この記事では、日本と海外の理学療法士制度の違いについてまとめています。
海外の理学療法に興味がある方はぜひ最後までご覧ください。
【海外は開業できる!?】日本と世界の理学療法制度の違いを一覧で解説
世界理学療法士連盟とは
各国の理学療法士制度を解説していく前に、一旦少し抽象度の高い話しをします。
日本に、『日本理学療法士協会』という国内の理学療法士の皆さんが所属する団体があるように世界規模で見てもこういった団体があります。
それが、世界理学療法士連盟(world confederation for physical therapist:WCPT)です。
世界理学療法士連盟は1951年に11カ国の参加により設立された国際的非営利組織です。
2022年時点において、125の国や地域の理学療法士組織が加盟しています。
日本も1972年に加盟していて、日本理学療法士協会はアジア西太平洋地区に所属しておるぞ。
世界理学療法士連盟って何をしているの?
世界理学療法士連盟が掲げるビジョンは、「理学療法を発展させられることによって、理学療法士が健康と福祉改善に重要な役割をになっていると世界的に認識されること」としています。
そして、活動するにあたって以下6つのミッションを掲げています。
- 専門職として国際的に団結すること
- 国際的に理学療法士や理学療法という名称を示すこと
- 高水準な理学療法・教育・研究の実践
- コミュニケーションと情報共有の促進
- 国内ならびに国際的組織との協働
- グローバル・ヘルス改善への貢献
世界の理学療法士制度
それでは、本日の本題である日本と世界の理学療法制度の違いについて、以下3つの点について各国の違いを見ていきたいと思います。
- 理学療法士学生の教育期間
- 開業権の有無
- ダイレクトアクセスの有無
ダイレクトアクセスというのは、患者自身が理学療法士のところへ行き評価や治療を受けられるシステムのことです。
要するに、「患者様自身が理学療法士を選べる」ということですね。
日本の理学療法
①教育期間
日本の理学療法士養成校における教育期間は現在のところ3年または4年です。
ただ最近は、4年制にしていこうとする声が大きくなっているので、今後養成校は4年制が主流になっていくのではないかと考えられます。
②開業権
日本の理学療法士制度において、開業権はありません。
これについては、理学療法士及び作業療法士法でも定められている通り理学療法及び作業療法は「医師の指示の下」でなければ実施できないからです。
「理学療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者をいう。
理学療法士及び作業療法士法.第一章総則 第二条より引用
③ダイレクトアクセス
日本の理学療法においてダイレクトアクセスはできません。
要するに、患者様が特定の理学療法士を選んで評価や治療を受けるということは原則できないということですね。
先ほどの記載した理学療法士及び作業療法士法で示しているように、『理学療法』サービスを受ける際は、原則としてドクターからの診断をもらわなければなりません。
イギリスの理学療法
①教育期間
イギリスの理学療法士学生の教育期間は3年制です。
3年制であるため、カリキュラムに一般教育科目(教養科目)はなく、基礎医学や一般臨床医学、理学療法専門科目(呼吸循環器、神経理学療法など)が大部分である。
ちなみに、臨床実習は1000時間以上を満たす必要があるとされています。
②開業権
イギリスの理学療法士は開業権が認められていて、クリニックを立ち上げることができます。
開業するための実務経験や免許に関する具体的な規定はなく、政府機関であるhealth professions councilに登録するだけでOKとされています。
報酬体系は、『自費診療』もしくは『民間保険』の2つが適応されます。
ただし、イギリスにも日本でいう国民健康保険サービスがあり、こういった公的医療サービスを提供している会社がクリニックを買収するケースがあるようです。
そうなった場合には、クリニックで提供されるサービスも保険診療となります。
③ダイレクトアクセス
イギリスは1978年からダイレクトアクセスが認められていて、医師の処方箋がなくても理学療法士が判断して理学療法サービスを提供することが可能です。
開業権もあり、かつダイレクトアクセスも可能ということは日本でいう開業医のようなスタンスということです。
後述しますが、オーストラリアもこうしたポジションになります。
イギリスでは、2014年から必要な研修を修了した理学療法士は、一部薬を処方したり、注射を行うことができるんじゃ。
フランスの理学療法
①教育期間
フランスの理学療法士学生の教育期間は4年制です。
フランスは少し特殊で、理学療法士になるためには高校卒業後、医学部などで基礎医学を一年間学び、その後に理学療法士養成校の試験を受ける形になります。
フランスで理学療法士の国家資格を取得すると、国内だけでなくヨーロッパ圏内の国々でも使えるんじゃ。
※国によっては試験を受ける必要がある
②開業権
フランスの理学療法士には開業権があります。
実際、有資格者の約75%が個人で理学療法を提供しているそうです。
③ダイレクトアクセス
イギリスでは、ダイレクトアクセスは認められていません。
ん?開業権はあるのにダイレクトアクセスは認められていないの?
そうなんです。
つまり、開業してもOKだがその場合一旦医師からの処方が必要になるということですね。
分かりやすく説明すると、日本の場合例えば整形外科クリニックで医師が処方箋を出すと、その中に理学療法士が在中していて保険診療で理学療法が提供されるという流れになっています。
しかし、フランスの場合は病院またはクリニックで医師が理学療法の処方箋を出したら、個人で営んでいる理学療法士のもとへそれがつながっていく。という形になるわけです。(医療保険もしくは自費診療で)
オーストラリアの理学療法
①教育期間
オーストラリアと日本で理学療法士の免許を取得する際の大きな違い。
それは、オーストラリアでは「国家試験がない」ということです。
オーストラリアは、理学療法学科のある4年制の大学を卒業すると理学療法士免許がもらえます。よって試験は学内で行われる定期試験のみです。
もう一つ大きな違いとしては、オーストラリアは実習に要する時間がめちゃめちゃ長いということです。
オーストラリアは『実践』にすごく重点を置く文化があるようで、臨床実習に要する時間はトータル1,000時間以上と教育期間の約40%を占めます。
実習体系も、日本では実習地によってどんな内容を学ぶかが分かれますが、オーストラリアでは筋骨格系はもちろん、神経系、呼吸循環器、小児に関する実習を網羅的に行います。
加えて、このような実践を大事にする文化は教育内容にも現れていて、一年生の頃からケーススタディを使った講義を実施しているようです。
オーストラリアでは、一年生の時点で各領域の理学療法士に講義をしてもらい、将来働く理学療法士のイメージを広げているのじゃ。
②開業権
オーストラリアの理学療法士には開業権があり、その数もかなり多いとされています。
特徴としては、開業した理学療法士は開業医と同じ建物もしくは近隣で営業している場合が多く、患者様について医師と常にコミュニケーションを取れるような形を取っています。
③ダイレクトアクセス
フランスは、開業権はあるもののダイレクトアクセスができなかったので一度医師を介するという工程を踏まなければなりませんでした。
しかし、オーストラリアは開業権もあるし、ダイレクトアクセスも可能な稀有な国です。
つまり、もう純粋に患者様が「受けたい理学療法を選ぶことができる」という状態です。
日本でいうと、開業したクリニックを自分で選ぶことができるのと同じ感じですね。
だからこそ、オーストラリアでは理学療法診断が非常に重要とされていて、そのためクリニカルリーズニングが体系化されそれを学ぶことを必須としています。
同時に、開業に伴う法律的な内容はもちろん、倫理や社会的立場といった理学療法以外のことについても教育段階でしっかり学びます。
韓国の理学療法
①教育期間
韓国の理学療法士学生の教育期間は3年もしくは4年制です。
日本との大きな違いはそのカリキュラムで、韓国では漢医学や針灸学といった学問を履修できる養成校があります。
②開業権
韓国では、理学療法士が開業することは認められていません。
また、韓国では理学療法の名称独占はもちろんですが、業務独占も有しています。
つまり、理学療法の行為そのものがかなり厳重に守られているという部分が日本とは大きな違いかと思います。
③ダイレクトアクセス
韓国では、ダイレクトアクセスが認められていません。
つまり、患者様が理学療法を受けるためには医師の処方箋がなければならないということです。
韓国の理学療法士制度は『業務独占の有無』を除けば日本とかなり類似する点が多いのが特徴です。
世界の理学療法制度まとめ
日本 | イギリス | フランス | オーストラリア | 韓国 | |
教育期間 | 3.4年 | 3年 | 4年 | 4年 | 3.4年 |
開業権 | なし | あり | あり | あり | なし |
ダイレクトアクセス | なし | あり | なし | あり | なし |
こうして見ていくと、意外と海外では開業権が認められている理学療法士が多いんじゃな。
参考文献
1)理学法概論〜課題・動画を使ってエッセンスを学びとる (PT・OTビジュアルテキスト)〜
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