痛みと一言でいってもこれには種類があって、それが『急性疼痛』と『慢性疼痛』です。
理学療法士や作業療法士の皆さんがリハビリテーションの現場で臨床を進めていく際には、対象者の方が呈する痛みはどちらの要素が強いのか。
これを、解像度高く紐解いていく必要があります。
そこで今回は臨床上指標となりうる、急性疼痛と慢性疼痛の違いを7つご紹介していきます。
明日からの臨床でこの7つに意識を向けるだけで、より病態解釈が行いやすくなるかと思いますのでぜひ最後までご覧ください。
【痛みのリハビリ】急性疼痛と慢性疼痛の違い7選
詳しくは後述しますが、ひとまず最初に7つ全てを以下に列挙します。
- 原因
- 期間
- メカニズム
- 炎症の有無
- 痛みの種類
- 鎮痛薬
- 意義
以上、この7つです。
それではここからはこの7つを一つずつ解説していきます。
①原因
急性疼痛と慢性疼痛では痛みの原因となる因子やメカニズム(後述)が異なります。
急性疼痛における痛みの原因の多くは、外傷等によって筋肉や骨、靭帯といった組織に何らかの損傷が加わることによって生じることがほとんどです。
つまり、「痛みの原因となる物理的な問題が存在している」という状態ですね。
一方で慢性疼痛の場合はどうかというと、明らかな外傷等がないにも関わらず痛みが続いているケースが多いです。
つまり、「物理的な問題(外傷や骨折など)によって生じるとは限らない」それが慢性疼痛なのです。
②期間
これはあくまで一般論ですが、急性疼痛の期間はおおよそ数日〜数週間までと言われています。
理由としては、炎症がこの期間でおさまってくるというのが一つの根拠です。
一方慢性疼痛の場合は、これも論文によって分かれることがあるんですが多くの場合「3ヶ月以上続く場合」とされています。
よって、痛みを訴える患者様ないしお客様が来院された時、「その痛みがいつから続いているのか」というのは確実に聴取した方が良いです。
③メカニズム
①の原因と多少かぶるのですが、急性疼痛のメカニズムとしては、組織損傷によって生じた侵害刺激が起点となっていることが多いです。
詳しくは、以下痛みの伝導路シリーズでお伝えしていますが、急性疼痛による痛みのスタート地点は炎症などにより侵害受容器が興奮し、そこからAδ線維…という形で痛み情報が脳まで伝達されることで生じます。
一方、慢性疼痛のメカニズムとしては、近年有力視されているのが、末梢神経や中枢神経系による『感作』です。
これはどういう状態かというと、ものすごく簡単に言ったら「神経系が痛みに対して過敏になり痛みを感じやすくなっている状態」です。
この時ポイントなのは①でお伝えしたように、「組織損傷自体は既に治癒しているにも関わらず痛みだけが続くことがある」ということです。
なぜならば、痛みの原因となるものが急性疼痛の時とは異なり神経系に及んでいるからです。
このように急性疼痛と慢性疼痛では痛みの原因となるものがそもそも違うので、(当たり前ですが)そうなると介入も異なリります。
だからこそ、痛みをバクっと一塊で捉えず急性疼痛と慢性疼痛どちらの要素が強いのかを紐解いていく必要があるわけです。
④炎症の有無
これはピンときやすいかもしれませんね。
一般的に急性期というのは炎症を伴っていることがほとんどです。
そのため、理学療法士や作業療法士の皆さん並びに痛みに携わる全てのセラピストの皆さんは炎症徴候があるか否かというのは必ずチェックしておく必要があります。
- 発赤
- 腫脹
- 発熱
- 疼痛
- 機能障害
また炎症に関連して、この患部の炎症徴候のほかにもう一つ見てもらいたいのがあって、それが『血液検査のデータ』です。
その中に『CRP』というのがあるのですが、これは『C反応性蛋白』というもので、身体のなかで炎症が起きているときに血液中で上昇するタンパク質のことを指します。
つまり、この数値が基準値よりも高い値を示している時は、体内で何かしら炎症が生じている可能性があるということを示唆しているわけです。
よって、患部の状態と合わせてこうした客観的なデータにも目を配れるとより病態解釈の精度が高くなると思います。
⑤痛いの種類
これも急性疼痛と慢性疼痛の鑑別を行うときの一つの指標となります。
一般的に急性疼痛は言葉には出来ないほどの激痛が走るケースが多く、慢性疼痛はその後じわじわ痛みが残る遷延痛のような痛みの状態を呈します。
この違いも痛みのメカニズムが両者で異なることで生じる結果なので、ご興味ある方は痛みの伝導路シリーズをご覧ください。
⑥鎮痛薬
痛みがあるときに飲む薬にはロキソニンやバファリン、リリカやサインバルタといった様々な薬がありますが、これらの中で一般的に「痛み止めといえばこれだよね」というものだと何を選ぶでしょうか?
おそらく、多くの方がロキソニンもしくはバファリンあたりが思いつくのではないでしょうか?
実はこの2つの薬、急性疼痛には効く一方で慢性疼痛には著効しないケースというのが結構多いです。
何故、急性疼痛には著効して慢性疼痛には著効しないかわかりますか?
その答えは、先ほどお伝えした急性疼痛&慢性疼痛のメカニズムとロキソニンやバファリンといった鎮痛薬の作用機序にあります。
詳しくは以下で紹介している記事で解説していますが、ロキソニンやバファリンといった鎮痛薬は患部で発生している問題(炎症)を対処するためのお薬なので患部に問題がある急性疼痛には著効する一方、患部での問題が少ない慢性疼痛には著効しにくいのです。
鎮痛薬関連の記事一覧
ただ、慢性疼痛に鎮痛薬が著効しにくいとはいえ、全ての薬が効きにくいわけではありません。
著効しにくいのはあくまでもロキソニンやバファリンといったいわゆるNSAIDs系のお薬で、その他慢性疼痛に対してきちんと効果を発揮する薬というのも存在しています。
よって理学療法士や作業療法士の皆さんが、痛みを患っている方のリハビリテーションを進めていく際には…
- いま現在どのような薬を服薬しているのか確認する
- 服薬している薬が著効しているか否かを確認する
この2点は必ず押さえておきましょう。
小さな情報と感じるかもしれませんが、痛みの病態解釈を行っていく上で投薬情報というのは非常に大きなヒントになります。
⑦意義
最後は、急性疼痛と慢性疼痛の生物学的に意義があるか否かです。
「生物学的に意義がるか否か」とは、要するに「生体にとってその痛みは必要なのかどうか」ということです。
結論を申し上げると、急性疼痛は生体にとってなくてはならない痛みです。
なぜならば、急性疼痛として感じる痛みは自身の身体にとって警告信号だからです。
つまり、「身体に何かやばいことが起きてるよ!」というのを激烈な痛み情報として教えてくれているわけです。
もし、全く痛みを感じなくなるとどうなる。
例えば、「熱湯を触って大火傷を負ったが痛みがないので気にならない」、「骨折しても痛みがないから気づかない」などそんな状態です。
ただ、本人は痛みを感じないので、その結果動き続けてしますといったことが起こります。
では、そうすると患部はどうなるでしょうか?
想像すれば分かると思いますが、当然患部は悪化します。
だからこそ、患部の異常事態を『急性疼痛』に変え警告してもらう必要があるのです。
よって、リハビリテーションの現場において急性疼痛というのは、ある種「あっても問題がない」わけです。
もちろん、慢性化しないよう痛みに対する患者教育等のマネジメントは必要ですが、急性疼痛があるということはまだ患部の炎症が残っていたりするわけですからその期間にガンガン負荷をかけていくというのはナシです。
では、一方の慢性疼痛はというと、これは生体にとってなんの警告信号とはならない、つまり生物学的に特に意義のない(必要のない)痛みになります。
ただ慢性疼痛は生体にとって不必要な痛みにも関わらず、急性疼痛に比べて病態が複雑な分改善するための難易度がとても高いです。
よって、これに対してはきちんと対処できるスキルと知識がリハビリテーションセラピストには求められます。
急性疼痛と慢性疼痛の違いまとめ
以上、急性疼痛と慢性疼痛の違い7選でした。
それでは、今回お伝えしたポイントを改めて一覧にしてまとめましたので、この図を見ながら明日からの臨床に活かして頂けると嬉しいです。
急性疼痛 | 慢性疼痛 | |
原因 | 組織損傷によるもの | 組織損傷治癒後 きっかけは不明 |
期間 | 数日〜数週間 | 3ヶ月以上〜 |
メカニズム | 侵害受容器の興奮 | 末梢・中枢神経系の感作など |
炎症 | あり | なし |
痛みの種類 | 激痛 | 遷延痛 |
鎮痛薬 | 著効する場合が多い | 著効しない場合が多い |
意義 | 生体への警告信号(必要) | 生物学的意義はない(不必要) |
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