レビュー論文を読む際に、「これはシステマティック・レビューです」もしくは「ナラティブ・レビューです」といった文章が記載されているのを見たことがあるでしょうか?
もしくはタイトルにそう書いてあるの
このシステマティック・レビューとナラティブ・レビューは、研究や知識をまとめるための異なる2つの方法です。
すごく簡単にいうと、システマティック・レビューは、様々な研究を客観的に評価して一つの結論を導き出す研究手法です。
一方ナラティブ・レビューは、研究者が自分の知識や経験に基づいて、関連する文献を選び、評価&解釈してまとめる研究手法です。
今回は、この2つのレビューの違いやメリット&デメリットなどについて分かりやすく解説していきます。
システマティック・レビューとナラティブ・レビューの違いを分かりやすく解説
1 システマティック・レビュー
1.1定義
『システマティック・レビュー』とはざっくりいうと、あるテーマに関して世界中で書かれた既存の論文を網羅的に調べ、臨床で生じる疑問に答えるための論文です。
特定の研究課題に関連する全ての文献を厳密に選択・評価し、統合することを目的とした研究手法になります。
この方法では、透明性と再現性を確保するために、事前に詳細なプロトコルが策定され、公開されることが一般的です。
1.2特徴
システマティック・レビューの特徴を以下に示します。
- 明確な研究質問(PICO形式など)を設定する
- 組み込み・除外基準を明確に定義し、文献検索プロセスを透明化する
- 研究の質を評価するための基準を設定する(例:Cochrane Collaborationのリスク・オブ・バイアスツール)
- メタアナリシスや統合解析を行い、結果の一貫性や信頼性を評価する
- PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)チェックリストに従って報告する
1.3適応範囲
システマティック・レビューは、特に医学や保健分野で効果的であることが認められており、エビデンスに基づく医療の基盤となっています。
しかし、他の分野でも既存の研究成果を定量的・客観的に評価する際に利用されています。
2 ナラティブ・レビュー
ごめん、そもそも『ナラティブ』って何?
『ナラティブ』とは、物語や話の進め方(ストーリー)を意味する言葉です。
医療業界の中でよく用いられている言葉ですが、その意味は検査結果やデータといったいわゆる『エビデンス』のみではなく、患者様個人が抱える悩みや不安といった物語にも寄り添うことの大切さを意味しています。
システマティック。レビューとの大きな違いというのは、システマティック・レビューを一言で表すなら「研究課題を明確にし客観的で手順に従った多くの研究をまとめる方法」であるのに対し、ナラティブ・レビューは「研究者の意見を使って文献をまとめる方法」と言えるかと思います。
2.1定義
ナラティブ・レビューは、研究者の専門知識と経験に基づいて、特定のトピックに関する文献を選択・解釈し、統合することを目的とした研究手法です。
この方法では、文献選択や評価プロセスにシステマティック・レビューほどの厳格さは求められず、個々の研究者の視点が反映されることが一般的です。
2.2特徴
ナラティブ・レビューの特徴を以下に示します。
- 著者の記述が多く主観的なアプローチを採用する
- 研究者の専門知識や経験に基づいて文献を選択・評価する
- 文献検索プロセスや選択基準が明示されないことが多い
- 一般的には、メタアナリシスや統合解析は行われない
- 研究成果の解釈や意義に重点を置く
2.3適応範囲
ナラティブ・レビューは、医療のみならずあらゆる研究分野で広く利用されており、特定のトピックに関する既存の知識を整理、新たな研究課題や仮説を提案する際に役立ちます。
また、分野の概要を説明する教育的な文献や、研究動向を概観するレビューにも適しています。
3 システマティック・レビューとナラティブ・レビューにおける目的の違い
システマティック・レビューとナラティブ・レビューの目的の違いを以下に示します。
- 特定の疑問や問題に対する客観的かつ網羅的なエビデンスを提供する。
- 既存の研究の質や結果を評価し、統合することでより強いエビデンスを得る。
- 研究結果の一貫性や信頼性を検証する。
- 研究のバイアスや偏りを最小限に抑える。
- エビデンスに基づく意思決定やガイドライン策定をサポートする。
システマティック・レビューは、明確な手順に従って研究を選択・評価し、客観性と透明性を保ちながら知識を統合することにより上記の目的を達成します。
そのため、エビデンスに基づく意思決定やガイドライン策定に適しています。
- 特定のトピックに関する既存の知識や研究を整理・概観する。
- 研究の動向や発展を追跡し理解する。
- 新たな研究課題や仮説を提案する。
- 研究成果の解釈や意義について議論し深める。
- 教育的な目的で分野の概要や基本的な概念を紹介する。
ナラティブ・レビューは、研究者の主観的な視点で文献を選択・評価し、知識を整理することにより上記の目的を達成します。
そのため、教育に関する文献や専門家の意見を求める場合に適しています。
4 結果の信頼性について
システマティック・レビューは、その方法論の厳格さから、結果の信頼性が”一般的には”高いとされています。
メタアナリシスや解析を行い、結果の一貫性や信頼性を評価することでエビデンスの質を確保します。
ただし、レビューされた研究の質が低いといったケースもあるので、『システマティック・レビュー=信頼できる』とはならない場合もある。
ナラティブ・レビューは、研究者の主観やバイアスが結果に影響する可能性があり、その信頼性は低いとされることがあります。
ただし、それぞれの分野の権威を持った人物によるナラティブ・レビューは、その専門性から重要な示唆や新たな視点を提供することがあります。
新たな示唆や視点を提供する可能性があるだけで、「事実ではない」ことを覚えておこう。でないと、権威性の高い人が言っていること=正論という構図が出来あがる可能性があるからじゃ。
5 まとめ
システマティック・レビューとナラティブ・レビューは、それぞれ異なる目的と方法論を持つ文献レビューの手法です。
システマティック・レビューは、定量的・客観的なエビデンスを提供することを目指し、透明性と再現性が重視されます。
一方、ナラティブ・レビューは、研究者の主観的な解釈を基に知識を整理・提案することを目指し専門的な視点が重視されます。
研究の目的や文脈に応じて適切な文献レビュー手法を選択することが重要で、システマティック・レビューは、エビデンスに基づく意思決定やガイドラインの策定に適していますが、時間と労力がかかることが欠点です。
一方、ナラティブ・レビューは、研究動向の概観や新たな仮説の提示に適しており、教育的な文献や専門家の意見を求める場合に有用です。
どちらの手法も、学術研究において重要な役割を果たしていますので、それぞれの目的等をしっかり理解した上で読み込んでいくことが大切です。
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