【その症状は疾患由来なのか?】研究から読み解く腰部脊柱管狭窄症の真実

脊柱管狭窄症

整形外科クリニックや脳神経外科クリニックを始め、(特に高齢者における)腰痛関連で特に多い疾患の一つに『腰部脊柱管狭窄症』というものが挙げられます。

この疾患の特徴的な症状としては、下肢の痺れや痛み、そして長時間歩くと下肢の痺れや倦怠感が強くなるといったものがあります。

医療機関で勤務していると、これらの症状を訴える高齢者の方は凄く多い印象があるのですが、一方で…

MRIをはじめとする定量的な所見と実際の臨床症状って関連しているものなのだろうか?

という疑問を持たれたことはないでしょうか?

意外とこの辺りというのはブラックボックスになっている部分があり、もしかすると「そもそも疑問を感じたことがない」という方も一定数いるんじゃないかと思います。

そこで、今回は2013年に本邦で行われた大規模研究を参考に、腰部脊柱管狭窄症の画像所見と臨床症状に関連性があるか否かについて一つの結論を出していきたいと思います。

目次

【その症状は疾患由来なのか?】研究から読み解く腰部脊柱管狭窄症の真実

研究概要の紹介

はじめに、今回参考にさせて頂いだ論文は以下です。

この研究の目的は、MRIで評価したレントゲン上の腰部脊柱管狭窄症の有病率と臨床症状との関連性を明らかにすることです。

つまり、MRIで腰部脊柱管狭窄症がある人の割合、あとはその所見と症状に関連があるのか否か、この2つを調べたわけですね。

ざっと研究デザインまとめ
  • 対象者
    ・東京都と和歌山県の一般住民938人(男性308人、女性630人)が対象。
    ・平均年齢は67.3歳であった。
    ・過去に腰部脊柱管狭窄症を患ったことのある人は除外されている。
  • 研究方法(定量的評価)
    ・全ての参加者が脊髄MRI(L1-2〜L5-S1)を実施。
    ・脊柱管狭窄症の所見が見られた場合は4段階で評価。(正常,軽度,中等度,重度)
  • 研究方法(臨床症状の評価)
    ・整形外科医が参加者全員の病歴聴取と身体状態を評価。
    ・病歴には、腰痛、臀部痛、下肢痛の有無、痛みなどの不快感のある部位、間欠性跛行の有無とその距離などがある。
    ・身体検査では、腰部伸展により症状が誘発されるか、腰部屈曲により症状が改善するか否か、床指距離(cm)、末梢循環(良好または不良)の評価、上肢・下肢の徒手筋力検査、上肢・下肢の腱反射検査、Babinski反射検査を実施。

結果

狭窄症の割合と臨床症状の関係性

一般住民938人中、(重度)脊柱管狭窄の有病率が最も高かった椎間関節レベルはL4/5であり、(重度)椎間関節狭窄の有病率が最も高かったのはL5/S1でした。

また、参加者の3分の1は少なくとも1レベルの重度な管狭窄を有しており、中等度または重度の脊柱管狭窄症の有病率は50歳代で64.0%、80歳代で93.1%ということが明らかになりました。

ここがポイント

高齢になるほど、脊柱管狭窄症の罹患率が高まる。

そして、脊柱管狭窄症の重症度と臨床症状の有無には有意な相関があり、重症の狭窄症を有する被験者のうち、17.5%が臨床症状を有していたいました。

つまり画像所見上、脊柱管狭窄症が重度の場合は臨床症状も呈している可能性が高いということですね。

無症状にも関わらず画像所見では約80%が狭窄症

今回の大規模研究では一つ重要なことが明らかになりました。

それは、被験者となった一般住民の多くがMRI所見にて腰部脊柱管狭窄症を有していたことです。

具体的には、77.9%の人が中等度以上の(中心)狭窄症があり、そのうち約30.4%が重度の中心狭窄を有していたことが明らかになったのです。

ただし、ポイントは次で。

このように約80%の住民が画像所見上、腰部脊柱管狭窄症を有していながらもほとんどの人は無症状であったという事実です。

中等度以上の脊柱管狭窄症の所見が見られた人のうち、実際に臨床症状が見られた人は9.9%でした。

要するに、画像所見による結果だけが臨床症状の原因にはならない可能性があるということです。

もちろん、重度の狭窄症と臨床症状は相関があったので、一概にこの2つが関連しないとは言えませんが、とはいえ重度の狭窄症がある被験者のうち臨床症状を呈している人は20%未満(17.5%)なので、正直これもそこまで高い方だとは言えません。

症状がないだけで既に脊柱管狭窄が存在する可能性が高い

今回の研究の結果から言えること。

それは、いまのところ臨床症状的には時に何もないけれど、既に腰部脊柱管狭窄症を患っている可能性は十分高いということです。

特に、今回の研究で対象となった年齢層(60歳以上)の人はこれが当てはまる可能性が高いです。

よって、例えば今は症状がないけれどこの先腰痛であったり、下肢の痺れがで始めた時、患者様はおそらく病院にいくかと思います。

そうすると、当然「MRI撮りましょうか」となるはずなので、ここで狭窄症が見つかれば診断名は『腰部脊柱管狭窄症』となる可能性が極めて高いということです。

しかし、これは無症状の時から既に存在していた所見だと考えると、この症状の原因を「腰部脊柱管狭窄症によるものだ」と着地させ、なんらなら手術も検討する。みたいな話しは少し乱暴かもしれません。

実際、本研究を実施したishimotoらも考察にて以下のように結論づけています。

画像診断だけで臨床症状の原因を明らかにすることは不可能と思われ、症状のある人に手術などの介入を行うには、臨床評価と画像診断の両方を行う専門医の意見が不可欠である。

Associations between radiographic lumbar spinal stenosis and clinical symptoms in the general population: the Wakayama Spine Study.Y ishimoto,2013

「症状の原因が身体所見にある」という生物医学モデル的な推論の限界

今回のように、腰痛であれ肩の痛みであれ、患者様が呈するあらゆる症状の原因が「身体所見にある」とするような考え方を生物医学モデルと言います。

これは画像所見だけではなく、理学療法士に身近なところでいうと、「筋力がー」とか「姿勢アライメントがー」みたいな話しも同様です。

私たち理学療法士は、身体構造をはじめとする解剖学や運動学を徹底的に養成校時代から学ぶので、どうしても生物医学モデル的な推論に偏りがちです。

もちろん、ここは大事な側面である一方で、同時に「この側面だけでは解決することができない」ということも近年の研究で明らかになってきているので、これからはそれら知識は持ちつつも、思考の転換を図っていく部分も必要になると僕は考えています。

参考文献

1)Associations between radiographic lumbar spinal stenosis and clinical symptoms in the general population: the Wakayama Spine Study.Y ishimoto,2013

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • お久しぶりです。
    時々ニヤニヤしながら拝見しております。
    ぼくが以前福岡で話させて頂いた膝痛の話で、その時は神経根底部の動きの問題や腎臓が問題で大腰筋の出力を弱くしているなど話しました。 これは今も変わっていなくて、その他の要因も現在は色々あります。
    別の疾患で処方された人が調べると脊柱管狭窄やヘルニアなどの所見が見つかる人がいて、脚など痺れや痛み聞くけどそれは無い❗️って言われる方がおられます。
    最近は治療している中で確信するのは、痛みなどの臨床症候は、いくつかの要因が重なった結果だと感じています。
    それらを見つけていくのが難しいところであり、楽しいところですね。

    • トサ先生、コメントありがとうございます!
      とてもびっくりしました笑

      おっしゃる通り、僕も痛みの原因はたった一つではなく、様々な要因がぐちゃっと混ざり合って病態が形成されているのではないかと考えています。
      また、福岡に来られた際に先生の臨床観の一端に触れさせて頂けますと幸いです!

  • こんばんは
    日々、色々ネタ探してます。
    次会う時に披露出来たらと思います。

    あっ❗️ 岩本先生から聞きましたが、福リハで非常勤講師やってるんだって⁉️

    スゴイじゃない❗️ 本業も併せて頑張ってください✨

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