【痛みの理解を深める】最新研究が明かす、痛み評価の3つの鍵

痛みは私たちの日常生活において避けられない存在であり、個々人が経験する感覚の違いや痛みの原因の多様性が、痛みの評価を複雑なものにしています。

この記事では、痛みの評価に関する最新の研究をもとに、痛みの入力・処理・出力という3つの要素を分かりやすく解説します。

さらに、痛みの構造評価機能評価の方法を紹介し、痛みを引き起こす外部要因や内部要因についても掘り下げます。

この記事を通して、痛みに対してより効果的なアプローチができるきっかけになれたらと思います。

目次

【痛みの理解を深める】最新研究が明かす、痛み評価の3つの鍵

はじめに、今回参考にした論文はこちらです。

痛みの病態を網羅的に評価するためのフローチャート

以下の図は、痛みに関連する評価方法を整理したフローチャートです。

Measuring pain and nociception: Through the glasses of a computational scientist. Transdisciplinary overview of methods.Kutafina E,2023

まず、痛みの評価方法を大きく2つのカテゴリーに分けていて、それが『構造的評価(structural assessments)』『機能的評価(functional assessments)』です。

構造的評価(structural assessments)に含まれる評価

構造的評価(structural assessments)とは、痛みに関連する組織の特性を評価する方法のことです。

構造的評価では、ある時点での組織の形態や構造に関する情報を調べることが目的となります。例えば、神経線維の損傷具合や、その他の生体構造の変化などが含まれます。

なお、構造的評価に含まれる評価方法は4つです。

①表皮内神経線維密度(IENFD)

Intraepidermal nerve fiber density(IENFD)は、皮膚(表皮)に分布している神経線維の密度を測定する評価方法です。

痛みのある患者では、神経線維の損傷が疑われることから、神経線維の密度を評価することによって、痛みの原因を特定するための構造的要因を明らかにするのに役立ちます。

ただ、現状では表皮内神経線維密度をヒトの痛覚の相関として利用することはできないとも言われています。

②角膜共焦点顕微鏡(CCM)

Corneal confocal microscopy (CCM)は、非侵襲性の生体顕微鏡技術で、角膜の細胞構造を高い解像度で観察することが目的です。

CCMは、神経線維密度や形態の変化を検出することができ、侵害受容器の形態的変化(Cosmo et al., 2022)やパーキンソン病など、他の変性疾患における侵害受容器の変化(Kass-Iliyya et al., 2015)の評価に有効とされています。

とはいえ、IENFD同様に、これらの測定値と痛覚との関連は明確ではありません。

さらに、角膜で得られた知見を身体の他の部位に一般化できるかどうか、またどのように一般化できるかも明らかではないというのが現状の課題です。

③神経超音波検査(Nerve ultrasound)

『Nerve ultrasound』は、高解像度の超音波を使って末梢神経内の個々の神経線維を視覚化する方法で、神経線維の太さなどの構造的変化を調べるために使用されます。

この方法は、痛みを伝達する「細い神経繊維」(nociceptorsを含む)の損傷を評価する際にも役立つとされており現在、神経障害や神経圧迫症候群(例:腱鞘炎)の形態学的変化を検出するために使用されています。

ただし、これまでに誘発痛や持続的な痛みとの直接的な関連性は示されていません。

したがって、nerve ultrasoundは痛みの評価と間接的な関連性があるが直接的な評価には使用されていません。

④脳の構造的磁気共鳴画像(MRI)

脳の構造的磁気共鳴画像(MRI)の目的は、脳の構造的特徴を詳しく調べ、それらが痛みとどのように関連しているかを明らかにすることです。

先生

特に、慢性疼痛患者においては脳構造の変化が報告されその病態の関連性が議論されてるぞ!

評価方法としては、MRIを用いて脳の灰白質の厚さや容量を推定します。

現在、慢性疼痛患者では前頭葉、前帯状皮質、島皮質などの特定の脳領域で灰白質の厚さが減少することが報告されていますが、灰白質の厚さや容量と痛みの知覚、慢性疼痛の発症や維持との正確な関係はまだ明らかではありません。

「構造の変化」と「主観的な痛み」は必ずしも一致しない

ここまで痛みに関連する構造的評価を紹介してきましたが、ここで一つ重要なポイントについて抑えておきます。

重要なポイント、それは「構造的な変化が主観的な痛みと必ずしも一致するわけではない」ということです。

先ほど紹介した4つの構造的評価は、神経や組織の形態学的な変化を調べる手法でしたがこれらの変化が痛みの強さや質に直接関連するわけではありません。

なぜならば、痛みというのは個々人の主観的な経験であり、痛みの『知覚』は後述する感情や注意、ストレスなどの心理的要因にも大きく影響されるからです。

構造的な変化があっても痛みを感じない場合もあるし、逆に構造的な変化がなくても痛みを感じる場合があります。

よって、痛みの評価には構造的評価だけでなく、これからお伝えする『機能的評価』が必要であり、それらを総合的に考慮することが重要になってきます。

『機能的評価(functional assessments)』の流れ

機能的評価は並列で評価がバクっと並んでいるわけではなく、フローになっているので少しその流れを解説していきます。

ちなみに機能的評価は患者様本人が感じている主観的な痛みの経験とより密接に関連していると言われていて、構造的評価よりも臨床的な重要度としては高いです。

Measuring pain and nociception: Through the glasses of a computational scientist. Transdisciplinary overview of methods.Kutafina E,2023

そして、機能的評価で重要なキーワードは今回の記事のタイトルにもあるように「3つの鍵」です。

具体的には「入力→処理→出力」なんですが、以下ではこれを順に見ていきたいと思います。

①input(外部要因と内部要因)を見る

痛みは私たちの日常生活において避けがたい現象ですが、その原因や感じ方には多くの要素が関わっています。そして、痛みの評価には、外部要因内部要因が重要な役割を果たしています。

外部要因(external)

外部要因とは、痛みの評価や知覚に影響を与える刺激のことを指していて、研究者や医師が操作・調整できるものをいいます。

例えば、『刺激のタイプ』や『閾値』、『刺激の時間的な性質(位相的・持続的)』などが該当します。

これらの要素を変化させることで、痛みの知覚や反応が変わります。

先生

上の図を見ると、外部要因(external)の横に赤枠で囲まれているボックスがあるじゃろ。これが外部要因となる因子じゃ。

痛みの外部要因となるもの
  1. 痛みの時間的な性質(property)
    ・phasic(位相的)刺激
    ・tonic(持続的)刺激
  2. 痛みの閾値
    ・Threshold(閾値)
    ・supra-threshold(超閾値)
  3. 痛みの刺激となりうる種類(type)
    ・電気刺激(Electrical)
    ・機械的刺激(mechanical)
    ・化学的刺激(Chemical)
    ・熱刺激(Thermal)

phasic(位相的)刺激とは?

位相的刺激は、短時間で一過性の痛みを引き起こす刺激です。例えば、指を刺すような痛みがこれに当たります。位相的刺激は急激な痛みを引き起こし、身体の反射的な回避反応を促します。研究実験などでは、位相的刺激は急性痛に関連する情報処理や痛みの閾値を評価するために用いられることが多いです。

tonic(持続的)刺激とは?

持続的刺激は、痛みが持続的に続く刺激で、慢性痛や傷害後の痛みに近い状態を模倣します。持続的刺激は回復や治癒を優先させることを目的としています。たとえば、筋肉痛や炎症による痛みがこれに該当します。研究実験では、持続的刺激は慢性痛に関連するメカニズムや痛みの持続性を評価するために用いられます。

なぜこれらが外部要因となるのか?

位相的刺激と持続的刺激は、研究者や医師が操作・調整できる(=外部から操作できる)ため、痛みの知覚や評価を変化させることが可能です。

また、これらの刺激は痛みの閾値や持続性に影響を与え、痛みの性質や強さを変えることがあることから外部要因に分類されるわけです。

Threshold(閾値)とsupra-threshold(超閾値)とは?

Threshold(閾値)は、痛みを感じ始める刺激の強さを指します。刺激が閾値に達すると人は痛みを感じ始めます。一方、supra-threshold(超閾値)は、閾値を超えた刺激の強さを指します。超閾値の刺激は、痛みの強さや持続時間を増加させることがあります。

なぜこれらが外部要因となるのか?

Threshold(閾値)とsupra-threshold(超閾値)が外部要因に分類されるのは、これらが痛みの知覚や評価に直接関与する刺激や環境要因にあたるためです。

Threshold(閾値)やsupra-threshold(超閾値)は外部から操作することが可能で、これにより医者や研究者は痛みのメカニズムを理解し、個々の患者の痛みに対する反応を評価することができます。

内部要因(internal)

内部要因は、個人の痛みに対する反応や状態を規定する要素で、個々の体内で起こる現象です。

これには、遺伝子、年齢、性別、病歴、ストレス、睡眠、栄養状態などが含まれます。内部要因は個人差が大きく、痛みの感じ方や評価に影響を与えます。

先生

この論文の中で述べられている外部要因と内部要因の大きな違いは「外から操作できるかどうか」という点じゃな。基本的に何らかのデバイスを用いて外側から操作可能なのが『外部要因』、遺伝子や年齢など外側から操作できないものが『内部要因』となっているぞ。

重要なのは、痛みの評価や治療において外部要因と内部要因の両方を考慮することです。

「痛み」というのは、外部要因からやってくる『刺激』と内部要因である『個人の状態』という2つの因子が相互作用して知覚される体験です。

よって、痛みを適切に評価するには外部要因となる刺激を調整し、内部要因となる対象者本人の状態に対処することでより効果的な痛みの評価や治療が可能になるとこの研究では述べられています。

そして、まさにこの2つの情報が脳内で統合・処理されるプロセスが『Processing』にあたります。

②脳内で情報が処理される『Processing』

『Processing』のセクションでは、痛みがどのように脳で処理されるかを理解することが目的であり、そのための手段として電気生理学脳内イメージングが用いられることが多いです。

電気生理学は、神経細胞の活動を電気信号として記録し、そのパターンや変化を解析する技術です。

これにより、痛みを感じる際にどのような神経回路が働いているのか、どのような神経伝達物質が関与しているのかを調べることができます。

一方、脳内イメージングはMRIやfMRIなどの技術を用いて、痛みの情報処理が行われている脳の領域やその活動の変化を視覚的に捉えることができます。

これにより、痛みが脳内でどのように処理され、どのような神経回路が関与しているのかをより具体的に把握することができます。

このような研究手法を用いて痛みの情報処理過程を解明することで、痛みの発生や継続に関与する神経機構を理解し、より効果的な治療法や予防策を開発することが可能となるわけですね。

構造評価で行っているMRIと機能的評価のProcessingで記されているMRIは何が違うの?

構造的評価で行われるMRI(磁気共鳴画像法)と機能的評価のProcessingで行われるfMRI(機能的磁気共鳴画像法)は、技術的には同じ磁気共鳴画像法をベースにしていますが、目的と取得する情報が異なります。

  1. 構造的評価のMRI:
    構造的評価のMRIは、主に脳や神経組織の形態や構造を詳細に調べることが目的で、これにより脳の形状や大きさや脳内の神経細胞の配置や密度などの情報を取得できます。痛みと関連する神経構造の変化や損傷を検出する際に役立ちます。
  2. 機能的評価『Processing』におけるfMRI:
    機能的評価のProcessingで行われるfMRIは、脳の活動状態をリアルタイムで観察することが目的です。fMRIは、脳の酸素消費量や血流の変化を捉えることで、特定の課題や刺激に対する脳の反応を視覚化します。これにより、痛みに関連する脳内の情報処理過程や、痛みを感じる際に活性化する脳領域を特定することができます。

要約すると、構造的評価で用いられるMRIは脳の構造や形態を調べるのに用いられ、機能的評価におけるProcessingで用いられるfMRIは脳の活動状態や情報処理過程を調べるのに用いられます。

これらの技術は、それぞれ痛み研究の異なる側面を明らかにするために活用されることが多いものとなっています。

③痛みを現象として捉える『output』

入力、処理ときたら最後は『出力:output』です。

この論文における『output』とは、痛みの主観的な経験を評価・推定するために使用される、自律神経系の反応行動指標自己報告(評価尺度やアンケート)のことを指します。

なぜ、これらが『output』になるのか?

「アウトプット」という言葉が使われる理由は、ここまで解説してきた痛みの評価プロセス全体を入力から出力までの一連の流れとして捉えているからです。

少しここまでの部分もまとめならが解説すると…

痛みの評価には、外部要因や内部要因(入力)が関与します。

外部要因は、刺激の性質や強度など痛みを引き起こす要素のことでしたね。一方内部要因は、個々の生理学的・心理学的特性や状態で、痛みの経験や評価に影響を与えます。

これらの要因が組み合わさり脳内で『処理』され知覚された結果として「痛みの経験」が生じます。

そして、その痛みの経験は、自律神経系の反応、行動指標、自己報告などの形で表れます。

つまり、この現れ方というのが「アウトプット」になるわけです。痛みの評価プロセスにおいて、「アウトプット」は入力や処理がどのように組み合わさって痛みの経験につながるかを示す結果として捉えられています。

先生

それじゃ、アウトプットの定義を抑えた上で、その中に含まれているものを最後にまとめていこうかの。

アウトプットは大きく2種類あります。一つが『physical Assessments』、つまり生理的な部分の評価です。(血圧や心拍数など)

そして、もう一つが『Self-reports and behavioral assessments』であり、これは対象者自身から得る自己申告と行動の評価です。

Measuring pain and nociception: Through the glasses of a computational scientist. Transdisciplinary overview of methods.Kutafina E,2023

評価内容の項目を一部紹介していきますね。

physical Assessments

  1. 血圧:
    痛みの経験は、交感神経系の活性化により血圧の上昇を引き起こすことがあります。よって血圧の変化を測定することで、痛みやストレスに対する身体的反応を評価できます。
  2. 心拍数(心拍数変動):
    痛みが生じると自律神経系が反応し、心拍数が変化することがあります。心拍数の測定は、痛みの強度やストレス反応との関連を評価する目的で用いられます。
  3. 皮膚インピーダンス:
    痛みやストレスが生じると、皮膚の発汗や血流の変化が引き起こされ皮膚の電気的特性に変化が生じます。そのため、皮膚電気活動の測定を行うことで、痛みやストレスに対する自律神経系の反応を評価することができます。
  4. コルチゾール値:
    コルチゾールはストレスに関連するバイオマーカーであり、ウェアラブルデバイスなどを使って測定することで慢性疼痛の状態をモニタリングすることができる可能性があると言われています。

Self-reports and behavioral assessments

痛みの感じ方を評価するための信頼性が高く有効な方法は自己申告のみと言われています。

以下に、代表的な評価方法をいくつか示します。

  1. 痛みの強さを評価:
    痛みの強さを評価する代表的な方法には、『visual analogue scale:VAS』や『numerical rating scale:NRS』があります。
  1. アンケート調査:
    痛みの状態を評価する方法にアンケート調査があります。いくつか例を挙げると、痛みの「質」を評価する際には、『マクギル疼痛質問表』があります。
    そのほか、破局的思考の評価には『Pain Catastrophizing Scale:PCS』、運動恐怖心に対する評価には『Tampa Scale for Kinesiophobia:TSK』があります。
    これら評価の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。

痛み評価のプロセスまとめ

だいぶ長くなりましたが、以上が痛みを適切に評価するために必要な視点とそのプロセスになります。

今回網羅的に解説していきましたが、ここで一つ抑えて頂きたいこと。

それは、正直ここに示したフローチャートの内容全てを理学療法の範囲で行えるわけではありません。

今回解説したフローチャートでいくと、おそらく理学療法士が現場で評価可能なところは内部要因そして、2つのアウトプットくらいではないかと思います。

先生

特に、自己申告による評価が最も現場で行いやすいの!

このように、痛みの病態を網羅的に理解しようと思ったら理学療法士1人ではできることに限界点は必ず出てくるため、だからこそドクターをはじめ他職種との連携が非常に重要になってきます。

知っておきたい項目については、今回解説しているのでぜひ、自分では取れない情報は積極的に質問紙にくよう心がけてみましょう!

セミナー案内

当サイト運営者であるきんたろーが登壇する予定のセミナーのご案内です。

オンライン・オフラインともに登壇予定のセミナーがございますので、ご興味ある方はチェックしてみてください。

きんたろー

主に『臨床推論』と『痛み』、『脳卒中』に関する内容について講義してるよー!

参考文献

1)Measuring pain and nociception: Through the glasses of a computational scientist. Transdisciplinary overview of methods.Kutafina E,2023

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次