本日は、臨床推論や症例発表などの際、論理的に物事を捉えるための思考法について解説していきます。
臨床に必ず役立つ知識ですので、ぜひこの機会に抑えて頂けたらと思います。
- 論理が飛躍しやすい人
- 発表の時『引用文献』のつかい方が分からない人
- 『何が言いたいか分からない』と言われる人
論理的思考を身につける方法~『演繹法』と『帰納法』~
『演繹法』と『帰納法』というのをご存知でしょうか。
これは、物事を論理的に考えるときに必要な考え方で、臨床推論を行ったり、学会発表などでレジュメや抄録を作成する際に重要になります。
例文を使ってみていきましょう。
例文
『歩行が困難となっている要因は何だろう』とあなたは問いを立てました。それに対してあなたは以下のような仮説を思いつきました。
- 下肢筋力低下
- 股関節-骨盤帯のアライメント異常
- 疼痛
- ROM制限…
この例文のように『歩行困難』といっても歩行が困難となる原因には非常に多くの因子が存在していて、なおかつ人それぞれその原因は違います。これは“個別性”があるからです。
そして、沢山浮かんでくる因子の中から自分なりの答えを持ち検証していく。これが評価-治療のプロセスです。
となると、こんな風に自分なりの答えを持ち、『主張』を述べる際は、なぜそう言えるのかという『根拠』を示す必要があります。
抄録やレジュメを書く際には、この手続きは非常に重要ですよね。
このように自分の中にある『答え(主張)』とその『根拠』を適切に結びつけるための基本になる思考方法が2つあって、それが『演繹法』と『帰納法』です。
演繹法とは
演繹法とは、既存のルール(一般論)があって、そのルールに現象を当てはめて結論や主張を導き出す思考方法です。
具体例を以下に示します。
現在、リハビリ業界ではエビデンスの高い治療方法の利用が推奨されている
脳卒中に対する装具療法はエビデンスでいうとグレードAである
脳卒中に対しては装具療法を積極的に取り入れた方が良い
解説していきますね。
現在リハビリ業界において、『エビデンス』が高いとされる治療方法を推奨するのが一般的になってきています。
そこに、事実として存在するのが脳卒中に対して装具療法はグレードがAであるということです。
つまり、このことから『脳卒中に対しては装具療法を積極的に取り入れた方が良い』というのが結論として導きだせます。
プレゼンの場など、人に思いを届けたい場合は、演繹法で『主張』を述べ、その『根拠』を既存の一般論を用いて適切に結びつけて発することが出来れば伝わりやすいかもしれません。
演繹法のポイント
前提を見誤らない
演繹法で注意しないといけないのは、前提を見誤らないということです。
前提というのは、既存のルール(一般論)のことで、この前提を見誤ると導き出す結論が大きくずれる場合があります。
リハビリ業界によくある例では、研究発表や症例発表の際に自分の主張を引用文献を根拠として用いる場合に起きやすいです。
私が言いたい結論はAです。これを裏付ける根拠(既存のルール)として、~らがこのような報告をしているからです。
よくある一文だと思います。
一つここで言っておきたいのは、引用している論文が決して間違ったルール(論文)を用いているわけではないということです。
おそらく、「~ら」が述べていることも正しいものだと思います。
この場合に起きやすい間違いとしては、正しくない論文(ルール)を用いるというよりも、『~らが言っていることは間違ってはいないが、“自分の症例・研究の場合”にそのルールを適用するのには無理がある。』
つまり、「~ら」が行った研究の対象や方法が、自分の症例や研究とは大きく異なっているにも関わらず、結論として根拠に持ってくる。これだと論理的とは言えないかもしれません。
なぜなら、前提条件が違うからです。
例えば、自分が対象とした症例は『パーキンソン病』で歩行に関して結論を述べたい時に、それを支持する根拠として用いた引用文献の対象患者が『片麻痺』であったなら、そもそも前提条件が異なっていますよね?
前提条件が異なっていると、『既存のルール(一般論)』→『事実』→『結論』という流れが崩れます。
そのため、引用文献などを用いる際は…
引用したい論文の対象などを確認しよう!(前提条件がかけ離れていないか確認)
過去の一般論(ルール)が現在でも通用するか
次に考えなければならないのは、過去一般論が現在でも通用するか否かです。
例えば、一昔前は脳卒中片麻痺の機能回復に関して以下のように考えられていました。
6ヵ月以降の片麻痺は機能回復の見込みがあまりない(プラトー)
数多くの研究にて証明されている
6ヵ月以降の片麻痺患者に対するリハビリは機能回復よりも拘縮予防など現状を維持することに努めよう
さて、これを踏まえて今の一般論はどうですか?
現在は、6カ月以降も片麻痺患者の機能回復が多く報告されてきており、プラトーであるという概念が薄まりつつあります。
その結果、事実として自費の『脳卒中専門外来』といった施設も増えてきています。
結論として、『プラトーを過ぎても機能回復に対するリハビリテーションは有効である』ということが言えます。
このように、過去の一般論が現在でもルールとして成立するのかを考えなければなりません。
これまで正しかった一般論や常識も、時代と共に大きく変化してきています。
過去にナンセンスだと門前払いを食らっていた考えも科学の進歩とともに常識に変わってくる。
時代の流れとはそんなものです。
以上2つの事を踏まえて、演繹法で思考する場合には、前提条件(一般論・ルール)に疑問を持っておく必要があります。
帰納法とは
『帰納法』は複数の現象から共通点やルールを見出し、結論を導き出す思考法です。
- 腰背部痛を訴えるAさんに“筋膜リリース”を行ったら痛みが減少した。
- 肩痛を訴えるBさんに“筋膜リリース”を行ったら痛みが減少した。
- 下肢痛を訴えるCさんに“筋膜リリース”を行ったら痛みが減少した。
①~③の中で共通していた点は『筋膜リリースによって痛みが減少した』ということです。
そのため、この3つの出来事から言える結論。それは…
『痛みに対して筋膜リリースが有効である』
帰納法というのはこのような考え方です。
つまり、ある現象をいくつか取り上げてその共通点から一つの仮説を立てる思考方法です。
この方法では、様々な現象を用いてその共通点から「このように言えます」という風に結論付けることが出来るので、聞き手はとても聞きやすいと思います。
帰納法のポイント
広い視点が求められる
多くの現象から、共通している事柄を一つではなくて沢山見つけることが出来れば、考えられる結論(仮説)もその分増えます。
演繹法は既存のルールが前提条件としてあり、過去の知識を引き出しにして結論を導き出すのに対し、帰納法は目の前に生じた現象を拾い集めて沢山の仮説を生み出す力が必要になってきます。
つまり、演繹法は圧倒的な『知識』が必要なのに対し、帰納法は『知識(知識がないとそもそも仮説が思いつかない)』+ 沢山の知識を生み出す『想像力』が求められます。
そのため、一方通行で現象を見ても共通点を捉えられないので、沢山の視点から現象を見ていく必要があります。
思い込みを捨てる
ある理学療法士はこれまでの経験でこのように感じていました。
あの人にも手技Aをすると痛みが減った。この人にも手技Aをすると痛みが減った。ということは手技Aは痛みに対して有効なんだ。
後日、痛みのある患者さんが来ました。
手技A的には、まずセオリーとしてこの部分を見て治療してみるから…とりあえずやってみるか。え…よくならないじゃん…
さあ。このセラピストはどこで間違っていたのでしょうか。
帰納法的に『手技Aは痛みに著効する』と結論づけた結果、このセラピストは患者さんを見る際に『手技Aの視点からでしか患者さんを見ていなかった』点に一つ問題があります。
帰納法で最も気をつけならなければならない点はここです。
複数の現象からある一つの仮説を立てた場合、一度『反証可能性』を考えないと、このセラピストのように改善しなかった場合に頭打ちになってしまいます。
例えば、以下の例を見てみましょう。
- 福岡県では雨が降っている
- 宮崎県でも雨が降っている
- 熊本県でも雨が降っている
→日本全国いまは雨が降っているんだ。
ん…?
となりませんか?
確かに九州地方は雨が降っているかもしれないけれど、『雨が降っている』という共通点から『日本全国で雨が降っている』と結論を導きだすのはあまりにも考えが飛躍しています。これを論理が飛躍していると言います。
この場合、反証可能性として…
『九州では雨が降ってるけど、全国でも雨が降ってるんだろうか?』
というのをまずは考えないといけません。
そうすると、次のプロセスとして「スマホで天気予報を見る」とか「テレビで天気予報をみる」などの‟検証”という手続きが必要になります。これがいわゆる仮説-検証作業です。
そして検証(天気を見る)した結果
『九州では雨は降っているけど大阪では雨が降っていない』
という事実が分かれば『九州で雨が降っていても必ずしも全国で雨が降るとは限らない』という結論になります。
同様に、『あの人にもこの人にも手技Aで痛みが改善したから、痛みに対しては手技Aが著効するんだ』と導き出すのは論理が飛躍しています。
一つの事を考えると、そこにまっしぐらになる人はこの状態に陥りやすいかもしれません。
僕たちは、自分がもっている思い込み(痛みは手技Aで良くなる)に近い現象が目の前で起きると(今回の例でいうなら『痛みの患者』)、それを元に答えを導きだそうとしてしまいます。
その背景には、痛みに対して手技Aの視点でしか仮説を立てられないというそもそもの知識不足もありますが、一方で…
『高いお金を払ってセミナーに行って学んだんだから使わないと…』
『長い時間かけて手技Aのコース終わったんだから…』
といった経験を有効活用したいという心理が働き、自分の仮説を批判的吟味することができないのも一つの要因です。
しかし先ほどの例のように、『手技Aで痛みが減少しない場合はあるのか?』を吟味しないと、自分の思い込みから抜け出せません。
そのため一度しんどいかもしれませんが、帰納法で導きだした結論を批判的吟味するプロセスを踏む必要があるのかなと思います。
論理的思考力(演繹法と帰納法)まとめ
結局何が言いたいの?
話しが飛躍していてよく分からない
話しが長すぎて要点が分からない
僕は、症例発表やプレゼンをする場面でこれらの言葉を沢山言われます。
言いたいことが相手に伝わらないのです。
また臨床推論を行う場合では
『問題点が多すぎて的を絞れない』
『問題点から結論に行きつくまでの文脈が飛躍しすぎる』
これらを改善したくて話しの組み立て方や論理的に考える勉強を始めました。
しかし、正直ものすごく難しいです。
一瞬で過ぎていく会話や患者様を目の前にした時の臨床推論、リアルタイムで瞬間的に論理的に考えることはまだまだ慣れません。
でも、日々論理的に物事を考える癖をつけていけば徐々に変わっていくのかな?と思考を止めないようにしています。
ただ、あまりにも論理的に考えすぎると嫌われますからね。人は感情の生き物なので。
あくまで、理学療法士・作業療法士として問題解決をしていく上で必要なスキルだと思って今後も頭をぐるぐる悩ませまようと思います。
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