「腰痛の85%は原因が不明、つまり非特異的腰痛です」
この一言が最初に唱えられ始めたのは1992年、一つの論文が発表されたことを皮切りに一気に広まりました。
世はまさに大海賊時代に突入したわけです。
ちなみに、そのきっかけとなった論文というのがこちらです。
以来、腰痛関連のWebサイトや参考書、論文を見るとそこかしことこの論文が引用され「腰痛のほとんどは非特異的ですよ」というのが浸透していきました。
とはいえ、とはいえです。
「腰痛の85%は原因がわからない」と提唱されてから約30年。一つ言いたいのは…
流石に情報古くない?
ちょっと30年前に頭の中だけタイムスリップして欲しいんですが、この時の検査の精度ってどんなだったと思いますか?
これ、決して当時の研究方法がしょぼかったと言いたいわけではなく、“今と比較してどうか”という観点です。
1992年にこの論文が発表された当時も、その時代における最新の統計技術やデバイス(MRIなど)を用いていたと思います。
ただ、そうであったとしてもこの30年の間で検査技術自体とんでもなくスペックが上がっているのは明らかなわけですね。
そうすると、「本当に85%も原因不明って言える?もうちょっと今ある機材で調べたら何か出てくるんじゃ?」的な疑問がふわっと出てきませんか?
というわけで、この記事では「2023年においても腰痛の85%は原因不明と言えるのかどうか」この点を紐解いていきたいと思います。
【30年前の知見って知ってた?】腰痛の85%は原因不明、これはもう古い
2016年に腰痛の原因を精査した研究がある
「本当に腰痛の原因は85%なのか?」
実は、この疑問をもう一度検証した研究があるんです。それがこちら。
これ驚きなのは、日本(山口県)で行われた研究だということです。
しかも2016年。なんとも灯台下暗しと言いますか、興味深い研究がこんなに身近にあったとはびっくりです。
さて少し内容を解説すると、この研究では山口県の整形外科クリニックから320人(年齢範囲:20~85歳、平均年齢:55.7歳)の腰痛患者を募集し詳細な検査を実施しました。
そして、その結果によって腰痛の原因を再調査しようというのがこの研究の狙いです。
結論、原因不明な腰痛は約22%ほど
早速結果を見ていきます。
腰痛を患っている人の検査を細かく行ったところ、以下のように腰痛の原因が振り分けられました。
- 椎間関節性:22%
- 筋-筋膜性:18%
- 椎間板性:13%
- 狭窄性:11%
- 椎間板ヘルニア:7%
- 仙腸関節性:6%
全部足すと77%になるわけなので、つまるところ原因が分からない腰痛って22%ということが明らかになったのです。
もう一度言います。
原因が分からない腰痛の割合は22%です。
つまり、これまで原因不明だとされていた約60%がそこそこクリアになってきたよという。そんな結果が得られたわけです。
「腰痛の85%は非特異的である」は根拠がなくなったと言える
この研究結果を踏まえると、これまでセミナー等で「腰痛の85%は原因不明なんだ。だから…」みたいな感じで切り込んでくる講義が沢山あったと思うんですが、これからは「それ覆ったっぽいですよ」と受講生が優しく教えてあげる必要があるかもしれません。
とはいえ、偉そうに書いている僕自身もこの論文を知ったのは2023年になってからなので、多分かなり遅いです。
だからこそ、「情報にタッチする速度とかアンテナの感度って重要だなぁ…」ということを思い知らされてます。
腰痛診療ガイドラインでも注意喚起されている
2019年に腰痛診療ガイドラインの改訂版が出版されてますが、実はその冒頭にある『作成方針』のところにも
非特異的腰痛(Nonspecific low back pain)の安易な使用に注意する
腰痛診療ガイドライン.2019改訂版
と、注意喚起がされています。
この中身をもう少し詳しく解説すると、このように明記されています。
腰痛診療ガイドライン2012(初版)では、欧米の権威ある雑誌に発表された論文を引用し、“非特異的腰痛が腰痛の85%を占める”と記載した。・・・一方、近年発表された本邦の整形外科専門医による腰痛の原因を詳細に調査した報告によれば、腰痛の原因の内訳は椎間関節性22%、筋-筋膜性18%、椎間板性13%、狭窄性11%、椎間板ヘルニア7%、仙腸関節性6%などであった。75%以上で診断が可能であり、診断不可の“非特異的腰痛”は逆に22%に過ぎなかった。今後もより高いエビデンスをもった研究が期待される。いずれにせよ、「腰痛の85%が非特異的である」という根拠は再考する必要がある
腰痛診療ガイドライン.2019改訂版
診断が正しく症状を反映しているとは限らない事実もある…
最後に、皆さんをめちゃめちゃ混乱させて終わりたいと思います。
「腰痛の原因って技術の進歩によってある程度精査が可能になったよ」というのがここまでお伝えしてきたことなんですが、一方でこんな報告もあります。
この研究は、無症状の地域住民938人をバクっと集めて腰部MRIを行いました。
その結果、無症状にも関わらず約80%の人が画像初見状では腰部脊柱管狭窄症を呈していたことが明らかになりました。
具体的には、77.9%の人が中等度以上の(中心)狭窄症があり、そのうち約30.4%が重度の中心狭窄を有していたことが明らかになったのです。
この記事の具体的な内容については、以下の記事で解説しているので詳細気になる方はこちらをご覧ください。
ここで伝えたいこと。それは、確かに“診断上は”腰痛の原因をかなり特定することが可能になってきたが、実際の臨床症状自体が“その診断によるものかどうか”
もっというと、「先ほど示した6つの原因が正しく症状を反映しているとは限らないケースがある」ということも事実として抑えておく必要があるかもしれません。
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参考文献
1)What can the history and physical examination tell us about low back pain?.Deyo RA,1992
2)Associations between radiographic lumbar spinal stenosis and clinical symptoms in the general population: the Wakayama Spine Study.Y ishimoto,2013
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