引き

セラピスト

実際、臨床現場で痛みの患者さんを見ていくとき、目の前で起こっている動作誘発性疼痛が物理的要因なのか、もしくは情動・認知的要因なのか、この見分けというか線引きって難しくない?

確かに、臨床現場で物理的要因と情動・認知的要因を綺麗に線引きすることは難しいです。

なぜならば、両者は完全に切り離され片方だけの問題が顕在化しているわけではなく、むしろぐちゃっと混ざり合いグラデーションがあるからです。

よって、臨床を行なっていく際に大切なのはいかにこの両者の要因を丁寧に評価していけるかです。

患者の状況をより正確に評価し、適切な治療計画を立てるために最低限以下のプロセスはしっかり踏んでいく必要があります。

  1. 医学的評価:
    まず、対象者の症状に対して徹底的な医学的評価を行います。これには、身体検査、画像検査(X線、MRIなど)、およびその他整形外科テスト等が含まれます。これにより、物理的な問題の解像度を上げていきます。
  2. 情動・認知的側面の評価:
    不安や抑うつの評価には、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を、運動に対する恐怖心の評価にはTampa Scale for Kinesiophobia(TSK)を、破局的思考の評価にはpain catastrophizing Scale(PCS)を用いることで、対象者の情動・認知的側面の病態を探ることが可能です。
  3. 1と2をふまえ総合的に判断する:
    医学的評価と情動・認知的評価を組み合わせ、対象者の病態を総合的に把握します。物理的な要因と情動・認知的要因が同時に存在する場合も全然あるので、両方の要素を考慮して治療計画を立てることが重要です。
  4. 多職種と連携する:
    情動・認知的要因と物理的要因の線引きを効果的に行うためには、多職種のチーム(医師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士など)が連携して対象者の状況を評価し、治療計画を立てられると良いかと思います。
先生

よくあるのは、1のみ評価してそれ以外(2~4)はあまり評価しない。というケースじゃの。

線引きが難しい場合でも、これらのプロセスを丁寧に踏むことで物理的要因と情動・認知的要因をある程度棲み分けることができ、その結果として適切な治療計画を立てることができます。

例えば、両者が混在している場合、物理的要因はほぼ排除できたにも関わらず動作誘発性疼痛が続いている場合には情動・認知的要因をもう少し深掘りするなどそういった両側面からのアプローチが重要です。(その逆も然り)

では、ここからは架空のケースを想定し、病態解釈から治療アプローチの参考例をご紹介していきたいと思います。

続きは『はじまりのまち』で

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この続きで書かれていること

  • ケースを通して動作誘発性疼痛の解像度を上げるポイント
  • 動作誘発性疼痛を見る時のきんたろーの臨床推論の実際

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