あなたにとって『治る』とは?~身体性との出会い~

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あなたにとって『治る』とは?~身体性との出会い~

「脳卒中後遺症患者様の麻痺を治したい」

僕は理学療法士1年目から今に至るまでずっとこのキーワードをテーマにしてこれまで臨床に取り組んで来ました。

ただ、この思いを経験年数の積まれた先生方にお話しすると

「あなたにとって片麻痺の回復ってどこなの?」

「異常歩行をしててもそれでいいって言う患者さんだっているよ?」

「あなたの考えは凄く大事だけど、もっと退院後の生活考えないと、この患者さんはどうやって退院後生活するの?」

このようなお言葉達を沢山いただきました。

すごく的を得た言葉だなあって凄く思いますし、僕自身もこれは当時PTになりたての頃に言われたのですが、グーの音も出ませんでした。

当時の僕を少し思い出して向き合ってみると、僕は「片麻痺をどうにかしたい」という思いだけが突っ走ってしまって、冒頭で書いてる指摘の通り、『退院後の生活を深く考える』ことが正直出来ていませんでした。

「麻痺を治したい」と言うのは僕の思いであって…

もしそれをあまり求めていない患者様がいたとして、それでも僕が「いやいや麻痺良くしましょうよ」といってしまう。

これは僕のエゴです。

『患者様に生き方を選んでもらう』

僕の中ではこれがテーマでなければならいと思っていて、そのうえで、『麻痺をどうにかしたい』と言う方がいれば、その時にコミットできるスキルと知識を持ち合わせておく必要があるのかなと今は思います。

片麻痺の回復とは?

当時1年目だった僕は、寝ても覚めても常にこの事ずっと考えていました。

というのは、冒頭で挙げました

「あなたにとって片麻痺の回復ってどこなの?」

という質問に対しての答えがはっきり言えない自分がいたからです。

・ぶんまわし歩行が良くなれば?

・痙性麻痺が緩和すれば?

・杖がなく自立して歩けたら?

色んな『治る(回復)』の在り方が頭の中を駆け巡りましたが、入院している患者さんの顔や声を思い出した時になんだか違う気がしたんです。

一見綺麗に歩いたり、自立しているように見える患者さんも、なにか目には見えない自分の身体の違和感をどうにかしてほしいと訴える方が沢山いたからです。

当時は、それが一体何なのか全く見当がつきませんでしたが、ある時一つの出会いがあったのです。

身体性(Embodimemt)との出会い

患者様の中には

「私の身体じゃない気がする」

「自分で動かしてる感じがしない」

「痺れてどうしようもない」

「足が言うこと聞いてくれんのよねえ。他人の足みたい」

「寝てたら手足がどこに行ったか分からなくなる」

といった言葉を用いて自分の身体について語る患者さんがいます。

こういった自分の身体に対して感じるありのままのことを身体性(Embodimemt)と言います。

どれだけ綺麗に歩こうが、ADLが自立していようが関係なく、片麻痺患者様をはじめとする多くの疾患で、こういった自分のリアルな身体感というものが消失するという現象が起きることがあります。

もしも自分が、仮に60歳で片麻痺になってしまったとして、こういうように

「自分の身体を自分の身体と感じない」

といった状態になったらどうしよう。

残り20年は生きるとして、20年間半身は私の身体ではない身体として生きていく人生とは一体どういったものになるのだろうか。。。

これまでの日本のリハビリテーションといえば、姿勢制御や歩行など目に見える現象をどうにか変えていくようなものが中心だったように思います。

もちろんこれらは冒頭で話したのように、生活をする上では確実に必要な部分であるので欠かしてはいけないところです。

しかし一方で、それだけで満足してない患者さんが沢山いるのも事実です。

だからこそ外来リハを継続したり、リハ特化型のデイサービスに通われたりしているのだと思います。

また昨年、自由診療でリハビリを行っている施設に何度かお話しを聞きに行きました。

そこでは県内はもちろん、県外からも片麻痺患者様が来られているという事を聞きました。

自由診療というのはどういう事かと言うと、要は保険が効かないという事です。

入院や病院への外来であれば、医療保険が適応されるので患者さんのお金の手出し自体は低くなりますし、逆にデイケアやデイサービス、訪問リハといったものでは介護保険が適応されますので、やはり手出しとしては低くなります。

しかし、自由診療の施設ではそういった保険が効かないので、患者さんの手出しの料金はかなり多くなるのです。

にも関わらず、県内や県外から患者さんはやってくるということの事実があります。

それほど、片麻痺患者さんはどうにかして欲しいと、何かにすがって生きているんだろうなと…

どうにかその思いにただただ応えたい。

もう一度、自分の“身体性”を取り戻させてあげたい。

シンプルに今はそう思っていて、これが今の僕の考える「回復」の在り方かもしれません。

そのためには、物理的に存在する“身体”だけを見るのではなく、『患者様の声を大事にして、患者様の主観を大事にする。』

これが大切なのではないかなと感じています。

身体性を取り戻す。

まだまだ答えは見つかりません。

真っ暗闇の中をひたすら歩いている感じです。

だけどあえて、これを臨床の一生のテーマに掲げ、また明日から臨床研究と仮説検証作業を繰り返していきたいと思います。

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