『破局的思考』の評価~pain catastrophizing Scale(PCS)~

近年、リハビリテーション業界(特に慢性疼痛界隈)の中で『破局的思考』という言葉がホットワードになってきています。

というのも、この『破局的思考』が痛みを拗らせてしまう大きな要因になっているというのが、近年多くの研究で明らかになってきているからです。

そこで、この記事では…

この記事で分かること
  • 破局的思考とは何か?
  • 破局的思考と痛みの関係性とは?
  • pain catastrophizing Scaleとは?
  • 破局的思考を持つ方に対するリハビリテーション介入とは?

これら論点に対して、それぞれ分かりやすく解説していきたいと思います。

この記事を読めば、明日からの臨床において痛みの患者様に対峙する際に『破局的思考』を考慮した介入ができるようになると思います。

ぜひ、最後までご覧ください。

目次

『破局的思考』の評価~pain catastrophizing Scale(PCS)~

これまで、何度か痛みという側面を単なる身体機能障害だけによるものでなく、認知や情動的側面の分野からお話ししてきましたが、今回はもう少しその辺の所を方法論まで落とし込んで考えていこうと思います。

さて、そもそもなぜ痛みの患者様を診る際にこういった部分を重視するのか。

それは、理学療法の学校教育では認知的側面をはじめとするような神経科学を臨床展開として落とし込む術をあまり習わないからです。

そのため、もちろん身体機能障害による「疼痛」やバイオメカニカルの破綻から生じる「疼痛」も数多く存在するとは思いますが、あえてそれ以外の部分から生じ得る疼痛というのを知っていただけたらと思っています。

痛みのリハビリテーションの考え方と評価

では、まず初めに国際疼痛学会による痛みの定義を見てみましょう。

組織損傷が実際に起こった時、あるいは起こりそうな時に付随する不快な感覚および情動体験、あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験。

IASP国際疼痛学会,2020

とされています。この文章にあるように、痛みは,『痛い』と感じる体性感覚のような感覚的側面だけでなく,情動・認知的側面を含めた多面性をもっているのです。さらに、情動的というのは「本人の主観」です。つまり痛みというのは…

「本人が痛いという言葉で表す体験」

であり、本人が「痛い」といえばそれは痛みなわけです。よって、末梢器官の損傷だけで痛みの問題が全て解決されるとは限りません。

ここが前回の記事でお伝えしたかったことであり、情動・認知学的な側面の影響というのは痛みの慢性化を引き起こしやすいということが分かっています。

今回はその部分をもう少し掘り下げ、情動・認知的側面の影響を受けやすい人物像と、そういった人を見分けるツールとなる評価バッテリーをご紹介していきたいと思います。

破局的思考(pain catastro phizing)と痛み

さて、臨床の中でこういった人っていないでしょうか?

同じ組織損傷でも痛みを感じる人と感じない人

これは、一体どうしてなのでしょうか。勿論、二次的な身体機能障害の可能性もありますが、今回はその一つの可能性として「破局的思考」というのを取り上げて考えてみようかと思います。

破局的思考とは

Sullivanの定義によると破局的思考とは

「痛みに対する誇張された否定的な思考」

とされています。

そして、この破局的思考には下位三項目あり

  • Ⅰ反芻:痛みに関連した考えに過剰に注意を向ける事
  • Ⅱ無力感:痛みの強い状況において無力さを感じる事
  • Ⅲ拡大視:痛みの脅威を過大評価すること

という風にされています。

反芻

痛みの事が頭から離れない状態で、痛みに乗っ取られている状態。
考える内容もネガティブな方向で冷静な判断力に欠け、次から次へと不安を煽るような考えが沸き上がってくるような状態と言えます。

無力感

痛みに対して自分は何もできないと感じている状態で、そしてその痛みはひどくこの先も良くならないと感じている状態です。

拡大視

痛みそのものの強さやそれにより起こり得る問題を考えてしまい、時には現実よりも大きく見積もってしまう状態。拡大視の傾向が強い患者様は未来への恐れから自分の痛みと向き合えず、そのため自分の痛みをよく理解していないため、痛みについて本人に尋ねると「とにかく痛い」や「ずっと痛い」といった漠然とした返答が返ってくることが多い。といった状態です。

以下に、破局的思考と慢性疼痛に関わる論文を紹介します。

TKAの術後痛の慢性化に強く関連している上記項目としては「反芻」が有意な関連項目として挙げられている

平川善之、森岡周、他:術後痛の慢性化に影響する認知的・精神的因子の検討

Vlaeyeらは、痛みによる破局的思考が不安や過剰回避行動を生み出し慢性痛を引き起こすという「恐怖-回避モデル」を提唱している。

Vlaeyen JW,Linton SJ:Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain

『恐怖-回避モデル(fear-avoidance model)』

『疼痛理学療法の診療トピックス 松原貴子』より引用

この『恐怖-回避モデル』を少し説明させて頂くと…

痛みの体験後、痛みに対して不安といったネガティブな感情を抱かなければ、改善に向かっていきますが、逆に痛みに対して過度な恐怖といった破局的思考に陥ってしまうと慢性疼痛に移行しやすいと言われています。

その理由は、破局的思考によって痛みに対する運動恐怖感などを惹起することによって、患側の不動や不使用を招く可能性があるからです。

患側の不動や不使用が続くと、感覚入力や運動出力が減少し、それに伴い対応する脳内体部位再現(ホムンクルス)の狭小化が生じてしまいます。(学習性不使用)

その結果、『認知的側面』の色が強くなる慢性疼痛が完成してしまうのです。

同じ組織損傷でも痛みを感じる人感じない人の違い。

その一つの可能性として、痛みに対する思考というのがKeyになってくるかもしれません。

以上の事からも、慢性疼痛を防ぐために痛みに対する心理学的・精神的措置は今後のリハビリテーションにおいて重要ではないかと思います。

破局的思考患者の例

では、破局的思考とは具体的にどのような人というのがこれらに当てはまるのでしょうか。

例を挙げてみていきましょう。

破局的思考患者のAさん

家事を行っている最中に急に背中の痛みが出現した。少し背中を沿ってみて確認するとやはり痛みがある。

「そういえばこの間健康番組で、背中の痛みは癌の前兆って言ってたな…(拡大視)」

「これはとてつもなく大きな病の前ぶれかもしれない…(拡大視)」

「これからどのくらいこの痛みが続くんだろう…(反芻)」

「このまま一生この痛みが消えなかったらどうしよう…(反芻)」

このように、痛みに対して過度に反応し過大評価している方って意外に多くはないでしょうか?

このような方というのは、全てでないにしろ破局的思考から慢性疼痛に移行する予備軍と考えていても良いのではないかと思います。

破局的思考を点数化する評価バッテリー

Pain Catastrophizing Scale:PCS

では次に、この破局的思考となっている患者様を評価する場合の評価ツールをご紹介します。

今回ご紹介するのは「Pain Catastrophizing Scale:PCS」といわれる評価です。

これは1995年にSullivanによって発表された評価法で、疼痛に関する破局的思考を13項目からなる自己記入式の質問紙で行うもので、点数が高い程破局的思考となっている状態を表します。

もちろんこの項目の中には「反芻」「無力感」「拡大視」のどの状態が最も強くあるのかも評価することが可能です。

質問番号を各種記載します。

反芻:1.8.9.10.11
無力感:2.3.4.5.12
拡大視:6.7.13

これらの中で点数の合計がどの項目が高いかを視覚化することで、患者教育が必要なのかどうかを吟味する材料の一つになるのではないかと思います。

破局的思考患者への治療展開

ここまで、破局的思考がどのようなものか、そしてその評価について解説してきましたが、最後は実際に破局的思考が強い慢性疼痛患者等に対する治療方略のポイントをご紹介します。

破局的思考の強い患者様へ介入する際のポイント。それが…

「Coping strategy skill」と言われるものです。

Copingとは「対処法」という意味であるため、言い変えると「破局的思考を持つ慢性疼痛に対する対処法」ということが出来ます。

“対処法”とは、具体的にいうと自己効力感を高めるということがこれに該当します。

自己効力感とは、ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことが出来るかという個人の確信、行動に対する自信の程度を示しています。

要は痛みに対してどのように向き合うかといったことが必要になるのです。

論文等でも疼痛への対峙として自己効力感が挙げられており、さらに破局的思考と自己効力感も関連していることが分かっています。加えて、疼痛と自己効力感の関連も示されていることが分かっています。

自己効力感の評価バッテリーとしてはPain Self Efficacy Questionnaire:PSEQ』といわれるものがあるため、ご興味ある方は調べてみてください。

さて、以上が破局的思考に関する一連の内容です。

もし、少しでも参考になった部分がありましたら明日からの臨床に生かして頂ければ幸いです。

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