皆さんは、「アフォーダンス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
この言葉自体なかなか聞きなれないワードだと思いますが、実は現在リハビリテーションにおいてこのアフォーダンスは非常に重要な意味を持っています。
そこで今回は、アフォーダンスという概念がリハビリテーションと一体どのような関係があるのか、その辺りについて詳しく解説していこうと思います。
・アフォーダンスとは何なのか
・リハビリテーション場面におけるアフォーダンスの用い方
・アフォーダンスから考えるリハビリテーション上の課題
アフォーダンスの視点からリハビリテーションを考える
アフォーダンスとは何か
『アフォーダンス』とは、生態心理学者のジェームズ・J・ギブソンが提唱した概念であり「環境と身体との接触により常に何らかの意味が与えられること」という風に考えられています。
元々「アフォード」とは「与える」や「提供する」という意味を持っていることから、つまり環境がどのような行為を実現させる条件を兼ね備えてるかについて環境が主役となって表現される言葉なのです。
んー、ムズカシイ…
そうですよね笑
それでは、少し分かりやすくするために例を用いて考えてみましょう。
アフォーダンスの例
仮に『アフォード』というワードを用いて例文を作ると、このような形で表すことが出来ます。
この場合であれば、地面という環境が主役となり、ヒトに二足歩行という運動をアフォード(提供)するというように解釈することが出来ます。
先ほどよりも、ピンときやすいでしょうか?
ただ、ここで気をつけなければならないのは、このアフォードする環境は個体によって捉え方が違うということです。
例えば、地面だとヒトは二足歩行をしますが、牛や馬などは四足歩行をしますよね?
ということは、地面が二足歩行をアフォード(提供)するのは二足歩行の能力を持つヒトのみということになります。
発達から考えるアフォーダンス
では、次に赤ちゃんの発達段階におけるアフォーダンスの変化を見ていきましょう。
赤ちゃんは、乳児期の頃と幼児期の頃では存在した環境は同じでも、発達に伴いアフォードする環境は大きく変化してきます。
例えば・・・
①手足をばたつかせることしかできない時期
②物に手を伸ばして掴むことが出来る様になる時期
③ハイハイが出来る様になる時期
④つかまり立ちが出来る様になる時期
発達の過程でこのように変化していくと仮定します。
①手足をばたつかせることしかできない時期
手足をばたつかせることしかできない時期というのは、まだまだ環境がアフォード出来ているとは言えず、身体一つで自ら環境を探っている状態と言えます。このような状態では環境と相互作用出来ているとは言えないため、『行為』には発展していません。
②物に手を伸ばして掴むことが出来る様になる時期
しかし、少しずつ発達が進んでいくと物を掴めるようになってくる時期が到来します。
この時期になると、赤ちゃんは物体の形状や、硬さなどの認知が行えるようになります。これは、『物』という環境が赤ちゃんに『掴む』という行為をアフォードしていると解釈することができるのです。
③ハイハイが出来る様になる時期
そして、さらに成長し今度は四つ這いでハイハイが出来る様になると、赤ちゃんにとって『床』という物体は、「硬く固定されていて、自分の移動を可能にしてくれるもの」と認知出来る様になるため、それはまさに『床』という環境が赤ちゃんにハイハイをアフォードしている状態になるのです。
④つかまり立ちが出来る様になる時期
次に『つかまり立ちが出来る様になる』という行為を考えてみようと思うのですが、今回はつかまるものが『椅子』だと仮定します。
みなさんにとって、『椅子』はどのような行為を提供してくれるものでしょうか?
おそらく多くの人にとってそれは「座る」という行為が特に深く考えずとも想起されると思います。
これはまさに、椅子という環境が私たちに「座る」という行為をアフォードしているから、このように想起できるのです。
一方で…
つかまり立ちを行うために『椅子』を利用する赤ちゃんだとどうでしょうか?
つかまり立ちをする際に用いる『椅子』は赤ちゃんにとって、私達のように『座る』という行為をアフォードしているわけではありません。
この場合、椅子は赤ちゃんに『つかまり立ち』をアフォードしているということになります。
つまり、『椅子』という環境要因を一つとっても身体との文脈の中では椅子に対する行為は『座る』や『つかまり立ち』などといったように人によって様々な形に変化し続けるわけです。
冒頭で述べた、アフォードする環境は個体によって捉え方が違うというのはこういうことです。
アフォーダンスとリハビリテーションの関係
では、ここからはより具体的に、ここまでお話ししてきたアフォーダンスの概念をどのようにリハビリテーションに応用していくのかという部分を解説していきます。
リハビリテーションの領域で考えると、患者様がリハビリテーションで獲得しなければならないことは、単純な運動の回復ではなく、身体と環境との新たな関係の構築です。
つまり、行為の回復です。
運動と行為は似ているようですが、実は全く違います。
運動は、自分の身体一つあれば遂行可能ですが一方で行為とは、身体一つで完成するものではなく、常に環境と身体が相互作用し続けた結果起きるものです。
・肘の屈伸運動だけで何かの行為が創発されますか?
・膝を屈伸させるだけで何かの行為が創発されますか?
もちろん関節運動が行えなければ、行為にはつながりませんから行為の構成要素として関節運動は必ず必要です。しかし、臨床の中では単関節運動が行えてもそれが行為につながっていないケースってないでしょうか?
これは先ほど述べたように、行為の獲得自体が身体一つでは行えず、あらゆる環境と相互作用しながら行われているからです。
リハビリテーションの中で、患者様は健常なときに培った身体イメージとは違う、障害を持った現在の身体で能動的に動き、環境に自らが働きかけ、現在の身体にあった身体イメージを更新していきます。
そして環境の無限なアフォーダンスの中から現在の自分が適応できるものを発見し、自分なりの行為を創発していかなければなりません。
アフォーダンスから考えるリハビリテーションの課題
リハビリの世界で、安易に「~してください」「ここにつかまって右足から出してください」など、やり方を強制させてしまうことがありませんか?
これは、短い入院期間中により早く動作遂行能力を上げなくてはならない。という医療制度的な縛りもあり、セラピスト側に含まれる意図もあると思います。
しかし、本来環境に対して運動や行為を創発するのは、「自己」であり他人から決められるものではありません。
・赤ちゃんの頃につかまり立ちを教えられましたか?
・寝返りの仕方を教えられましたか?
・歩く方法を教えられましたか?
きっとそんなことはないと思います。
なぜならば、行為の創発というのはすごく能動的な行いだからです。
つまり、私達にとってのアフォーダンスと患者様にとってのアフォーダンスは違う可能性がかなり高いのです。
というふうに考えると、、、
いわゆる「正常なパターンといった決められた形の動作指導やそのための筋力強化、ROM訓練などは本当に正解なのか?」ということが一つ大きな疑問として残ります。
もし、その方法に少しでも違和感を感じるのであれば、ヒトの発達の起源や成長の過程をもう一度考え、リハビリテーションを見直す機会を設けても良いのではないかと思います。
というわけで、以上が『アフォーダンスの視点からリハビリテーションを考える』でした。
最後に
最後に、アフォーダンスに関連するおすすめの書籍をご紹介しておきます。
もっと詳しく知りたい方はこちらの書籍をご覧下さい。
また、今回お伝えしたような内容をはじめとするリハビリ関連の情報発信はInstagramの方でも行っております。
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