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脳卒中における股関節前面痛の発生メカニズム

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きんたろー
こんにちわ!理学療法士のきんたろー(@kintaroblog)です!

脳卒中片麻痺患者様に多くみられる現象の一つである股関節前面の痛み

療法士のみなさんも、一度は臨床で経験したことのある現象の一つではないでしょうか。

今回は、脳卒中片麻痺患者様にみられる股関節(特に前面)の痛みのメカニズムを、千里リハビリテーション病院の吉尾雅春先生の論文を参考に紐解いていきたいと思います。

脳卒中における股関節前面痛のメカニズム

真の股関節屈曲角度とは

さていきなりですが質問です。

股関節屈曲角度の参考可動域って何度でしょう。

A.120°

大多数の方が養成校時代から、このように教わってきたのではないでしょうか。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこの角度というのは骨盤の動きも含めた可動域です。

吉尾先生は解剖遺体にて、股関節運動を研究しておりその結果、本来骨盤の動きを含めずに純粋に股関節を屈曲した場合の可動域というのは70°だったそうです。このような、骨盤の動きを含めない純粋な股関節のみの角度を“寛骨大腿関節”といいます。

ただ、股関節周囲というのは多くの軟部組織に覆われており、この軟部組織の影響によって多少角度に変化が出るため、これらの要素を加えるとヒトの股関節屈曲運動は平均93°とされています。

つまり、真の股関節屈曲角度というのは約90°なのです。この角度以上股関節を屈曲していくと何が起きてくるかというと…

➪骨盤が後傾していきます。

 

『セラピストのための解剖学~根本から治療に携わるために必要な知識~ 吉尾雅春』より引用

 

僕達が普段、股関節を120°くらい屈曲できるのは股関節屈曲が生じることに伴って骨盤が後傾してくれるからです。骨盤がきちんと動いてくれるので、いわゆる参考可動域とされる120°まで屈曲することが出来るのです。

股関節屈曲とインピンジメント

さて、ではもしも骨盤の動きを伴わずに股関節のみが屈曲したらどうなるでしょうか。実は、ここに脳卒中片麻痺患者様の股関節痛のヒントがあります。

骨盤後傾が行えない状態で、股関節のみが93°以上屈曲してしまうとどうなるか。

以下の図でイメージしてもらえばと思うのですが…

『セラピストのための解剖学~根本から治療に携わるために必要な知識~ 吉尾雅春』より引用

 

この場合、下前腸骨棘と大腿骨がぶつかる人とそうでない人がいる事が遺体解剖で分かったそうです。ただ、ぶつからない人でもその隙間は1cmほどだそうで、その間に存在する組織(大腿直筋…etc)というのは、挟み込まれてしまう現象(インピンジメント)が生じます。

これこそが股関節前面の痛みの一つの原因であると吉尾先生は述べられています。なんと、脳卒中の方は3人に1人はこの部位に炎症が生じているそうです。

なぜ、脳卒中でインピンジメントが生じるのか

先ほどまでの内容を少しまとめると…

➪股関節前面にインピンジメントが生じるのは骨盤が後傾しない場合である。

➪脳卒中片麻痺患者様はインピンジメントにより3人に1人は炎症が生じている。

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すごくざっくりですがこのようになるのではないかと思います。この2つを結びつけると、結論としてこのように考えることが出来ます。

➪脳卒中片麻痺患者様は股関節屈曲に伴う骨盤後傾が生じない。だからその結果インピンジメントが生じ痛みを惹起する。

とくると、次に出てくる疑問。

なぜ、脳卒中片麻痺患者様は股関節屈曲に伴い骨盤が後傾しないのか

ここについて考えてみようと思います。

骨盤を動かすシステム

脳卒中片麻痺患者様では股関節屈曲運動に伴う骨盤後傾が生じない。「なぜなのか」というところですが、そのためにはまず骨盤が動くシステムを知る必要があります。

結論からいうと、この股関節屈曲運動に伴う骨盤後傾という動きは“網様体脊髄路”によりなされていると考えられています。

※網様体脊髄路の詳しい機能についてはこちらの記事へどうぞ

網様体脊髄路は主に四肢近位筋を支配しているため、股関節などの四肢運動に合わせて骨盤の動きを作り出したりする作用を持っています。

と、考えるとです。
網様体脊髄路が働かない状況になると骨盤は動かない可能性が高くなります。

そして、網様体脊髄路が働かなくなる疾患といえば…
そうです。つまり、脳卒中(特に急性期)がこれに当てはまるわけです。

セラピストがつくりだしている痛み

【リスク①】ROM訓練

これまで述べてきたように、本来股関節が約90°以上屈曲する際は必ず骨盤の動き(後傾)が伴なっていなければなりません。このように考えた上で少し臨床を振り返ってみましょう。

実は、僕達セラピストがこの痛みをつくりだしてしまっているケースがあります。

脳卒中の特に急性期の患者様のリハビリテーションに関わる場合、当然先ほど述べた網様体脊髄路などの神経系というのは障害されているわけです。

そのため股関節運動に伴った骨盤の動きなんて出てくれないわけですが、ROM訓練を行う際にそれらを無視しして、深屈曲してしまうと股関節前面でインピンジメントが生じてしまいます。

特に急性期は筋自体も弛緩性のため尚更このリスクは高くなりそうです。

【リスク②】座位姿勢

脳卒中後リハの一般的?な考えとして【早期離床】がありますが、この際の注意点として“座位姿勢”が挙げられます。特に目をつけなければならない点は“座面の高さ”です。

その理由は座るベッドや椅子の座面が低い場合、股関節の屈曲角度が大きくなるからです。

物理的環境(低い座面)により股関節屈曲角度は大きくなっていくにも関わらず、骨盤は後傾しないとなると、それにより股関節前面にはインピンジメントが生じます。

そのため、患者様にベッドから離床していただく場合などは必ずベッドの高さを調節し、股関節が深屈曲しないよう気をつけなければなりません。

最後に

さて、以上が脳卒中片麻痺患者様に生じる股関節痛の一つの原因となります。股関節と骨盤の運動学の知識が必要とされる内容でした。

脳卒中片麻痺患者様の股関節の痛みは臨床で見かけることがある現象ですが一番大切なのは、その原因をつくりだしているのはもしかしたら僕達セラピストかもしれないということです。よって、そのリスクの意識は常に持っておかなければならないというのが、この吉尾先生の論文から学ぶことが出来ます。

これから脳卒中の方のリハビリテーションに関わる方は、ぜひ気をつけたいところです。

おまけ

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