整形外科疾患であれ、脳血管疾患であれよく共通する症状の一つに「痛み」があります。
とはいえ、痛みを患っている患者様のリハビリを行う際に、セラピストが痛みそのものをバクッと一括りで捉えてしまうとまぁまぁの確率で迷宮入りしちゃいます。(その結果思考がフリーズする)
だからこそ、痛みをどうにかしようと思った時にまずやるべきことは、「可能な限りその病態をクリアにしていく」ということで、ここが実際の臨床では至上命題になってきます。
とはいえね、「じゃあどうやって病態をクリアにしていくんだよ」と。
そんな声が日本中から飛んできそうなわけですが、その解像度を高めるために重要になってくるのが何かというと『評価』です。
そう、評価です。
「なんだ評価かよ」と。「そんなのわかってんだよ」と。罵声に近い声がそこそこなボリュームで届いてるんですが、はいここで重要なのが「おたくは何の評価やりますか?」という問いです。
痛みに対する評価といえば、おそらく一番浸透率が高いのが『NRS』や『VAS』ではないでしょうか?
実は、痛みに対して行う評価ってその多くがNRSやVASのように「対象者に聞く」という類のもので、他には破局的思考の評価法である『PCS』や運動恐怖心の評価である『TSK』なんかも聞くことで成立する評価です。
こういった対象者の方に聞いて成立する評価方法を総称して『質問紙法』と呼びます。
痛みに対する質問紙法は結構な数があって、海外の研究等でもその有効性が確認されているものも多いです。
そんな質問紙による評価法ですが、実はデメリットというのもありまして…
今回の記事では、質問紙に潜むデメリットと「じゃあそのデメリットをリカバリーするにはどうしたら良いん?」という話し。
この2点について解説していきたいなと思います。
【質問紙法のデメリット】痛みを評価する前に必ず行っておきたい2つのこと
痛みに対する質問紙法2つのデメリット
さて、早速ですが痛みに対する質問紙評価法には大きく2つのデメリットがあります。
1つは「時間を要する」という点、もうひとつは「本音が拾えているか分からない」という点です。
質問紙法のデメリット① 時間を要する
痛みの評価として用いられるツールってどれくらいあるか知ってますか?
痛みの3つの側面(感覚・情動・認知)をすべて含むと約10くらいあります。
まぁ、これだけでもそこそこ多いなと、そんな印象はありますよね。
加えて、それぞれの評価スケールの「問いの数」なんですが、これどれくらいか分かりますか?
例えば、pain catastrophizing Scale(PCS)なんかは全13問なんですが、当然これだけとっても病態の解像度は粗いままなので、大体他のも行いますよね。
そこでTampa Scale for Kinesiophobia(TSK)も行いましたとなると、プラス17項目追加になるわけです。
そこに追い打ちをかけるように、情動的側面の検査もやりますよとなればここに(例えば)Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)も加わると、さらに14項目増えるんです。
「さて、流石に多くない?」
これ、療法士側は別に困らないんです。極端なことを言ったら「質問を行うだけ」なので。
この質問の多さに一番困るのは誰かと言ったら当たり前ですけど「患者様」なんです。
そりゃそうで、普通に考えたら容易に想像できますが、痛くてどうしようもないから病院に来てるのに身体を見ることなく膨大な数の質問をマシンガンのように放り込まれたら
「え、この地獄いつまで続くんですか?」
と言っちゃいたくなるでしょう。
だからこそ、質問紙による評価もこのような「思考負荷の大きさ」みたいなところには気を配る必要があります。
質問紙法のデメリット② 本音が拾えているか分からない
さて、もう一つ。質問紙評価法のデメリットをお伝えします。
それが、「本音が拾えているか分からない」というやつです。
これ、以前アンケート調査を行うときのポイントでもお伝えしたんですが、「本音よりも論理や合理性が勝っちゃうパターンがある」ということですね。これを『報告バイアス』と言います。
皆さんもご経験があると思うのですが、他愛もない会話の中で、もしくは相手が主導となって自らの症状を話してくれている時というのは割と本音が出やすかったりします。
一方で、セラピストが何らかの用紙をバインダーに挟み「今からあなたに質問しますよ」というシチュエーションになると、一気に空気感が「なんかの検査はじまる感」に切り替わりますよね。
この時、患者様の心理状態としてはどうなるかというと…
「なんかまずいこと言ったら痛い治療されるかも…」
「重症だと思われて手術とかになったらどうしよう…」
というように、いろいろ頭の中で考えてしまうわけです。
そうすると、回答も「考えた結果」がそこに反映される可能性が高くなり、実態とは異なった病態像がつくられることがあります。
質問紙評価に入るまでに出来ることがある
ここまで質問紙評価のデメリットを2つお話ししてきましたが、ここからは「じゃあどうするか?」という話しをします。
僕自身、痛みのリハビリを進めていく上で最も重要なのは「詳細な検査に入る手前でスクリーニングをかけること」だと考えています。
要は、最初っから痛みの3つの側面に関連する質問紙を網羅的に実施しないということです。
そのために、一歩手間でスクリーニング検査を行うのです。
で、仮にそのスクリーニング検査で「情動的側面の色が強いか?」と思えばHADSを行ってみたりするという手順を踏ます。
そうすることで、ある種いらない検査を省くことができるんです。
こうすれば、質問紙法のデメリットの一つであった「時間を要する」という点をリカバリーすることが可能になります。
スクリーニング方法には2つある
詳細な質問紙法に入る手間に行うスクリーニング検査ですが、これには2つ方法があります。
①痛みの3つの側面簡便評価ツール
今回、痛みの感覚的側面・情動的側面・認知的側面を簡便に評価することができるツールを僕が作成致しました。
臨床において、痛みの3つの側面のどの色が強いのか、もしくは混ざっているのか判断するのが難しいと感じることがた多々あります。
そんな時に、今回作成した評価ツールを用いればざっくりと「どの側面の傾向が強いのか」を把握することが可能です。
そして、その結果次第でより詳細な検査に進んでいくとムダ撃ちすることなく病態を捉えることが可能になるかと思います。
このスクリーニングツールについては、オンラインサロン『はじまりのまち』にて配布しておりますのでご興味ある方はご参加お待ちしております。
②言葉や雰囲気で見るべきポイントを押さえる
もう一つは、ものすごく定性的なものにはなっちゃうのですが…
臨床において患者様が発する言葉や雰囲気、態度というのも実はものすごくヒントに富んでおりまして。
なぜならば、相手主導の言葉、そして態度みたいなものは「無意識で表に出ているもの」だからです。
これは冒頭で話した部分につながりますが、カッチリとした質問紙評価とは異なり相手が無意識に行っている行為や発している言葉には、痛みの病態をグリップする上で非常に重要な情報がポロポロと出てくることが多いです。
というのも、痛みを患う患者様が発する言葉や雰囲気というのは結構類似する点が多くあり、そこから「この言葉は情動的側面の色が強いかも!」と、あくまで推察レベルではありますが仮説を立てることが可能になります。
そこで、ここからはこの辺りの『観察眼』的な話しを実際の臨床ベースでお話ししていけたらと思います。
これは決して論文等に書かれているわけではないのですが、定量的な部分だけじゃ解決しない臨床だからこそ、押さえておきたい部分になるかと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
続きは『はじまりのまち』で
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