脳卒中後に生じる痛み~脳卒中後中枢性疼痛(central poststroke pain:CPSP)~

脳卒中後に生じる疼痛。

脳血管疾患患者様のリハビリテーションに携わる療法士の方の中には、一度はこのような症状を患う患者様のリハビリテーションを行った経験があるのではないでしょうか?

かくいう僕自身は、以前回復期病院に勤務していた時に何度か経験したことがありますが、その時の印象としては‟とても難渋しやすい”というのが強く残っています。

その理由の一つとしては、鎮痛薬が効かないというのが挙げられ、よく当時の患者様が述べていたのが、『リリカが効かないんだよね』でした。

今回は、この脳卒中後に発生する痛みについてを掘り下げ、これからこの症状に対して少しでも前向きにリハビリを進められるよう一つのヒントになればと思っています。

目次

脳卒中後に生じる痛み~脳卒中後中枢性疼痛(central poststroke pain:CPSP)~

脳卒中後中枢性疼痛(CPSP)とは?

脳卒中後中枢性疼痛(Central Post Stroke Pain:CPSP)

これは脳卒中後、体性感覚神経系の病変によって生じる神経障害性疼痛の総称をいいます。

はじめてCPSPを報告した人物はDejerineとRoussy。

病変としては主に『視床』を挙げていて、いわゆる視床痛がこれに当たると言われています。

しかし、実際には同部位だけでなく体性感覚に関わる領域の障害で生じることが分かっているため、視床以外の病変でも生じることが分かっています。

CPSPの発生頻度は?

CPSPの発生頻度は、脳卒中罹患患者の1~12%と言われています。数字だけ見ると、「あれ、意外と少ないんだ。」と思われるかもしれません。

しかし、臨床上純粋なCPSPの正確な有病率は他の痛みとの区別が難しいと言われています。(Klit.2009)

ここでいう、『他の痛み』というのは、CPSP以外の痛みの事を指していて以下にKlitらが示した脳卒中後に生じる痛みの原因を挙げます。

Central post-stroke pain: clinical characteristics, pathophysiology, and management.klit.2011より引用

この図を見て分かるように、脳卒中後の疼痛の原因として最も多いのは『筋骨格系の疼痛』であり、次いで『肩の痛み』、純粋なCPSP(いわゆる視床痛)というのは10%程度であることが分かります。

統計学的な数字で「脳卒中後の痛み」を捉えるとやや少なく感じますが、実際の臨床では「結構多いぞ」と感じるこのズレはここからきています。

さて、ここでのポイントとしては、この複数の円が被さっているという点です。

つまり、臨床上は痛みの原因が沢山かぶっているというのが現状で、ここが脳卒中後の疼痛において難渋するポイントの一つであると言えます。

これを裏付ける事実として、Oliveiraらが行った研究にて、CPSP患者の2/3以上で筋筋膜性疼痛症候群が共存していることが分かりました。

ちなみに、この研究では『CPSP患者における筋筋膜疼痛症候群の影響を受けやすい筋肉』というにを示しており、いくつもありましたがここでは上位3つを挙げます。

ちなみに、被験者は40人です。

順位影響を受けやすい筋肉影響を受ける確率
第1位僧帽筋50%
第2位棘上筋
腰部傍脊柱筋
30%
第3位頚板状筋25%

このように、本来CPSP単体だけをとっても治療が難しいことに加え、その他の要因も絡まってくることにより、脳卒中後の痛みはさらに病態が複雑になるのです。

CPSPはどれくらいで発症するの?

多くの先行研究から、CPSPは概ね脳卒中発症から3ヶ月以内に発症することが分かっています。

つまり、急性期もしくは回復期にお勤めの療法士の方であれば遭遇する確率が極めて高いと言えます。

CPSPの痛みの種類と部位は?

CPSPの痛みの種類は、以下のような言語表現がみられるのが特徴とされています。

  • 焼けるような
  • うずく
  • 凍てつくような
  • 痺れるような
  • 刺されるような

また、筋筋膜性疼痛症候群を含まない、純粋なCPSPが生じた場合の痛みの部位としては被殻病変では『下肢』が多く、視床病変では『上肢』が多いとされています。(細見.2018)

CPSPの治療

CPSPの治療は、神経障害性疼痛と同様最初は薬物療法から進められることが多いですが、効果が得られない場合は脳深部刺激療法(DBS)、一次運動野電気刺激療法(EMCS)、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)、脊髄刺激療法(SCS)などが用いられることが多いようです。

CPSPまとめ

以上が現在、脳卒中後中枢性疼痛(CPSP)に関して明らかになっていることです。

今回、CPSPの痛みの性状や他の痛みとの関係性を主に述べてきましたが、CPSPのメカニズムに関しては言及できておりません。

これに関しては、僕自身まだまだ勉強不足なため今後まとまり次第書いていこうと思います。

ただ、一つCPSPの病態メカニズムとして『中枢性感作』が考えられており、それについてはこちらに書いていますのでもし良ければ参考にしていただければ幸いです。

参考文献一覧

1)Central post-stroke pain: clinical characteristics, pathophysiology, and management.klit.2011

2)Central poststroke pain: somatosensory abnormalities and the presence of associated myofascial pain syndrome.Oliveira.2012

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