「腰痛の原因をアセスメントしなさい」
と言われた時、おそらく5人に1人くらいは(いやもっといるか)、姿勢アライメントに言及するのではないかと個人的に思っているのですがいかがでしょうか?
日々のリハビリテーションの現場や整体、整骨院業界などを見渡しても「腰痛の原因は姿勢に問題があるからですよ!」と患者様に指導するセラピストは非常に多く、まさに『姿勢アライメントisキング』と言えるくらい姿勢を含む身体構造に着目した臨床推論は王道パターンの一つです。
このように、様々な身体症状(痛みなど)の原因を何らか身体所見の何処かに着地させる考え方を『Biomedical Model:生物医学モデル』といいます。
生物医学モデルは別名として『PSBモデル(姿勢-構造-生体力学モデル)』と言われることもある
生物医学モデルの考え方は、「病気の原因は身体構造のどこかにある」というある種この2つが常に因果関係の形で結ばれていました。
しかし一方で、実際の臨床現場において、例えば『慢性疼痛』の領域でいうと身体構造の問題に加えて、その他側面(情動や認知的側面など)がオーバーラップした状態で、痛みそのものを拗らせている可能性が非常に高かったりします。
そうすると、生物医学モデル的な『身体構造の視点』だけでは中々患者様が軽快に向かわず、その結果として「思考がフリーズしてしまう」ということがよく起きるんですね。
だからこそ、今回この記事でお伝えしたいこと。
それは、『生物医学モデルからの脱却』です。
現在に至るまで生物医学モデルがリハビリテーション業界で浸透している一つの要因は、ひと昔前まで養成校における教育や疼痛系セミナーにおいては、ほぼ生物医学モデル的な知見ばかりだったからではないかと個人的には考えています。
しかし、2020年にIASP(国際疼痛学会)が痛みの定義を41年ぶりに改定してから徐々にその流れが変わってきており、生物医学モデル的な考え方では痛みの患者様が良くできないということが分かってきました。
だからこそこの記事では、従来当たり前のように考えられてきた痛みのメカニズムについてメスを入れ、まだまだ養成校等では教わらない新しい痛みの考え方について解説していきたいと思います。
「姿勢が悪い=腰痛になる」はもう古い!〜姿勢アライメントisキング的思考から脱却する7つのポイント〜
腰が曲がっているお婆ちゃんはもれなく全員腰が痛いですか?
手始めにまずお伝えしたいのが、冒頭で軽く触れた『姿勢アライメントと腰痛の関係』についてです。
ここは、生物医学モデルの代名詞と言わんばかりの考え方が浸透しており、恐らくセラピストのほとんどの方が痛みに関する推論を行っていくときに考える視点になっているのではないでしょうか?
とはいえ。
ここまで生物医学モデルをディスっておいてすごくお恥ずかしいのですが、かくいう僕自身も『姿勢アライメント』については臨床1〜2年目くらいまではもうずっと見ていました。
なので口癖は「胸椎のアライメントが〜」とかなんとかこんな風ですね。
当時は別に悪いと思っていなかったし、むしろ養成校では姿勢アライメントと痛みの関係についてコンコンと詰められていたので、「むしろ痛みの原因は姿勢からしか生まれない」という極端に尖った思考をしていたような気がします。
ただですね、いつだったかは忘れたのですがあるときこんな疑問を感じたんです。
あれ?変形性膝関節症のおばあちゃん。あれだけの内反変形あったら絶対痛いはずなのになんで痛みないの?
ですね。で、これと同様『腰が曲がっている高齢者の方』においても同じことが言えて…
生物医学的に考えると腰が痛くなるはずなのに、全然痛みがない。むしろ毎日農作業を行いイキイキしてる。
みたいな人がいることに気づいたわけです。
これって僕がよく臨床推論の話しの時に言っている『反証可能性』ってやつでして、要は僕らは「痛みのある患者さん」を見た時は、その原因として姿勢が悪いのであればそこに仮説を立てるんですが、「姿勢が悪い人」でも痛みがなければそこに対しては特別疑問を持たないんですね。
つまり、「姿勢が悪くても痛みが全然ない人って事実いるんだけど、あれどうやって説明すんの?」という話しです。
姿勢アライメントという仮説を反証する事実があるにも関わらず、なぜかここは目を瞑るというそんなことがセラピスト業界の中ではある種普通になっているところがあります。
姿勢アライメントの常識を覆す論文
そんな中、2019年に一本の論文が発行されました。
それが、『“Sit Up Straight”: Time to Re-evaluate』というタイトルの論文で、著者はSlater D氏です。
内容を見ると、これまで姿勢アライメント is KING的な思考をしていた僕としてはもう度肝を抜かれたと言いますか…
とにかく衝撃的なそんな内容でした。
これから以下に、本論文の中で述べられている『姿勢による物語を変革するための7つのポイント』について一つずつ解説していきます。
① 正しい姿勢というものは存在しない
一般に信じられている姿勢にも関わらず、最適な姿勢が存在することや「正しくない」姿勢を避けることで腰痛が予防できるという強い証拠はない。(Slater D,2019)
脊柱のことでいうと、僕らはどうしても「“綺麗な”姿勢アライメントをつくらなくちゃ!」というような、ある種固定観念があるので、過剰に腰椎が前湾していたり胸椎の後湾が不足していると、それを戻そうとしたくなります。
しかし、唯一正解の正しい姿勢なんてものは存在せず、それと痛みは全く関連しないということを一つの事実として抑えておかなくちゃいけません。
もし正常で綺麗なアライメント以外、確実に腰痛が出るのだとしたら(程度の差を含め)側湾症の方などは一生腰痛と付き合っていかないといけませんが、側湾があるからといって100%腰痛持ちかと言われるとそうでもありません。
だからこそ、全てのセラピストが持っておきたいマインドというのが次です。
② 姿勢が異なるのは当たり前
ヒトの脊椎の湾曲には自然なバリエーションがあり、痛みと強く関連するような唯一の湾曲などは存在しない。(Slater D,2019)
姿勢そのものにたった一つの正解がないということは、多少なり姿勢にグラデーションがあったとしてもそこまで悲観的になる必要はないということです。
円背だから腰痛になる
反り腰だから腰痛になる
これらはよくある推論パターンですが、「何となくそうなりそうな気がするから」というややふわっとした理由でこの結論に着地させていることってないですか?
③ 姿勢は信念や気分が反映される
姿勢はその人の感情や思考、身体イメージの影響を受ける。姿勢の変化には身体を守るためにとるものもあり、身体の弱さに関する個人の懸念が反映されている場合もある。(Slater D,2019)
例えば、運動恐怖心があったり痛みを逃避したいがためにとっていた姿勢を見た時、多くのセラピストはその姿勢の問題を筋肉や関節に問題を帰着させがちです。
姿勢は筋肉や関節、人体といった組織学的なものだけがつくりあげているわけでありません。
表面的には映らない患者様本人の中にある精神や心理、認知的な問題を強く受けるということを念頭においておく必要があります。
この点については、実際の研究がありInstagramの方で詳しく解説していますので、ご興味ある方はご覧ください。
続きは『はじまりのまち』で
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