症例報告などが行われる際に、必ず発表者がまとめた『抄録』や『レジュメ』というのを聴講者のかたは受け取ると思います。
さて、これを読んでいるとなんとなく納得感がない時ってありませんか?
そんな時大半の人は、「自分の理解力がないからだ…」とか「自分の知識がないからだ…」と、思いがちですがそれは違います。
こうなる原因は十中八九、作り手側に問題があります。
そこで今回は、レジュメや抄録の作り方と題しケース(架空)をつくってみたので、それを添削しながら解説していこうと思います。
【症例発表を攻略しよう!】レジュメや抄録を作るときのポイント
- BIG WORDの存在
- 目的と方法の根拠
この2つの観点から見ていこうと思います。
①【BIG WORD】の存在
ケース①
「本症例は〇歳の男性で、x年x月に小脳梗塞を発症し、歩行困難となった症例である。今回、歩行の獲得を目的に発症10病日目よりリハビリテーションを開始した。(省略)歩行が困難となっている問題点として、#1.下肢の協調運動障害 #2.体幹筋の筋緊張調節障害 #3.立位バランス能力の低下(BBS7点)…が挙げられる。
以上の問題点に対する治療介入として、体幹筋の筋緊張調整や下肢に対する運動の促通、立位バランス訓練を行った。立位バランス訓練では、足関節戦略を学習することを目的として立位での姿勢保持から始め、徐々に外乱刺激を加えることで立位バランスの向上を図った。(省略)最終評価では下肢運動が円滑となり、体幹筋の筋緊張が適正化されていた。BBSも7点から28点に改善が見られており、その結果監視レベルで歩行が可能となった。
それでは、これからみなさんに行っていただきたいこと。
それは、上記の文章を読んで『あれ?』と感じたものを列挙してみてください。
この先を読み進めるのは、ひとまずその作業がざっと終わってからにしてみましょう。
…ただいま作業中…
列挙できましたか?
それでは、答え合わせをしていきましょう。
まず、今回一つ目のテーマに挙げている『BIG WORD』なんですが、BIG WORDとは抽象的で沢山の解釈を生んでしまうような言葉の事を言います。
ケースの中でいうなら以下のものが挙げられるでしょうか。
- 運動の促通
- 下肢運動が円滑
- 筋緊張が適正化
要するに、促通とは何か。下肢運動が円滑になるとは何を基準に言っているのか。筋緊張が適正化とはどういった状態を指すのか。
これらの言葉というのは、見る人(個人の価値観や尺度)によって複数の解釈が出来ます。
この複数の解釈を生むというのは、つまりは言葉が抽象化されており、何だかそれっぽく聞こえますが“濁している”印象を受けます。
また、文字数の制限上仕方ないことではありますが、『筋緊張の調整』というのも受け取り方としては何だかフワフワしますよね。
こういったBIG WORDを連投しちゃうと、見ている人は『何でなのか具体的には説明できないけど、スッと腑に落ちない』という印象を覚えます。
上記以外に、リハビリテーション業界の中でよく拝見するBIG WORDには他にもこのようなものがあります。
- 固定性が強い(固定性ってなに?)
- 安定性が向上した(安定性ってなに?)
- 積極的な運動療法を行った(具体的にどんな?)
- 徒手療法を行った(徒手療法にも色々ある)
などなど、あくまで一例ですが、これらに全て共通しているのは『量や程度が見えない』ので、当事者しか分からず、濁している印象を受けます。
②目的に対する方法のロジックが不十分
ケースの中にある、次の一文を見てみましょう。
立位バランス訓練では足関節戦略を学習することを目的(目的)として立位での姿勢保持から始め、徐々に外乱刺激を加えること(方法)で立位バランスの向上を図った。
この一文を見てみると、伝えたいこと(目的)は『足関節戦略を学習させたい』
であるのに対し、打ち手(方法)として、『立位での姿勢保持と外乱刺激』をチョイスしています。
本当にこれでいいでしょうか?(True?)
要は、『立位での姿勢保持と外乱刺激』という方法論で果たして本当に足関節戦略が学習できるでしょうか?
この目的に対する方法には最低でも以下2つの疑問が挙げられます。
- 股関節戦略をとってしまう可能性はないか
- この打ち手(方法)で足関節戦略が学習出来る根拠はどこにあるのか
目的と方法はその間にある根拠に支えられないといけませんが、このように『本当に?(True?)』と投げかけた時に反証可能性がいくつも思いつくようであれば、まだまだモレがあり根拠としては弱いかもしれません。
その他レジュメ作成時によくあるミス
前提が自分のケースと違う
考察で、根拠として用いる引用文献のケースが自身のケースの疾患や病態(高齢患者がケースにも関わらず、引用してるのは若年患者)と違うので、そもそも前提が違うので根拠に乏しい。
症状の吟味が薄い
例文
本症例は腰椎の分節運動に乏しいが、それは既往の『椎間板ヘルニア』の影響である。
これは、出現している症状や現象に対して、短絡的に『疾患』が原因だと結びつけており、病態解釈を深く考える機会を逃している可能性があります。(聞き手も『ん?』という違和感を覚える)
よって、最低限の疾患部分は抑えつつも、それ以外の理学療法所見などについても丁寧に掘り下げていく必要があります。
レジュメや抄録を作る時のポイントまとめ
さて、レジュメや抄録を作るときに抑えておきたいポイントは以上になります。
これまでレジュメや抄録を見て、何となく腑に落ちないと感じてた人はもしかしたらこういった所に少し違和感をお持ちだったのではないでしょうか?
逆に言えば、作り手側はこういった所(BIG WORDや目的と方法)などをしっかり見直しをする必要がありそうです。
特にBIG WORDは言いたいことをフワッとさせてしまうので、出来るだけ結論を伝えたい時は『何がどうなったのか(出来れば客観的に示す)』をきちんと提示すれば良いかと思います。
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