【療法士必見】感覚障害に対するリハビリテーション戦略

目次

感覚障害に対するリハビリテーション戦略

『運動』と『感覚』

この両者は人の円滑な運動生成にとって切り離せない関係性にあります。

あらゆる論文などにもこの事は言及されていて、リハビリテーションの中でも広く周知されてきています。

ベルンシュタインは運動の自由度について、このように述べています。

膨大な自由度(運動)を得るためには、それに応じるだけの感覚による調整が必要となる。

このように私達が普段意識することなく、当たり前のように遂行できている運動も身体内部でこの『運動』と『感覚』の歯車がきれいにかみ合ってくれているから実現できてると考えられています。

しかし一度、脳卒中などにより中枢神経系に障害が生じると、たちまちこの『運動』と『感覚』の歯車が崩れ、当たり前のようにできていた円滑な運動にストップがかかってしまいます。

そのため、この‟運動感覚連関(motor-sensory loop)”に障害をきたした場合のリハビリテーション戦略の一つとして、『感覚入力』に主眼を置き、円滑化されない運動出力に対して適切な感覚フィードバックが得られるよう介入されているセラピストの方って多いのではないかと思います。

しかし、実際『感覚』と言うのは、身体やその周囲に常に存在していて姿勢や動作が変化するたび、それに伴い受け取る感覚情報も常に変化します。

そのためリハビリテーションにおいては、患者様がどのように感覚情報を受け取るかによって表出される運動の質も大きく変化していくことが考えられます。

では、運動と感覚には一体どのような関係があるのか。今回はその点について解説していきます。

『運動』と『感覚』の神経学的な背景

先程、『患者様がどのように感覚情報を受け取るかによって表出される運動の質も大きく変化する』と述べましたが、これについての根拠を神経学的な部分から解説してみようと思います。

神経学的に、運動野と体性感覚野はつながりがあり、以下の図のように表されます。

A-1

『リハビリテーション臨床のための脳科学 富永ら』より引用※一部改変

A-2

実はA-1の図を見ると分かるように、大脳皮質にある体性感覚の3野と運動野の4野には直接的な機能連結はなく、運動野との機能的連結は体性感覚野の1野・2野からとされています。

加えて、A-2にあるように体性感覚野というのは3野→1野→2野(一次体性感覚野)というような階層性が存在ており、その後5野→7野→39野→40野へと続きます。

では、3野と1野2野の大きな違いは何なのか。

それが“注意機能”です。

3野は注意を要しませんが(無意識でも筋や皮膚からの感覚情報は入り続けている)、1野と2野からは注意機能を要するので、筋や皮膚から入り続けているあらゆる感覚情報に注意を向けたもののみにフォーカスし感覚情報に対して選択性を持ちます。

つまり患者様自身が感覚情報にどのように注意を向けるかで、運動変換の質に関わってくると考えられます。

一旦ここまでをまとめると…
  • 体性感覚野には階層性処理がある(3野➪1野➪2野➪39野➪40野)
  • 運動野(第4野)と機能連結があるのは体性感覚野の1・2野から
  • 3野と1野・2野の大きな違いは“注意機能”であるか否か
  • 能動的に注意を向けた感覚機能が運動野と結びつき運動に変換される

無意識、つまり身体運動の生成にとって不必要な感覚情報は脊髄レベルでシャットアウトされるか(シナプス前抑制)、体性感覚野の中でも高次に上らず、運動に変換されないのではないかという仮説が立てられます。

『不必要な感覚情報は脊髄レベルでシャットアウトされる』について解説している記事はこちら

つまり、これら神経学的な背景を踏まえて考えると、臨床において『感覚入力』をするというのは、患者様がどのようにその感覚情報を受け取ったかによって運動の質自体も大きく変化していくことになるのではないかと思います。

さて、ではここからはこれまでの内容を踏まえた上で、実際に感覚障害に対するリハビリテーションについて解説していこうと思います。

※今回ご紹介する方法論は、体性感覚障害を他の感覚モダリティを用いて機能を代償する治療介入です。

感覚障害のリハビリテーションの実際

感覚モダリティを装具で補う

感覚障害を有する“”先天性無痛症”、“四肢切断”患者に対し『感覚入力』を目的として介入し、その際に、欠落した『感覚機能』を補うために筆者らは『感覚モダリティ変換装具』を開発しました。

ちなみに、こちらの教科書の内容から引用してます。

身体性システムとリハビリテーションの科学 運動制御

a)システム工学の視点からみた『感覚障害』

システム工学の視点から『感覚障害』を捉えると下のような図で表すことが出来るようです。

身体性システムとリハビリテーションの科学 運動制御より引用

b)感覚モダリティ変換装具

欠損した『感覚機能』を装具によって補うことで、運動感覚連関(motor-sensory)を解消していくという考え方です。

身体性システムとリハビリテーションの科学 運動制御より引用

その為に開発されたのが『Auditory Foot』といわれる装具で、この装具は歩行中の感覚機能を補う役割として、『音情報』を用いています。

歩くたびに、足底に生じる圧感覚の情報を音(聴覚)情報に変換して、身体内部にバイオフィードバックするのです。

そこで実際にこの装具を利用して、感覚障害を有する患者を対象に歩行のリハビリを実施し効果を検討しました。

足底圧感覚を『音』に変換した理由

歩行において足底圧感覚情報を『音情報』に変換した理由ですが、これは主に『視覚』と比較して検討されているので紹介します。

①視覚情報より時間解像度が高い

解像度とは密度の事です。

一歩行周期およそ一秒程度で、運動中の各イベント(接地、離地など)のタイミングが重要となる歩行においては、解像度が高いというのは有用な感覚モダリティになります。

②視覚フィードバックは運動中の姿勢を拘束する要因となる。

歩行中にモニターを見て視覚フィードバックを行う場合、視覚がモニターから外せないので運動中の姿勢を拘束する要因となります。

本来、歩行中の視覚の役割というのは、安全確保など周囲の環境や状況を把握し運動変換する役割がありますが、歩行に視覚フィードバックを用いると、本来必要なこの機能を制限してしまう可能性があるのです。

③運動学習において、視覚よりも聴覚の方が学習効果が高い

聴覚フィードバックは、視覚フィードバックに比べてより自律的で長期的な運動学習効果を生むことが分かっています。

以上3つの理由から、歩行中の感覚フィードバックに視覚ではなく聴覚情報を用いました。

『Auditory Foot』を用いた介入研究

研究詳細
  • 対象
    片麻痺患者7名(男性6名、女性1名)
  • 結果
    ①立脚期中における麻痺側の股関節最大伸展角度
    ②立脚期中における麻痺側の足関節最大底屈モーメント
    以上2点に有意差を認めた

感覚障害のリハビリテーションまとめ

以上が感覚障害に対するリハビリテーションの一側面になります。

  • 体性感覚そのものに対してアプローチする場合
  • 体性感覚以外のモダリティで代償する場合

今日は後者のパターンからの介入をお伝えさせて頂きました。

感覚障害を有する患者様というのは世の中にたくさんいるので、この他にも有効な治験が見つかり次第随時更新して行きます。

感覚障害に関するおすすめ書籍のご紹介

最後に、この記事で引用させていただいた書籍を一覧でご紹介させて頂きます。

本文中にある、①体性感覚野と運動野の機能連結、②体性感覚野の階層処理に関する内容はこの2冊を参考にさせて頂きました。

リハビリテーション臨床のための脳科学〜運動麻痺治療のポイント〜

リハビリテーションのための脳・神経科学入門

『Auditory Foot』を用いた感覚障害に対する介入について参考にさせて頂いた書籍はこちらです。

身体性システムとリハビリテーションの科学 運動制御

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次