身体所有感の惹起に『聴覚』が利用できたケース

きんたろー
こんにちは!理学療法士のきんたろーです。

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『身体所有感』

日々リハビリテーションの現場で働く皆さん、この言葉を聞いたことがあるでしょうか?

『身体所有感』の定義としては…「見ている身体を自分の身体の一部であると感じる」こととされています。

要は、物理的な自分の身体に対して帰属意識があることを『身体所有感』といい、この帰属意識がなくなった状態、つまり『自分の身体が自分のものではないような感じがする』という状態を『身体所有感の喪失』と言います。

実はリハビリテーション場面において、このように自分自身の身体に対して身体所有感が喪失しているケースがあります。多くの場合、このような症例さんというのは…

患者様

(自分の手が)他人の手のような気がする

人形の手足が引っ付いているような感じがする

自分の身体じゃない

といった発言が聞かれます。

そこで今回は、身体所有感の喪失から惹起に至まで、私きんたろーが経験した実際の臨床をお伝えしていこうと思います。

ここで解説する内容が、みなさんの明日の臨床の一助になれば幸いです。

身体所有感の惹起に『聴覚』が利用できたケース

身体所有感惹起のメカニズム

身体所有感が惹起するメカニズムを簡単におさらいすると…

一般的には『異種感覚(視覚+体性感覚)が“時間的”そして“空間的”に同期することで生じる。』と言われています。

身体所有感の基盤は、視覚や触覚などの異種感覚の統合により起きる

リハビリテーションのための脳・神経科学入門 改訂第2版

※『身体所有感のメカニズム』に関する詳細な解説記事はこちら

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身体所有感の惹起に関して有名な実験として『ラバーハンド錯覚』というのがあり、これは『視覚情報』と『触覚刺激』を同期して与え続けると、模型の腕に対して身体所有感が生まれるというものです。

このように、これまで身体所有感の惹起には『体性感覚』と『視覚』というのが一つ大きな重要ファクターとなっています。

身体所有感が喪失していた症例

ケースの概要

ここまでを踏まえた上で、これから実際のケースについて見ていきたいと思います。

今回紹介するケースは脳卒中を患った方で、出会ったのは発症から約3週間目くらいの頃でした。併設している急性期病棟から転棟し、当時回復期病棟に勤務していた僕が担当することになりました。

最初の方は、まだまだ高次脳機能障害も著明に出ており身体機能に関しても全介助レベルでした。 しかし経過とともにパフォーマンスは徐々に上がり最終的にはT字杖で歩行が自立するレベルまで回復したのですが、一方で取り残されるようにある症状(といっていいのか)が残存していたのです。

それが、今回のテーマである『身体所有感』です。

この方は介入当初から…

患者様

・寝ていると自分の体がどこにあるか分からない…

・自分の足じゃないような感じがする

というような発言が頻繁に聞かれていたのですが、当時の僕は 「身体機能が回復してくればこれも改善してくるだろう」 と考えていました。

しかし、これが大誤算だったのです。というのも、自分の想像とは裏腹に運動機能が回復すればするほど身体所有感の喪失が強くなっていくことが本人の発言から読み取れたからです。

なぜ、パフォーマンスが上がっているにも関わらず身体所有感の問題は取り残されてしまったのか?

その理由(仮説)としては、目で見えている自分の体は少しずつ動いてきて回復が図れているにも関わらず、“感じている自分の体(感覚障害)”はまだそれに追いついてこず置いてけぼりになってしまった結果、『視覚』と『体性感覚』にどんどん乖離が生まれてきたのではないだろうかと考察しました。

客観的には良くなっても本人の“良くなった感”が生まれない

なぜ、今回『身体所有感』に焦点を当てた記事を書こうと思ったのか。

理由は、脳卒中後のリハビリテーションを進めていく上で本ケースで非常に大きな学びがあったからです。

それは…「いくら運動機能が回復していこうと、それを本人が体感できる状態でなければ満足度は上がりにくい」ということです。

おそらく、みなさんの中でもこのような経験って少なからずあると思うのですが、リハビリを行っている最中にセラピスト的には、以前に比べてかなりパフォーマンスが向上しているので「◯◯さん!かなり良くなりましたね!」と声を掛けると、当の本人は「は、、、はあ(そうなんですか…)」というように、なんとなくピンときていない。みたいなことです。

これが、僕自身臨床を行っていく中で一つの大きな壁となっていて、この背景にあった問題こそが今回のテーマである『身体所有感』や、よくこの言葉とセットで扱われる『運動主体感』ではないかと感じています。

『身体所有感』や『運動主体感』は客観的な数値で測ることが困難であることに加え、セラピストが外側から見て「良くなったor良くなっていない」を判断することも難しいです。

なぜならば、これらは本人の中で生じる“体験”だからです。

しかし、“良くなった感”を得るためには、外部から見てわかるパフォーマンスの側面に加え、本人が体験している一人称の世界、ここをクリアしていかないといけないというのもまた大切な事実であると僕は思っています。

だからこそ、私たちセラピストは『目に見える客観的に評価しやすい運動機能』だけではなく、目には見えない『身体所有感』や『運動主体感』といったものの理解も深めていく必要があるのです。

どのようにして身体所有感を惹起したのか?

では、本ケースのように身体所有感が喪失している患者様に対してどのような方法を用いて改善を図っていったのか。

以降は、実際の方法論も交えながら解説していきたいと思います。

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