腰痛に対する一撃必殺的な治療法なんて存在しない

リハビリテーション業界をはじめ、整体や鍼灸業界においても必ず対象となるであろう疾患、それが『腰痛』ではないでしょうか?

リハビリテーション業界であれば、主に術後のリハビリなど急性腰痛に関わることが多く、整体や鍼灸業界であれば慢性的に腰痛に悩んでいる人が多く来院されるかと思います。

現在、国内の腰痛罹患率は25~35%といわれており、腰痛が及ぼす経済損失は約3兆円にものぼります。

朝日新聞デジタル

 一生の間に80%以上の人が悩まされる腰痛。その経済損失は年間約3兆円に上るとする試算を、東京大と日本臓器製薬(大阪市)…

このように、医療現場において『腰痛』は切っても切れない疾患となっています。

そんな中、最近私自身が非常に気になっているのが「腰痛治療に対するセミナーの乱立」です。

SNSを見ていると、ここぞとばかりに広告で流れてくるわけです。

「神の手!!」とか「指一本で!」とか、ひどいものだと「もはや触らない!」みたいな。

コロナ禍によって、オンラインセミナーが普及してからさらにこの流れが加速しているような気がするので、ここで一つ腰痛に対する治療方法のエビデンスについて、きちんと言及しておきたいと思います。

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腰痛に対する一撃必殺的な治療法なんて存在しない

まず、結論から言うとタイトルにもあるように、急性もしくは慢性の非特異的腰痛に対する一撃必殺的な治療法なんてありません。

よって、腰痛患者が来た時に「とりあえず筋肉を触ればー」や「指一本でこの関節を!」みたいなので治そうなんていうのは基本的にありえません。

ただ、根拠なしにこの主張をしても中々信じられないかと思うので、これからその根拠についてお伝えしていきます。

非特異的腰痛に対する運動制御エクササイズの有効性

今回、腰痛に対する治療効果の検証をお伝えするために参考にさせて頂いた論文がこちらです。

Motor Control Exercise for Nonspecific Low Back Pain: A Cochrane Review.Saragiotto BT,2016

タイトルを和訳すると、『非特異的な腰痛に対する運動制御エクササイズ:コクラン・レビュー』となっており、要するに…

腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症と言った器質的な病態がない(非特異的)腰痛患者に対して、運動を主としたエクササイズの効果はどれほどなのか?

というのを調べたレビュー論文です。

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運動制御エクササイズ(MCE)とは

タイトルにある『Motor Control Exercise:MCE』というのは、シンプルに訳すと『運動制御エクササイズ』となるのですが、運動制御エクササイズって具体的にどんなことをするのか?

というと、ここで実施された運動制御エクササイズとは…

『体幹深層筋(腹横筋・多裂筋)の活性化に焦点を当てたエクササイズのこと(Bruno.2016)』

つまり、よく腰痛の治療手段として用いられる体幹トレーニング(プランクなど)がこれに該当するかと思います。

レビューの目的と対象

ひとまず、サクッとこのレビュー論文の目的や前提となるファクト情報を抑えておきたいと思います。

目的

・急性・亜急性・慢性の非特異的腰痛患者に対する運動制御エクササイズの効果を検証すること

対象

・本レビューはランダム化比較試験で行われた研究のみを対象
・レッドフラッグ患者は除外
・採用された研究数32/181件
・急性腰痛患者197人
・慢性腰痛患者2431人

比較対象となった方法論

・MCEの比較対象として採用された方法は2つで、『運動療法』と『手技療法』である。

・『運動療法』に含まれるもの
→ストレッチやマッケンジー体操など
・『手技療法』に含まれるもの
→脊椎マニュピレーションやマッサージなど

 

急性腰痛に対する運動制御エクササイズの効果

結果ですが、まずは急性腰痛に対するMCEとそれぞれ比較対象となっている方法論の効果について以下に示します。

急性腰痛に対する『MCE』対『その他運動療法』

本レビューの結果では、このように結論付けられました。

痛みの強度&パフォーマンスに対する両者(MCEとその他運動療法)の効果は、短期・中期・長期に見ても大きな差はない。
Motor Control Exercise for Nonspecific Low Back Pain: A Cochrane Review.Saragiotto BT,2016

つまり、急性腰痛に対するMCEもしくはその他運動療法は、どちらも同程度の効果であるということです。=優位性がない

急性腰痛に対する『MCE』対『手技療法』

次は、MCEとマッサージなど手技療法の効果の違いについての結果がこちらです。

痛みの強度&パフォーマンスに対する両者(MCEと手技療法)の効果は、短期・中期・長期に見ても大きな差はない。
Motor Control Exercise for Nonspecific Low Back Pain: A Cochrane Review.Saragiotto BT,2016

こちらに関しても先ほど同様、急性腰痛に対する2つの方法論に効果の差は見られないことが明らかになりました。

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慢性腰痛に対する運動制御エクササイズの効果

続いて、慢性腰痛に対するMCEとそれぞれ比較対象となっている方法論の効果について以下に示します。

慢性腰痛に対する『MCE』対『その他運動療法』

慢性腰痛に対する、MCEとその他運動療法の効果について、結果はこのようになりました。

痛みの強度&パフォーマンスに対する両者(MCEとその他運動療法)の効果は、短期・中期・長期に見ても大きな差はない。
Motor Control Exercise for Nonspecific Low Back Pain: A Cochrane Review.Saragiotto BT,2016

急性期同様、慢性期においてもMCEの有効性は示されませんでした。

慢性腰痛に対する『MCE』対『手技療法』

続いて、MCEとマッサージなど手技療法の効果についての結果がこちらです。

痛みの強度&パフォーマンスに対する両者(MCEとその他運動療法)の効果は、短期・中期・長期に見ても大きな差はない。
Motor Control Exercise for Nonspecific Low Back Pain: A Cochrane Review.Saragiotto BT,2016

はい、なんとなく察していた方もいたかもしれませんが、結果はこのようになりました。

腰痛に対して「とりあえず体幹トレーニング」はもう古い

以上のレビュー結果から、急性そして慢性腰痛に対して運動制御エクササイズは効果的ではないことが明らかになりました。

この知見は、現在腰痛のリハビリテーションに携わっている皆さんにとってはそこそこ衝撃的な事実ではないかと思います。

なぜならば、多くの場合「腰痛=体幹周りの筋肉が弱い=だから体幹トレーニングだ」というような意思決定をされているケースが散見されるからです。

体幹トレーニングが全く必要ないとは言いませんが、従来のように「腰痛があるから体幹トレーニングやっとこ」というような意思決定はそろそろ古くなってきている可能性があるので、これを機に見直して見てはいかがでしょうか?

腰痛に対する方法論は丁寧な病態解釈のもと決めるべき

ここまで、急性&慢性腰痛に対してMCEやその他の治療手技との比較を見てきましたが、結果を見て分かる通り「どの方法論にも突出した優位性がない」というのが現状のエビデンスです。

よって、腰痛に対してリハビリテーション介入を行う際に大事なこと。

それは、丁寧に病態解釈を行った後、その病態に適した方法論をチョイスすることです。

なぜならば、一口に『腰痛』といってもその中に含まれている病態は千差万別だからです。

「腰痛だからこの方法」という短絡的な意思決定では的を外す可能性が極めて高いため、早急に方法論に飛びつく前にまずは「その腰痛がどのようなメカニズムで生じているのか?」ここを考えていく癖を身につけていくと良いのではないかと思います。

腰痛に対する治療法まとめ

 急性・慢性問わず腰痛に対する一撃必殺的な治療法は存在しない

 腰痛=体幹トレーニングはもう古い

 まずは丁寧に病態解釈を行った後に方法論の意思決定を

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