現在、シリーズでお伝えしている『臨床でよくありがちなバイアス』について。
前回は『確証バイアス』を、そして前々回は『早まった一般化』について解説していきました。
今回はシリーズ第三弾、『三た論法』についての解説を行っていきたいと思います。
三た論法に関しても結構な人が陥っているんじゃないかと思われるため、ぜひこの機会に抑えて頂けたらと思います。
それでは、始めていきましょう。
【バイアスシリーズ③】三た論法によって誤った方法論の意思決定をしてない?
『三た論法』とは何か?
まずはじめに、臨床を行っていく際によくあるバイアス「三た論法とはなんなのか?」ということなんですが、これは…
『2つの前提からひとつの結論を導く思考展開のこと』です。
これは言葉で説明するよりも実際に例を見ていた方が理解しやすいので、まず以下の例をご覧ください。
『三た論法』の一番有名な例といえば、雨乞いをするカエルが有名です。
- カエルが雨乞いをした
- 雨が降った
- カエルが行った雨乞いに効果があった
このように『三た論法』とは、3つの『た』が一つのロジックになるように構成されているのでそう呼ばれています。
他には、「薬を使った→治った→薬に効果があった」というのも医療業界の中では有名な三た論法の一つですね。
これに関しては、朝日新聞でも取り上げられているのでご興味ある方はこちらをご覧ください。
で、ですね。この『雨乞いをするカエル』の一連のロジックから問いたいこと。
それは、「本当に雨乞いに効果があったといえますか?」ということです。
カエルが雨乞いを行って実際に雨が降ったんだから、そりゃ効果があったに決まってんじゃん。
と、言いたくなる人は完全に三た論法的な思考に陥っています。
では、「三た論法の何がまずいのか?」ここをクリアにするために、実際のリハビリテーション場面における推論例を考えていきたいと思います。
リハビリテーション場面における『三た論法』
皆さんが、リハビリテーションを進めていく際に『三た論法』が横行してしまうよくありがちな場面。
それは、「方法論を意思決定する時」と「その方法の効果を評価する時」です。
例えばこんな例です。
- 脳卒中の患者さんを担当した
- 方法Aを行ったところ歩行速度が速くなった
- 方法Aには効果があった
これですね。これも、先ほどと同じ問いを投げると…
「果たして方法Aには効果があったといえますか?」という事が言えます。
そして、実はこの③のような結論の出し方には注意すべき点が2つあり、これこそが三た論法がまずい理由になります。
『三た論法』がまずい2つの理由
『三た論法』がまずい2つの理由、それは…
- そのほかの要因を考慮していない
- 効果の程度を示す比較対象がない
この2つです。
「そのほかの要因を考慮していない」とは
例えば急性期にあなたがある患者様のリハビリテーションを行い、介入初期に比べて最終評価時に何らかのアウトカムが向上したとします。
この時、介入初期よりも最終の方が明らかにアウトカムが向上しているので、一見すると「自分が用いた方法が良かったんだ」と解釈したくなります。
しかし、ここで忘れてはいけないファクトが『交絡因子』や『自然回復』というもので、これらはアウトカムに影響を及ぼすその他の要因になるわけです。
交絡因子については、以下の記事で詳しく解説しているのでご興味ある方はこちらをご覧ください。
『アウトカムに影響を及ぼす』というのはつまるところ、「あなたが用いた方法以外の要因によってアウトカムが伸びている(つまり改善している)可能性がある」ということです。
そのため、三た論法的に「方法Aを用いた、アウトカムが伸びた、方法Aに効果があった。」と安易に結論づけてしまうと、自分自身の臨床を振り返るといったプロセスを踏まなくなる可能性があります。
これが過信につながったり、「こういう疾患には方法Aだけ行っていればいい」といった短絡的な推論に陥りがちになってしまいます。
よって臨床を行っていく上で大切なことは、「自分が行った方法以外で改善に寄与している他の要因はないだろうか?(以下のような例)」と、広い視野で思考を展開していくことが重要です。
- 患者様が自室で自主トレに励んでいた
- 方法A以外に実施していた方法Bがあった
- (脳卒中であれば)脳の浮腫が改善した
- (整形オペ後であれば)炎症が治ってきた
「効果の程度を示す比較対象がない」とは
『比較対象』というのは、皆さんがリハビリテーションを行っていく際に用いている方法論の効果を比較する対象のことです。
なぜ、臨床を進めていく上で方法論の比較対象が必要なのか?
それは、あるリハビリ(方法A)を行って初期よりも最終でアウトカムが良くなれば全て「効果あり」という結論になってしまうからです。
この写真の例にあるように、退院時にアウトカム(評価B)が10点上がっていれば「方法Aには効果があった」と言えちゃうこと。これがある種問題なのです。
というのが、例えば仮にこんな報告があったとします。
ある研究報告で…
慢性脳卒中患者様100人に対して方法Aを行った結果、歩行速度が平均10秒速くなりました。
これに対して、療法士Aが行った方法ではこのような結果になりました。
慢性脳卒中患者様に対して方法Bを行った結果、歩行速度が初期に比べて3秒速くなりました。
さて、確かに療法士Aが方法Bを行った結果、歩行速度が3秒速くなっているのですが…
果たしてこれを「効果があった」と言って良いでしょうか?
普通に考えると、慢性脳卒中患者様に対しては方法Bよりも方法Aの方が平均歩行速度が速くなるという結果が先行研究で明らかになっているので、「方法Aを用いた方が良かったのでは?」となるんじゃないかと思います。
むしろ、方法Bは効果がなかったとも言えるんじゃ…
ところが、実際の臨床ではこの『比較対象となる方法A』がない状態で臨床を進めてしまうので、「初期よりも点数が上がれば効果があった」という結論に陥りやすいのです。
つまり、これに関しても三た論法的に「方法Bを用いた、点数が上がった、方法Bに効果があった。」と結論づけてしまうと、実際は効果がそこまでなかった方法に対しても、『効果のある方法』として解釈してしまう事があるのです。
EBPに逆行するのが『三た論法』
みなさんは、『evidence based practice(EBP)』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
直訳すると、「根拠に基づいた実践」と訳されますがこの言葉自体は、evidence based medicine(EBM)=「根拠に基づいた医療」に由来しています。
近年、リハビリテーション業界の中でもこのEBPを実践していくことが強く唱えられ始めていますが、「実際にできているか?」というとまだまだといった状況です。
で、「EBPを実践する」というとよく感じがいされるのが…
EBPの実戦って要はエビデンスの高い方法だけを採用してリハビリを行っていくことでしょ?世の中にはエビデンスが高い方法を提供しても良くならない人が沢山いるの!だから私は、そんなものは実践しない!
という主張が飛んでくるわけです。
結論から言いますと、これは大きな、大きすぎる『誤解』です。
まず、EBPとはエビデンスレベルの高い方法“だけ”を実践することではありません。
もちろん、エビデンスも方法を決めるための一つの要素ではありますが、判断材料は他にもありそれが以下の項目です。
- 対象者の病態に合致している方法はどれか?
- その方法をスキル&環境要因から提供可能か?
- 対象者がその方法を望んでいるのか?
これらを踏まえ総合的に判断して方法論を意思決定する事がEBPです。
よって、対象者の病態を掴まないまま「とりあえずエビデンスが高いからこれ」という意思決定をすることはEBPでもなんでもありません。
で、ですね。
実は、このEBPと全く逆行する考え方が「三た論法」なんです。
というのも、三た論法的推論では…
「とりあえずこの方法をやってみて、それで良くなったらこの方法が良かったんだ」という解釈になるため、割と一か八か的な意思決定になりやすいことと、方法論を批判的に吟味する機会も失いやすいです。
一方で、EBPの場合は…
「この病態の患者さんに対してAという方法を用いた場合、Bの方法と比較して何らかの結果(歩行速度など)がどれくらい良くなるだろうか?」 (これをPICOと言う)
という考え方をするため、必ず行おうとする方法論に対して批判的吟味の時間が設けられます。
よって、多少意思決定までに時間を要するというデメリットはありますが、その分一か八かではなくきちんと病態に合った方法を提供できるというのがEBPの最大の強みです。
ただ、時間がかかるというデメリットなんてほとんどデメリットにはならないと僕は思ってて、むしろ必要コストであると思っています。
なぜなら、患者様に行うリハビリテーションが「良くなるかならないかの賭け」で提供されて良いわけがないからです。
その人にとって、最も改善可能性が高い、仮に回復期であればその瞬間はたった一回しかないわけです。
その時に、「とりあえず」で行った方法が仮に上手くいかなかったとした場合、セラピストにしてみたら「よし、次」とあっさり切り替えられるかもしれませんが、患者様にしてみたら「その時間なんだったの?」と当然なって然るべきだと思います。
だからこそ、できる限り、そして限られた時間を精一杯使って考えるというのは必要不可欠なプロセスだと考えています。
『三た論法』まとめ
それでは、ここまでお伝えしてきた三た論法についてのまとめに入ります。
- 三た論法とは『2つの前提からひとつの結論を導く思考展開のこと』である。
- リハビリテーション場面において最も多い三た論法的なバイアスは『方法Aを用いた、アウトカムが上がった、方法Aに効果があった。」というロジックである。
- 三た論法がまずい理由は『その他の要因を考慮していないこと』と『効果の程度を示す比較対象がないこと』である。
- 三た論法はEBPと逆行する思考展開である。
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