先日、僕のインスタグラムのDMの方へこんな質問が届きました。
はじめまして、いつも投稿拝見しております。
きんたろーInstagram DMより引用
一点ご質問があります。現在、急性期病院に勤務しており脳卒中の患者様を担当しております。
麻痺側の随意運動が起こせないので、ミラー療法を用いたいと考えているのですが、やり方や進め方に何かコツはあるでしょうか?
お手隙の際に、ご回答いただけましたら幸いです。
というわけで、今回はこのご質問に対してお答えしていきたいと思います。
ちなみに、このご質問の中で大切なポイントになってくる部分、それがこちら。
- 提示頂いた症例が『急性期』であるということ
- 方法論として『ミラー療法』を用いるということ
この辺りを中心に、ミラー療法が脳卒中の急性期に対して効果的であるか否かについて解説していきます。
【急性期リハビリ】脳卒中後のミラー療法って効果あるの?
ミラー療法のエビデンス
ミラー療法というのは結構万能な方法論の一つでして、「発症から6ヶ月以内であれ以降であれ他の方法に比べて効果がある」というようなエビデンスがあります。
ミラー療法と他の介入を比較した14の研究(RCT12件、無作為化クロスオーバー研究2件)を対象とし合計567名の参加者を得た。その結果、ミラーセラピーは他のすべての介入と比較して『運動機能』『日常生活動作』『痛み』『半側空間無視』を改善する可能性があるというエビデンスが得られた。さらに、運動機能に対する効果は6ヶ月後のフォローアップ評価でも安定していた。
Mirror therapy for improving motor function after stroke.Thieme H,2012
他にも「脳卒中後慢性期に重度の麻痺を持つ場合においてもミラー療法は受動的訓練と比較して有効である。(Colomer C,2016)」といった報告もあり、脳卒中に対するミラー療法の効果そのものは比較的高い評価を受けています。
ミラー療法『急性期』は注意が必要
脳卒中に対するミラー療法の効果自体、一定の成果が出ている一方で気をつけなければいけない点というのもあります。
それが『脳卒中、後急性期にミラー療法を実施しようとする場合』です。
つまり、今回の質問者さんのケースですね。
脳卒中後『急性期』に対するミラー療法の効果について、実はこんな報告があります。
脳血管障害発症から4週間以内の虚血または出血性脳卒中による上肢障害を持つ患者40名を対象に、ミラー療法の効果を検証した。その結果、ミラー療法群もプラセボ群もアウトカムは同程度であり効果に大きな差はない事が明らかになった。
No evidence of effectiveness of mirror therapy early after stroke: an assessor-blinded randomized controlled trial.Antoniotti P,2019
ちなみに、この研究におけるミラー療法の実施頻度やアウトカムは以下のようになっています。
- 1日1回(30分)
- 週5日×30日
- ①Fugl-Meyer assessment(FMA)
- ②Action Research Arm Test(ARAT)
- ③Functional Independence Measure(FIM)
このように、実はある意味万能なミラー療法も脳卒中後急性期(この研究では発症から4週間以内)においては、あまり効果的ではない可能性があるのです。
方法論を意思決定する際は病態解釈を
ミラー療法然り、何らか方法論を意思決定する際の流れとして大切なこと。
それは、「方法論を決める場合は、病態解釈を丁寧に行った後その病態に合う方法をチョイスすること。」です。
当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実は現場レベルで行くとこれがあまり実行されていないんです。
その際たる例が、「エビデンスの高い方法論を用いる」というような意思決定の仕方です。
「とりあえず上肢麻痺があればCI療法やろう」とか、今回の質問のように「随意運動が起こせないからミラー療法を実施する」というような方法論の決め方です。
エビデンスというのは高いから良いというわけではありません。
表記などされていませんが、前提として「病態に適している場合は」というのが必ず枕詞としてついているのです。
そのため、私たちリハビリテーションセラピストがやらなければならないのは、「ひとまずエビデンスの高い方法を用いよう」というような思考ではなく、「(病期などを含む)どんな病態だろう?」→「この病態であれば方法Aが良いよね」という、こういった流れが必要であると思います。
ミラー療法の効果まとめ
脳卒中に対するミラー療法の効果は高い評価が得られている。
ただし、『脳卒中後急性期』においては、その有効性が得られていない研究もある。
方法論を意思決定する際は、まずは病態解釈を丁寧に行ってから決めていく必要がある。
急性期に対するミラー療法は、“やってはいけないわけではない”が、仮にミラー療法よりも効果があるとされている方法論が既に存在しかつ実施可能&病態に適しているのだとしたら、そちらを行った方が良いのではないか?
参考文献
1)Mirror therapy for improving motor function after stroke.Thieme H,2012
2)No evidence of effectiveness of mirror therapy early after stroke: an assessor-blinded randomized controlled trial.Antoniotti P,2019
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